選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2021.2 Monthly Best Songs

2021年2月にリリースされた曲・アルバム/EPから特に良かった10曲を選びました。加えて気になったアルバムも簡単に付けています。 毎年、今年は毎月ちゃんと書くぞという意気込みをもって取り組むものの、こうしてすぐ時間が空いてしまうという。

この月は、壮大というよりも、確かな手触りを感じることができる距離感で紡がれた音、と感じる音楽を多く選んでいるかなと思いました。決して派手さはないけれど、一つひとつの音やリリックに、じっくりと向き合うことができる。そんな音楽達です。

  • Songs


10:lyrical school「TIME MACHINE」

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リリスクの4/7にリリースされたフルアルバム「Wonderland」より、先行配信シングル。すでにアルバムがリリースされているので、ここで取り上げるのは微妙で、ちゃんとしたものは別途と思うが、 KMがプロデュースしており、Lil' Leise But Goldも作詞・作曲・編曲に参加しているという意欲作。

この曲は、「TIME MACHINE」というタイトルにピッタリの、今の音と少し昔の音が行ったり来たりする曲展開が面白い。特に極めつけは、最後のフックに向かう展開。ローファイっぽい雰囲気があるパートから、hyperpopの様相すら見せるパートを経て、クライマックスへと向かう繋ぎ方は、まさしく過去から未来へ、時間を飛び越えていくかのよう。

また、5人それぞれの新たなラップ・歌ももちろん楽しめる。ただ可愛らしいラップではない。個々人の個性にあった歌、声、リリック、そしてフロウには更に磨きがかかっている。

1曲の中でも言及したい箇所はいくらでもあるのだが、ここではこの程度にしておこう。KMとLil' Leise But Goldの素晴らしいアシストにより、リリスクの新たなポテンシャルを大きく引き出した楽曲であることには違いない。

9:phritz, hirihiri, ウ山あまね, kabanagu「all night」

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経緯がいまいちわかっていないのだが、やばい面子で作られた、ただただやばい曲。名前を見て、それぞれの楽曲ですらカオスなのに、合わさったらちゃんと曲になるのかという、一抹の不安すら勝手に感じてしまったが、よかった、普通に意味わからない曲になっていて、逆に安心してしまった。

hyperpopと安易に括らないほうがいいかもしれないが、とにかく詰め込まれた展開や割れまくりの音は、曲に対する理解を拒ませる。なんだかよくわからないのだが、何度も聴いてしまう。そんな曲だ。これが未来か。

8:Siip「2」

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情報がほとんど出されていない、謎のシンガーソングライターの2ndデジタルシングル。

この歌を一聴して、すぐに思い浮かんでしまうシンガーがいるので、なぜ名前を隠すのかという興味がまず出てきてしまうが、ここでは深追いは止めておこう。これほど記名性のある歌を、そのまま前面に出しておきながら、名前を隠すということは、そこに相当な意味を詰め込んでいるに違いないが。

トラックも、今っぽく結構好きなのだが、やはりこの曲を歌だろう。イントロからデジタルクワイアのような展開が、裏でなる不思議な音と相まって、没入を誘っていく。色んなところで、色んな音を鳴らしているものの、とにかく歌が強い。この人の歌は、記名性があるという意味では癖が強いと思うのだが、個人的には耳に馴染むし、すっと体に入ってくる言葉を発することができるという意味では、癖がないように感じる。名を隠しても、良いシンガーだなと改めて思った曲だ。

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7:Awesome City Club「tamayura」

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「勿忘」で大ブレイクを果たしたACCのニューアルバム「Grower」より。

「勿忘」も良い曲だったが、こういうミニマルというか、狭い空間の中で、音を繊細に置いたり抜いたりして作り出す世界観がめちゃくちゃ心地よいなと思う。昔の彼らとは違う、バンドとして熟成した音だと感じる。

タイトルの通り、フックで左右に揺れ続ける音が、この曲の世界観を決定づけていると思うが、その裏で鳴るミュートしたギターの音もめちゃくちゃ気持ち良い。鳴らすだけが音楽ではない、鳴らさないことの重要性を感じる曲。

6:BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「Animal」

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この曲で初めて知ったが、その名の通りEXILEの系譜にある7人組ダンス&ボーカルグループの話題曲。何か話題になっていることはすぐ知っていたのだが、聴いたのは結構後だったと思う。適当にシャッフルで色んな音楽を聴いていたときに、何だか随分とカッコよい曲が流れてきたと思ったら、この曲で、なるほどなぁと感心した記憶がある。

曲については、色んなところで言及されているので、ここで改めて書く必要はないだろう。サブスクに一切ないので、ここでは取り上げなかったSexy Zoneの「RIGHT NEXT TO YOU」と合わせて、完成度が高すぎて、文句の付け所がない。どこを切り取ってもカッコよいと感じる、このスキのないプロダクションには、ここまで作りこんでしまうと、今後の楽曲はどうなるのだろうという、余計な心配すらしてしまったが、ぜひ楽しみに待ちたい。今後は要チェックのアーティストだ。

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5:星野源「創造」

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星野源の新曲は、任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』発売35周年記念のテレビCMソングにもなっており、まさしく、ゲームのような音があちこちに詰まった曲となっている。

なんとも自由な曲だ。おもちゃ箱みたく、次から次へと繰り出されるチープなシンセの音をベースに、ゲームで使われていたサウンドが各所に散りばめられて作り出される音像には、どこかなつかしさを感じる。そして、まさしく、マリオのゲームで遊んでいるかのようなワクワクするアドベンチャー感を感じさせる。

一聴すれば、そういう感想を持つ。でも、何度か聴いているとちょっとした疑問も湧いてくる。なぜイントロだけ英語なのだろうか。単純に、最近の海外志向を反映しているだけだろうか。さらに、それ以降のリリックはほぼ日本語詞だが、結構いびつな単語のはめ方をしていて、聴くだけでは意味が取れない。こういう一筋縄ではいかないところに星野源というアーティストの面白さはあると思う。もしかしたらこの構造には、子供のような遊び心を詰め込んだトラックと、大人として現実と向き合い戦い続けるリリックを繋ぎ合わせた先に、更なる「創造」を見出そうとする気概を見せているのかもしれない。

この自由すぎる音楽が、日本のメインストリームで響くのかはわからないが、まさしくこの歌詞の言っていることことを体現しているのだろう。

あぶれては はみ出した
世をずらせば真ん中

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4:Ado「ギラギラ」

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2020年にリリースされた「うっせぇわ」「レディメイド」に続く、Adoの新曲。今作はボカロPを中心に活躍する、てにをはが作詞、作曲、編曲を手がけている。

「うっせぇわ」ばかりがクローズアップされるAdoだが、彼女の歌は本当に凄いと思う。個人的に、これまで"歌"で持ってかれるアーティストはあまりいなかったのだが、この人は稀有な例となった。もちろんトラックも良い。しかし、そこには少しニュアンスがあって、その歌の邪魔をしない程度の色味をつけているという意味で、トラックも非常に良いのだ。彼女はやはり歌だ。とにかく歌の力が強い。"ギラギラ"の単語一つで、彼女の世界を作れる。

そして、彼女の特別性を割り引いて聴いたとしても、何かこれまで自分が聴いてきたような歌とは違う気がしている。これが"歌い手"というものだろうか。とにかく"歌"に全身全霊を注ぎ込むかのように表現しているように感じられる。バンドのボーカリストとも、シンガーソングライターとも違う、この"歌"は興味深い。

"Ado"というアーティストにも、"歌い手"という役割にも、まだまだ自分には消化できない何かがある、そう思わせる1曲。

3:NCT 127「First Love」

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韓国の多国籍ボーイズグループ、NCT 127の日本での2nd miniアルバム「LOVEHOLIC」より、オールドスクールのミディアムテンポR&Bナンバー。

この曲は、BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE「Animal」やSexy Zoneの「RIGHT NEXT TO YOU」と、ほぼ同タイミングで聴いたのだが、どれも良い曲であることは当たり前として、アーティストの形態や楽曲の雰囲気としてはどうしても比較してしまったわけで、どちらが面白いと感じたかというと、こちらだったということだ。

どこかで、このEPについて、何だか歪なミックスであるのが勿体ないというようなことが書いてあって、なぜ自分がこの曲を良いと思ったかが分かった。その歪さが面白いのだ。先の2曲は、どこか完成されすぎている。一方、この曲は、音作りもどこかちょっと変なバランスだという感覚はわかるし、めちゃくちゃに重ねまくったコーラスとか、そこまでするか?というようなやりすぎ加減があって、この少しズレた感じが、良い。逆に半歩先に行っているように感じられたのだ。多めの合いの手も、「波の上で/curising」から始まる韻を踏んでいくフレーズの乗り方も、なんか少し狙いすぎでちょっと恥ずかしくなるようにも思えるが、逆に愛おしさを感じている。

K-POPのこういう実験的で挑戦的な楽曲は、本当に面白い。日本でも、こういうチャレンジングな曲がもっと増えていくと嬉しい。

2:Vaundy「融解sink」

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Vaundyの2021年第一弾配信シングル。Vaundyには良いんだけど、どこかピンとこないことも多いのだが、この曲は聴いた瞬間に惚れた。

一音目で勝負あり。なんだ、この平たいキックは。この音だけでもう最高なのだが、このキックを軸に、指を鳴らす音も混ぜながら、奏でるビート。そこに乗る、チープなシンセの音。このイントロだけで無限に聴けそうな心地よさ。

この心地よさは全編通して変わらない。本当に良いなと思う。Vaundyの歌とLeiaのコーラスも、どこか距離が近く、この心地よさとしっかり溶け合っている。このビートとシンセの心地よさがすべてを包み込んでいる。すべてその中にあるからこそ感じられる、距離が近いミニマル感。不思議だ。これまであまり感じたことがない感覚をこの曲には感じている気がする。

1:YonYon「Bridge」

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ソウル生まれ、東京育ちのDJ兼シンガーソングライターの新曲。2019年に開催された日韓のプロデューサーとシンガーを楽曲制作という形で繋ぐ『The Link』プロジェクトのリリース・パーティにて、1度だけ披露されていた幻の楽曲だったらしい。

一聴して、度肝を抜かれるような、分かりやすい力を持つ楽曲ではない。しかし、この曲が奥底に持つ力は、そういう分かりやすさとは別の軸で、とてつもない大きさがある。

自分とその身の回りの、"近い"視点から紡がれるリリック。もっと広く、ひいては世界や歴史という、"広い"視点から紡がれるリリック。なんと広い射程なことか。しかも、それらの視点を、縦横無尽に、シームレスに切り替えながら、日本語も英語も織り交ぜながら、曲は進んでいく。見事としか言いようがない。そんなリリックが乗るトラックはとてもピースフルで、チルだ。休日の昼下がりに散歩をしながら聴きたい。しかし、時折はっとさせられる言葉の数々が、この曲のイメージを変化させていく。決して、ピースフルでチルという曲というだけではないと。

このリリックは、とても直接的だ。これをこの曲調に乗せて歌うというのは、どれほどの勇気と心意気か。歌わなければいけないという覚悟か。でもトラックは、やはりビースフルでチルなのだ。この相反する事実を見逃していけないように思う。視点を見事なまでに切り替えながら、我々に迫ってくる。決してネガティブではない。とても心地よい曲だ。しかし、心地よいで終わらせてはいけないとも思う。この曲を聴きながら、散歩でもしながら、噛みしめながら、感じながら、粘り強く考えたい。

  • Albums/EPs


本日休演「MOOD」

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何だ、この古き良き日本を感じさせるような音像は。でも決してローファイというわけではない気がする。時代錯誤のようにも瞬間思えるが、逆に今だからこそ作れる音なのかもしれない。

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https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/27610mikiki.tokyo.jp

NCT 127「LOVEHOLIC

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「First Love」でも書いたが、全体的に、なんかちょっと歪な感じがするのが面白い。どれもこれも一筋縄ではいかない。

Awesome City Club「Grower」

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まさか彼らがここまでブレイクするとは。どの曲も、気負いすぎない音に仕上がっていて、これくらいがちょうど良いと思う。そういえば、「勿忘」はAPOGEEの永野亮が作曲とアレンジに携わっていたと知って、この曲がブレイクして、色んな意味で良かったなと思った。

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natalie.mu

Youmentbay「Wonderland」

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この音とツインボーカルは、ひたすらに、優しい。

millennium parade「THE MILLENNIUM PARADE」

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どこかハマりきらないのが正直なところ。しかし、やっていることの凄まじさはよくわかる。あまりに凄まじすぎて、自分では消化しきれていないのかもしれない。

ずっと真夜中でいいのに。「ぐされ」

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ずとまよらしい面白さは残しつつ、新たな挑戦というところか。ストリングス多めに、劇的な展開を作り上げていくのもよいが、もっともっとカオスな展開を彼女たちには期待してしまう。

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