選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2020.10 Monthly Best Songs

2020年10月にリリースされた曲・アルバム/EPから特に良かった10曲を選びました。
君島大空とか(sic)boyとか、BRING ME THE HORIZONとか聴いていて、今自分が求めている音楽の一つはラウドだなと思いました。

  • Songs


10:尾崎裕哉 feat.大比良瑞希「つかめるまで」

シンガーソングライターの尾崎裕哉が1stフルアルバム『Golden Hour』より、大比良瑞希をフィーチャリングに迎えた1曲。
今回名前を初めて知ったアーティストなので、インタビューとかを読んでいて知ったのだが、父はあの尾崎豊であり、また小袋成彬率いるTokyo Recordingsにて、別名義「Capeson」として、これまでも活躍している。この文脈の中で生み出される音楽は良いに決まっているだろう。

この曲が面白いと思ったのは、トラックはギター、ドラム、ベースそれぞれが、小気味良く、一定のリズムで、同じような展開を奏で続ける中で、尾崎裕哉・大比良瑞希の歌も、淡々と、そして平坦に進んでいくところに、諦念のような感覚を覚えたからだ。 リリックも、結構しんどいこと、しかし現実を、正直に紡いでいる。

それでも、ただしんどさを吐き出す曲では決してない。しんどい中で、それでも希望を見出すためには、ひたすらに愚直にやるしかないよね、ということが、音像含めて、真に迫るように表現されているような気がして、グッと来た。こういう表現の仕方は、自分や尾崎裕哉、大比良瑞希も含めて、1990年周辺に生まれた、この世代観を貫くものなのかもしれない。これが、今後何処に繋がっていくのか、自分自身も楽しみだ。

remarkable point:終始貫く"平坦さ"の中から感じ取れる、情熱。

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natalie.mu

9:lyrical school「Bright Ride」

最近自分がイチオシのヒップホップアイドルの配信リリースより。この曲は、RIP SLYMEPESの全面的プロデュースであり、作詞・作曲・編曲を手掛けている。PESリリスクの曲を手掛けるのは、2019年の"Tokyo Burning"以来となる。

"Tokyo Burning"の時も、リリスクの新機軸を打ち出したプロデュースとなっていたと思うが、今作もリリスクのまた違った一面を表現している曲に仕上がっていると思う。 まず、アートワークも含めて、とにかく浮遊感が強く打ち出されている。イントロの八分で刻まれたベース音は、なんだか宇宙感あるし、そこから繋がるシンセ音や薄っすらとエフェクトがかかったyuuとrisanoによるイントロは、まさに浮遊感を感じる。

と思ったら、ヴァースでは趣が少し変わる。minanとhimeのヴァースはちょっとした気怠さを帯びたフロウ。そこが浮遊感とのコントラストでギャップになっていて、強く耳に残った。シンプルにカッコ良さがあるラップだなとも思う。良い意味でアイドルらしさはない。

また、全体の構成としても、これまでのリリスクの中でもチャレンジングだ。フックは主にyuuとrisanoが務めているが、ヴァースはyuuのパートがなく、残りの4人が1回ずつというものだ。少なくとも最近の曲では、メンバー全員にほぼ均等にヴァースが割り当てられているので、これには驚いた。 約2分30秒の中で、今のリリスクを目一杯に表現するためだろうか、確かにメンバーそれぞれの個性が、この短い曲でも生きている。

個人的な曲の好みとしては、トラップ的な趣の方がもっと聴きたいというようなことも思うところもある。が、今回の配信リリースと同時に、2021/1/27の新アルバム発売も発表されている。そこではもっと色んなリリスクが詰め込まれるだろう。次々と新しい一面を見せてくれるチームリリスクには期待しかない。

remarkable point:進化が止まらないリリスクメンバーの縦横無尽さ。

8:Eve「廻廻奇譚」

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ネット発のシンガーソングライターによるメジャー4作目のデジタル配信シングル。テレビアニメ"呪術廻戦"のオープニング主題歌として、書き下ろした曲である。

"呪術廻戦"は現在週刊少年ジャンプで連載中の漫画が原作で、自分が今一番好きな漫画の一つだが、Eveも元々原作自体が好きだったとのことで、めちゃくちゃに作品を意識した曲名とリリックになっていて、正直笑ってしまった。悪い意味では全然なく、とにかく作品への深い理解と愛が隠しきれていなかったからだ。「闇を祓って」「夜の帳が下りたら合図だ」「五常を解いて」など、作品の中で多く使われる言葉に近いフレーズが満載で、知っている人が聴くと、自ずと"呪術廻戦"の色んな場面が想起されるだろう。

曲自体は、比較的王道の邦楽ギターロックという気がする。しかし、個人的な作品の思い入れも相まって、何度も聴いてるうちに、結構ハマってきたというのが事実だ。 Eveのメロディセンスはやはり流石だし、一瞬のキメには、これぞ邦ロックみたいなものも感じる。自分でも何様かと思うが、大好きな作品に相応しい1曲を作り上げてくれたなという気持ちである。

remarkable point:"呪術廻戦"愛が詰まっているリリック。

新曲「廻廻奇譚」についての授業! | SCHOOL OF LOCK! | Eve LOCKS!

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7:Native Rapper feat.ヒヒ&シタバ from ザ・おめでたズ「All Light」

京都を拠点に活動するトラックメイカー兼シンガーソングライターのNative Rapperによる新作EP「Magnet」より。個人的に大好きなトラックメイカーだが、5MC1DJのラップバンド「ザ・おめでたズ」よりヒヒ & シタバをフィーチャリングしたリードシングルであるこの曲が最高だ。

Native Rapperの曲と歌とラップには、変な気負いを感じない。そこから感じるのは身近さであり、だからこそとてもキャッチーに響く。そういうところが好きなのだが、それがこの曲では、"祝祭"として見事に表現されている。イントロのハモリから、得意のブラスに繋がり、もう勝負あり。ここにハンドクラップも加わってくれれば、とにかく楽し気な"祝祭"の様子が、ありありと目の前に浮かんでくる。

フェスもライブもまともに出来ない世の中だが、音がしっかりと世の中を照らしてくれるし、それがあれば、"祝祭"感はちゃんと生みだせるんじゃないか。そんなことを思う曲だった。

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remarkable point:この状況において、100%正の方向に振り切った空気感を作り出すプロデュース。

6:(sic)boy,KM feat.vividboooy「Heaven's Drive」

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Sound Cloud発のラッパー、(sic)boyが、プロデューサーとしてKMとタッグで作り上げたフルアルバム「CHAOS TAPE」より。

名前は、リリスクのhimeがどこかでフェイバリットに挙げていたので聞いたことがある程度だったので、この曲が、バズっているということも全然知らなかった。しかし、アルバムを聴いて、これは自分が好きなものが詰まっているなというのがすぐにピンときた。
"オルタナティブ、エモ、ラウドロック、そしてJ-Rockとヒップホップの融合させた"みたいな枕言葉があったのだが、まさしくだ。歌と声には、J-Rockやラウドロックの要素を強く感じるが、とても聴きやすくて、すっと入ってくる。そこにラップがシームレスに絡んでくる展開は、なるほど、確かにカッコいいし、新しさも感じる。

でも、(sic)boyの軸は、声にある気がする。単純に良い声だと思う。ちょっと幼さも感じる甘い声だ。そして、この声から生まれるフロウや歌は、めちゃくちゃ個性的というわけではないのだが、であるが故の耳なじみの良さと、射程距離の長さと広さを感じた。
ここに、ジャンルのクロスオーバーとしての面白さがあれば、これは聴き逃せない。曲調からしてフットワークが軽そうなので、次の作品ではガラッと雰囲気を変えるみたいなことも、さらっとしちゃいそうな気がするが、そういう面も含めて、見逃せない存在だ。

remarkable point:vividboooyのパートだと思うが、2:16~からのフック前の展開での、オートチューンのコーラスとの掛け合いがお気に入り。

i-d.vice.com

turntokyo.com

5:mekakushe「箱庭宇宙 - Kabanagu+Emocute remix」

女性シンガーソングライターmekakusheの曲を、KabanaguとEmocuteがリミックスした1曲。

正直なところ、恐縮ながら、mekakusheについてはあまり知らず、この曲の原曲もあまり聴いていない。Kabanaguがリミックスしたという点に興味を惹かれたというのが本音だ。

先に、少し聴いた原曲の印象としては、シンプルな伴奏に、透明感のある歌を、優しく紡いでいくシンガーだなというものだった。
それをKabanaguとEmocuteは、大胆に再構築してしまった。イントロから、プリズマイザー的なエフェクトをかけて、原曲にはないエレクトロの様相。そこからしばらくは、比較的穏やかなアレンジが続く。
そして、迎える最終盤。こんな穏やかで終わるわけないとは思っていた。一気に世界が壊されて、改めて作り変えられるかのように、リズムがよくわからないほどの低音の連打とプリズマイザー的な過剰エフェクト。ボーカルなどのサンプリングが左右から繰り出される。こういう芸当は、まさしくKabanaguだなと思う。この最後の1分に向かうために、音が導かれてきたんだなと思わざるを得ない。そんな素晴らしいリミックス。

remarkable point:世界の表情が一変する、ラスト1分の展開。

ototoy.jp

4:gato「middle」

5人組エレクトロバンドの初のフルアルバム「BAECUL」より。ベースレスで、マニピュレーターやVJがいる点は、時折引き合いに出されているyahyelを思い出す。
このバンドの名前は最近よく見かけるようになってきた。とは言え、最初は正直そこまでピンとこなかった。でも、今作を聴いて、一気に持ってかれた。一つひとつの音が、明らかな電子音であり、それが心地いいラインを的確に打ち抜いてくる感覚がある。また、どの曲もダンサブルであることが基軸なんだろうと思う。特に低音は、今っぽい音なのだが、そこで踊らせることにこだわってるんだろうなと感じる音だ。

この曲は、その低音に絡んでいく歌やシンセに、日本らしいメロディセンスがある。終始バチバチにエレクトロな曲なわけだが、フレーズに親しみがあるから、曲がキャッチーになって、大きく鳴っている気がする。

そして、終盤は、シンプルにテンポを上げて、ガツンと盛り上げる。こういう分かりやすい展開は結構好きだ。こんなカッコいい音を作っておいて、最後はテンポ上げちゃうんかい!という突っ込みもしたくはなるが、めちゃくちゃに激踊りしたくなる出来なので、これはこれで良いと思う。

終盤に環境音を持ち込んでいる部分や、めちゃくちゃ洒落たオフィシャルサイトとかも気になるのだが、とにかく最高に踊れるエレクトロという点が、素晴らしいと思う。今後も確実に期待したいバンド。

remarkable point:1:40ごろから徐々に上がっていくテンポと熱量。

gato-official.com

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3:ヨルシカ「風を食む」

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ネット発の新世代アーティストとして名前が挙がることも多い2人組アーティストの新曲。この曲はTBS系『NEWS23』エンディングテーマとして書き下ろされた。

ヨルシカはもちろん好きか嫌いかで言えば好きだし、常にチェックする対象ではあったが、どうもめちゃくちゃ好きかというと、そうでもないという距離感があった。この並びであれば、ずとまよが圧倒的に好きであり、ヨルシカはなんとなく自分の好みとはちょっと違う方向性なんだろうなとか思っていた。

しかし、この曲は確実に好きだ。今までのヨルシカの曲の中で最も好きな曲であることは間違いない。とにかく最初から最後まで、音の選び方、音の置き方、そしてそれらと余白とを組み合わせて作り上げる世界が、"広い"。色んな音が鳴っているけれど、全然うるさくないし、むしろ音数は少ない。余白もめちゃくちゃある。suisの優しくて綺麗な歌を取り囲んで、一つひとつの音が立っている。

テーマは消費だそうだ。消費が生活の大部分を覆ってしまっている現代に対して、これだけ一つひとつの音を丁寧に抜き差しして、"広い"音楽を作り上げることで、何か大事なものを提示していることは間違いないだろう。

remarkable point:ここしかないという音の配置で作り上げられる、めちゃくちゃに"広い"世界観。

rooftop.cc



余談だが、この月はn-bunaがリミックスした"ASH feat. Vaundy"も滅茶苦茶良かった。ヨルシカのモードが、自分の好みに合ってきたのかもしれない。

natalie.mu

2:ASIAN KUNG-FU GENERATION feat.塩塚モエカ「触れたい 確かめたい」

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言わずと知れたASIAN KUNG-FU GENERATIONが、羊文学の塩塚モエカを迎えて作成された1曲。

自分はほとんどアジカンを通っていない。何でかはよくわからないのだが、今でも距離が遠いバンドだ。ただ、今作は塩塚モエカが参加するということで、気になって聴いてみた。

一聴して、音が良い。安心する。このシンプルなバンドサウンドを聴いたのはいつぶりだろうか。そういう気持ちになった。シンプルな音なんだけど、ベースだけはちょっと違う気がする。それは良い意味での違和感を生んでいるということだ。かなり歪んだ音が耳を引く。

そうこうしているうちに、メロに入ると、ゴッチの歌がこれまた安心する声だこと。優しいなぁと思う。それに呼応する形での塩塚モエカの歌は、やや尖りがあってちょっと緊張感がある気がする。でもこのバランスがとても良い。

そしてフック。シンプルに綺麗なハモリも良いし、フック全体の言葉が何処を切り取っても良いのだが、中でも「闇を踏み抜いた/帰り道」というフレーズがめちゃくちゃ良いなと思った。闇を踏み抜く。意味合いも、響きも、イメージも、今求められている言葉なのではないか。

衝撃的という意味での驚きは特にない。でもそのディティールに息を呑むほどの深みを感じた1曲だ。

remarkable point:日本のベテランロックバンドの地力が垣間見えるディティールの数々。

spincoaster.com

1:君島大空「笑止」

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2ndEP「縫層」から、先行リリースという形で配信された1曲。
このEPについては、別で書きたいので、あくまでこの曲の表層的な話だけ簡単に触れておく。

とにかく、笑える。「笑止」というタイトルでこんなことをやってくるとは。
この音に、ここまで合わないメタルの音を乗せるのか。ここまで、"らしい"ギターは久しぶりに聴いた気がする。これをポップスに乗せるなんて、何を考えているのか。

なのに、それなのに、なぜ曲として成り立つのか。笑えるし、明らかに浮いているとは思うけど、これはこれで成立している。これが君島大空の音楽の深みか、と思わざるを得ない。だって、ギターがないパートは、明らかに別の曲の顔を見せている。これは今までの君島大空の曲の延長線上にあることは間違いない。そこにメタルのギターを乗せちゃうのか。これで、一気に世界が壊される。でも成り立っている。よくわからない。分かるのは、それでも何度も聴きたくなるし、良い曲だということのみ。

この曲には、他にも取り上げるべき要素がたくさんあるのだが、ここではここまでにしておく。ただただ君島大空の才能を見せつけられた、そんな気持ちだ。

remarkable point:君島大空のルーツであるメタルが過剰なまでに前面に出されているギター。

  • Albums/EPs


(sic)boy,KM「CHAOS TAPE」

一時期のラウドブームも過ぎ去った感があり、最近はあまり耳にする機会がなかったことに、(sic)boyを聴いて思い出した。自分にはラップには大きな可能性を感じているし、ラウドも一時期何でも重めの音にすればいいみたいな感じは食傷気味だったが、それ自体はとても好きな音楽だ。これがこういう形で合わされば、好きな音楽に違いない。

とにかく全編通して、聴きやすさがありながら、この先に期待したくなるような可能性が詰まっている。

アリアナ・グランデ「Positions」

これぐらいの音と歌で成り立つのが一番良いでしょと見せつけられている気がする。歌とコーラスの強度が凄すぎて、そりゃこれなら、これくらいの音が丁度良いわなと納得する。

BLACKPINK「THE ALBUM」

勢いの止まることの知らないガールズグループは、こんなタイトルを付けてしまうのか。それなのに、昨今のアルバムにしては少ない曲数なのも、彼女らの矜持か。ライブが満足に出来ない現状ながら、スタジアムにシンガロングが響き渡る情景が目に浮かぶ「Lovesick Girls」がめちゃくちゃ良かった。

gato「BAECUL」

全曲良かった。どれもめちゃくちゃ踊れるし、メロディアスでキャッチー。クラブやライブハウスで大音量で聴きたい音楽。

Native Rapper「Magnet」

Native Rapperの音楽は、どれも優しい。

ROTH BART BARON「極彩色の祝祭」

インタビューとか読むと、非常にラディカルな考え方をしているなと思うし、曲も過剰さを感じる展開や音像がが興味深かったりするのだが、その中でもシンプルにピアノだけで歌い上げる「CHEEZY MAN」のような曲もあって、このバランス感覚に舌を巻く。

浦上想起「音楽と密談」

ついにリリースされた浦上想起のアルバム。どの曲も一聴して、彼の曲だとわかる記名性は流石の一言。それにしても何度聴いても「芸術と治療」は新しい発見があって、凄いな。