選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2020.9 Monthly Best Songs

2020年9月にリリースされた曲・アルバム/EPから特に良かった10曲を選びました。
最近の音像は本当に好み。

  • Songs


10:塩入冬湖「SCRIPT」

FINLANDSのボーカル&ギター・塩入冬湖のソロ作品として4作目のミニアルバム「程」より。
この曲は、全体的な音像が、ミニアルバムの中で最も自分の好みに近かった。音数少な目で、低音の置かれている位置が、絶妙なバランスを保っている。塩入冬湖の、"癖の強い"歌も、健在である。ここまで自分の癖を全開にするボーカルは最近なかなか見ないような気がする。

この曲はもちろん良い曲だと思うが、ここに選んだ理由として大きいのは、別の2つの理由がある。
1つは「程」というアルバムタイトル。
こういう言葉を、アルバムのタイトルに選ぶセンスが素晴らしい。ぱっと見のよくわからなさも含めて、漢字1文字に詰め込まれてた情報量。なかなか勇気がないと出来ないのではないか。
そして2つ目は、この作品についてのインタビュー。
アルバムタイトルに込められた意味も含めて、彼女のさまざまのもの・ことへの態度や想いが、深く表現されていると思った。
こういう状況の中で、何を思い、何を考え、そしてそれを作品として残すか。
アーティストとの地力みたいなものが、曲以外の部分から感じられたのが、とても良かった。これぞという気がするな。



remarkable point:こまけんガッツ(KAWAI JAZZ、神々のゴライコーズ)のベース。塩入冬湖のボーカルと太いベースのバランスが面白い。

www.musicman.co.jp

realsound.jp

9:GOMESS & Yackle「Stardust feat. 小林私」

www.youtube.com

関西を拠点に活動するトラックメイカー/オーガナイザー/DJのYackleとラッパーのGOMESSの共作名義に、シンガーソングライターの小林私が共演として参加した作品。
3名とも、良く知っているわけではないのだが、たまたまReal Soundの記事で"小林私"というシンガーソングライターを知ったタイミングで、この曲を聴き、なかなか不思議な曲展開も含めて、印象に残った。

まずこのイントロから、こういう陰鬱な雰囲気を纏ったヴァースで入るのかと。そして、やはり興味深かったのはフックでの"小林私"。曲が進むについて、彼の歌のテンションも上がり、喉を潰すんじゃないかとこちらが心配してしまうような、声の出し方でフックを奏でる。その声からは、差し迫った緊張感と、一方で解放感みたいなものを感じてしまう。
GOMESSの安定感のあるラップとの対比も面白い。そして、この二人の個性を消さずに、引き立てつつ、曲自体の個性もしっかり印象づけるというYackleのトラックのバランス感が良いなと思う。

remarkable point:やはり小林私のフック。終盤のエモーショナルさは一聴の価値がある。

8:I Don't Like Mondays.「MR.CLEVER」

www.youtube.com

4人組ロックバンド、通称"アイドラ"による、5か月連続シングル配信リリースの第二弾。

もともと、まさしくバンド名のごとく、憂鬱な時に聴くと元気になれるような楽し気で、耳なじみの良い曲が多いバンドだなという印象であり、新曲はチェックするようにしていた。
そのため、今作ももちろん聴いてみたのだが、良い意味で結構変わったなというのが第一印象だった。

こういうのは大体が気のせいだったりするのだが、インタビューなどを読む限り、今回はそうでもなさそうである。
今作はダンサブルな曲調はいつも通りだが、歌詞が結構耳に入ってくる。勝手な感覚だが、今までは結構そう言う感覚は薄かった。どうやら今回はボーカルYUの個性を強く打ち出したリリックにしたとあるので、そこを感じ取ったのだと思う。
また、Bメロで、突然トラップ調になり、これぞ三連符フロウというような、展開のさせ方も思い切りがよくて、非常に良い。

元々、器用さのあるバンドだとは思っていたが、何か一つ突き抜けたような気がする、そんな曲に仕上がっているだろう。

remarkable point:Bメロの三連符フロウ。結構強引な組み込み方だと思うが、なかなか曲にマッチしているのが凄い。

natalie.mu

realsound.jp

skream.jp

7:フレデリック「正偽」

ダンサブルな曲を持ち味としている4人組ロックバンドの新作EP。主に四つ打ちの楽曲が多めで、そこがダンサブルな要素に強く影響していると思っていたのだが、この曲については2ステップへの挑戦が行われている。

これが、なかなかに良い。もうイントロの低音が(シンセベースだろうか、キックの音との重なりも含めて)最高に気持ち良いのだが、そこに小気味良いギター、そしてまさしく2ステップのビートを刻むドラムが絡んできて、全体的な音に広がりがありつつも、しっかりまとまっている。
ここに、乗っかるは、皮肉のよく効いた、リズミカルなリリック。言葉の語感がよく、ダンサブルな曲によくマッチしている。正"義"ではなく、正"偽"という辺りも、一筋縄ではいかない感が表れている。

勝手に、ブレイクした四つ打ちに縛られているバンドという印象が、正直あったのだが、四つ打ちでなくとも、こういう音の置き方が出来るんであれば、こういう曲をもっと聴きたいと思ったし、これで十分勝負できるんじゃないかと感じた。

remarkable point:低音の音色。シンセベースなのだろうか。とにかくイントロの音で掴まれて、その後も心地よい音域で響き続ける音色が素晴らしい。

www.musicvoice.jp

6:ミツメ「トニック・ラブ (tofubeats remix)」

東京の4人組インディーロックバンドが8月にリリースした新曲を、tofubeatsがリミックスした一曲。

ミツメの曲は、どの曲も絶妙な心地よさで、この曲も原曲がそもそも良いのだが、4分半の原曲を8分半に再構築しているところが最高に面白い。
中盤から終盤にかけての、同じようなフレーズを、少しずつ変えながら繰り返していくパートがとにかく特徴的だ。テクノやハウスといったジャンルの楽しみ方ってこういう感じなのかなと思うのだが、とにかく永遠かのようにフレーズが繰り返される音に、とてつもない多幸感があり、ひたすら没入できる。このミニマルなグルーヴに乗って、どこかにトリップできそうな、そんな時間を味わえるリミックスに仕上がっている。さすがのtofubeatsだ。

remarkable point:3:00ほどからの終盤にかけての展開。大音量でライブハウスやクラブで聴きたくなる。

5:フィロソフィーのダンス「ドント・ストップ・ザ・ダンス」

www.youtube.com

2015年結成の4人組アイドルのメジャーデビューシングル。作詞はヒャダインとのこと。
色んなところで似たような話があるが、まだメジャーじゃなかったんだという感想。それぐらい、地力があって、活躍しているアイドルグループという印象があった。

メジャーデビュー発表後にこのような状況になったり、これまでと作品の作り手が変わったりといろいろと難しい状況ではあったようだが、この曲は熱量が最高に詰まっていて、シンプルに良いアイドルソングだなと思える1曲だ。

印象深いのは、終盤に向けてとにかく上に登っていくかのような展開。ここまで転調を繰り返すような曲はなかなか聴いたことがない。同じようなフレーズが何度も出てくるので、ともすれば退屈な曲になってしまうこともあると思うのだが、そこを転調で少しずらすことで、盛り上がる展開に仕上がっている。加えて、彼女たちの歌も凄く良い。かなり歌えるグループだと思うのだが、その歌がしっかりと曲に乗っている。だからこそ、熱量がどんどんと上がっていく。力強く、心強いなと思う。
前面には出てこないが、細かいアレンジも多く、結構難しい曲なのだと思うのだが、曲と歌が同じ熱量で噛み合わさっている。曲が歌を、歌が曲を、相互作用で押し上げているような、そんな気がする。これをプロフェッショナルというのだろう。

メジャーデビュー曲という節目に相応しい素晴らしい曲になっていると思う。音源だとあまり熱量が感じられない曲って多くあると思うのだが、音源でここまで出ている曲は、ライブだとどうなってしまうのか。これからのフィロのスにも期待が大きい。

remarkable point:最終盤のフックでの畳み掛ける転調。これでもかというような心意気を感じる。

natalie.mu

miyearnzzlabo.com

4:tofubeats「RUN REMIX (feat. KREVA & VaVa)」

www.youtube.com

tofubeatsが2018年にリリースしたメジャー4thアルバム『RUN』のリミックス集より。

個人的には原曲自体が、とても大好きな曲だったのだが、どうやら制作者側としては、「RUN」の再生回数が少ないことを課題ととらえていたようであり、改めてこの曲をしっかりとプレゼンするという意図をもって、KREVAとVaVaを迎えて、改めて世に出したという経緯があるようだ。それ故にtofubeatsのヴァースは原曲と同じであり、そこに二人のヴァースが乗る構成となっている。

そりゃ、もともと良い曲にこの二人のヴァースが乗っかれば、さらに力強さを纏うのは自明だろう。
VaVaのヴァースでは、お得意の懐かしリリックとして、「チャリ走」が出てくるのが個人的には世代すぎてめちゃくちゃツボだし、"No.1 feat.G.RINA"のフレーズをそのまま持ってくる辺りの選択も流石。 KREVAのヴァースでは、入りから「これは短距離走 なおかつ長距離走」というよく考えれば、謎なフレーズをかましてくるわけだが、細かいことはどうでもいいぐらいのパワーがある。

良い曲であれば、世に受け入れられるというシンプルなロジックで動く世界ではないのが事実だろう。けれども、"自分の力で走る"ことの意味と意義を発すること、それ自体に"何か"がある。それを改めて感じた1曲だった。

remarkable point:KREVAとVaVaのヴァースが乗って、より一層際立つtofubeatsのヴァースの力強さ。何度聴いても良く、込み上げてくるものがある。

www.houyhnhnm.jp

www.musicman.co.jp

3:SuperM「One (Monster & Infinity)」

www.youtube.com

2019年に誕生した韓国のアイドルグループの1stアルバムからリード曲。韓国の4つのグループからの選抜メンバーで構成されており、K-POP界のアベンジャーズなんて呼ばれることもある。

この曲は、“Hybrid Remix”曲だ。アルバムに収録されている"Monster"と"Infinity"について、それぞれの曲を切り抜いてマッシュアップして、構成されている。その時点で普通に面白い。

そして、もちろん曲の出来栄えも文句の付けどころがない。まず原曲について、"Monster"は、ヒップホップ感が強く、際立つ低音にリズム良く乗るラップのフロウが心地良い曲だ。一方、"Infinity"は壮大さある音で突き抜けている。神聖さを感じるコーラスと、凶悪なエレクトロの音のコントラストが凄い。こういうぶつけ方をするのか感心してしまう。

そして、この2曲をぶつけると、また違った面白さが出てくる。"Monster"がどちらかというとヴァースの役割で、"Infinity"がフックの役割を担う。"Monster"の低音とラップから、"Infinity"のフックで一気に壮大になり、カタルシスを感じさせる。それぞれの曲の軸がぶつかって、合わさって、新しい感覚を生み出している。

しかし、K-POPの勢いは全然衰えない。次から次へと面白い曲が出てくるものだ。

remarkable point:"Monster"・"Infinity"との聴き比べ。もともとこの曲があってから、2曲を作ったのか、それとも逆なのか。いろいろと想像が膨らむ。

www.vivi.tv

2:BBHF「1988」

BBHFのセカンドフルアルバムより。
今、日本でこの純度の音楽をやれるバンドはどれだけあるだろうか。そう改めて思う。
今作は、全体的にバンド感がある曲が多いが、なんというか、気負いがない。自然な曲が多いと思う。それは逆に言えば、強烈に引っ掛かるような体験は少なかったとも言えるかもしれない。
しかし、それはある意味良いことだと思う。我々は刺激を求めすぎていた。過剰に。それを今痛感させられているのだから。

各種インタビューに、「継続」という言葉が出ている。これが明らかに音に影響しているのだろう。何かを犠牲にして、今に打ち込む。そういう美学もあるだろうが、ここでは「継続」することに価値を見出し、そこから生まれた音楽が奏でられている。

「1988」というタイトルの意味は分からない。そして、曲として大きく特徴的な箇所があるわけでもない。しかし、その中で歌われるリリックは、確実に今の時代を貫く。
特に終盤のリリックには、今のBBHFの凄みが凝縮されている。これをこの曲調に乗せて、この温度感・質感で歌えるバンドはそういない。

遅かれ早かれ 物事は変転していく
ハッピーなんてない
よくもわるくも この国はうつ病じみているよ
その数字には意味がない 僕らにはこない 必要もない
1988

だけど愛があるだろう だれかが言う 何回でも
ああ本当にありがとう 愛そのもの もっともってきて
死ぬまで飲め 愛そのものを
瓶を壁に叩きつけて 粉々に砕いて 君にキスする

二日酔いによく似た 痛みを引き連れて
訪れる悪魔 人生を 拳銃みたいに引き抜け

remarkable point:終盤のリリック。このリリックから何を思うか。

belongmedia.net

natalie.mu

www.tfm.co.jp

1:DJ CHARI & DJ TATSUKI「GOKU VIBES feat. Tohji, Elle Teresa, UNEDUCATED KID & Futuristic Swaver」

www.youtube.com

DJ CHARI & DJ TATSUKIが、8月にリリースした曲。8末リリースだったが、9月によく聴いたのでご容赦。

もうタイトルから、ぶっ飛んでるなという感じだが、とにかくTohjiのフックの浮遊感に中毒性がある。これはヤバいやつ。ドラゴンボールというテーマから、リリックの選び方、フロウまで、無敵感があふれ出ていて、完璧な出来だと思う。

そして、フィメールラッパーのElle Teresa、韓国からヒップホップ・クルー・STAREXに所属するUNEDUCATED KID & Futuristic Swaverへとマイクリレーされるヴァースも、それぞれの個性がばっちり出ていて、面白い。

何も考えず、頭を空っぽにして、大声で歌いたくなるような曲。それにしてもTohjiのイケイケ具合が凄まじい。

remarkable point:Tohjiのフック。これで勝負あり。

note.com

kotosara.net

fnmnl.tv

⇒なんかTikTokでバズっているらしい、確かにこれはバズる気がする。

  • Albums/EPs


SPARTA「Count Your Blessings」

SPARTAの曲は、どれも優しい。すべて英語のタイトルで来て、最後に「未来」と来るのも粋だ。

SuperM「Super One」

Superすぎる曲が15曲も入っているので、アルバム単位でみると、ちょっと食傷気味になるのも正直なところだが、それぐらい密度が濃いということだ。

BBHF「BBHF1 -南下する青年-」

改めて、BBHFの孤高な立ち位置を確立した1枚だろう。

tofubeats「RUN REMIXES」

remixを聴くと、改めて原曲の良さを確かめられるということを感じる。






最後に。あまりこういうのは書かないし、整理も出来ていないのだが、今回はあえて書いておく。
津野 米咲が亡くなった。
何があったのかはわからない。ただ亡くなったということは事実のようだ。
その事実に対しては、一個人として残念でならない。
誤解を恐れず言えば、世の中の音楽は大多数が瞬間風速的に"消費"されていく音楽ばかりだ。それでも、ごく一部は、"消費"ではなく"蓄積"されていく音楽となり、確実に未来に繋がっていく。
自分と同世代の彼女の音楽は、そういう"蓄積"される音楽だったと思う。決して売れているわけではなかったかもしれない。でも、そういう評価軸とは違う軸では圧倒的だった。そして、今後何十年と素晴らしい音楽を作り続けていくものだと、勝手に思っていた。
でも、そうはならなかった。それが事実。それを受け止めるしかない。
彼女が作った音楽は素晴らしいものばかりだった。
本当にありがとうございました。そしてお疲れさまでした。ゆっくりとお休みください。

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com

www.youtube.com