2021年3月にリリースされた曲から特に気に入った10曲を選びました。アルバム/EPについても簡単にセレクトして付けています。この月は、日本のポップスシーンの地力と、新しい風の両方を感じるような、セレクトになった気がします。
Songs
10:SUKISHA feat. 空音, rin音, farmhouse, ぜったくん, kou-kei「Kiss The Knowledge Knives」
東京を拠点に活動するプロデューサー兼シンガーソングライターのSUKISHAがプロデュースした1曲。もう「知識のナイフに口づけを」ってタイトルがかっこよすぎるのだが、この曲は何よりも客演陣が豪華すぎ。よくもまぁこれだけ集めて、しっかりまとまったものだ。
心地よい雰囲気のトラックに乗せて、順番にマイクを回していく形式で、5分以上もある。大きな展開があるわけでもないので、この手の楽曲としては長めだと思うが、大して長く感じないのは、客演陣のフロウが多種多様だからだろう。一人ひとり、やっぱり良いラップするね。
フロウで気に入ったのは、空音の前半戦。三連のリズムの乗った軽快なラップが耳に残る。単純に個人的に三連が好きって話でもあるが。
リリックでは、
知識のナイフ鋭くなったって
傷つけちゃうなら捨てちゃえboy
というFarmhouseのラインが良かった。フックとしては知識のナイフを大事にしろよというニュアンスだと思うが、そのニュアンスを単純にフォローするのではなく、ちゃんと自分の解釈を加えてラップしている感じがとても良い。これぞラッパー。
9:Lil' Leise But Gold「Sleepless (Pt.1 & Pt.2)」
これまであまり情報が出ていなかったシンガーソングライターの新譜より。最新のインタビューで、KMとの夫婦関係にあるアーティストであることが公にしっかりと公表された(この新譜がKMプロデュースであったこと、あとはどこかのYoutube動画のコメントにあったので、自分はなんとなく知っていた)が、今最も注目を集めているプロデューサーともいえるKMと音楽以外の人生も共に共有する立場から生まれる作品は、流石にクオリティだ。あまりこういう言い方をするべきではないかもしれないが。。。
インタビューを読む限り、音楽的な素養を子供の時から鍛えられていたわけでも、その後にプロフェッショナルな訓練を受けたわけでもないようである。そうではなく、生活の中で音楽や言葉と向き合ってきた、そして今も向き合い続けているということそのものが、リリックに、歌に乗せて、存分に表現されているように思う。インタビューでも、音楽の表面的な話ではなく、プライベートまで踏み込んだ上で、それが音楽の中にどのように影響しているのかという視点から対話がなされているように感じたのが、印象的だった。
歌の上手さとか、リリックの妙とか、そういう小手先のあれこれを超えた、けれども微細な何か。そういうものが、KMのトラックに乗って、伝わってくる。ふと、聴き浸ってしまう魅力がある曲だ。
8:aiko「ばいばーーい」
aikoのニューアルバムの1曲目を飾る曲。各所で言われているように、この1曲目のインパクトが強すぎて、他の曲はあまり覚えていないのが正直なところだ。
確かに歌詞は、aikoしか書けないだろうなという内容ではあるが、自分はそこまで歌詞に注目しないので、そこまで気にならなかった。しかし、とにかく、サビが凄すぎる。言ってしまえば、怖すぎる。何、この展開から、そんなサビありえる?ポップスの可能性って、まだまだあるんじゃないかと思わせるほど。このサビだけで色んなものをねじ伏せるパワーがあって、恐れ入った。
ちなみに、「三原勇希 × 田中宗一郎 POP LIFE: The Podcast」でのaiko特集でも、この曲について話題に上がっていたし、その他の話題もaikoをほとんど知らない自分も非常に興味深く聴くことができたので、おすすめである。
7:YUKI「Baby, it's you」
YUKIによる4月発売のニューアルバムからの先行リリース曲より。aikoもそうだが、日本のポップスの最前線で戦っている人達の力をまざまざと見せつけられている気がする。。。
音が広く鳴っている、ポップでキャッチーなトラックの中で、ガットギターの刻むリズムが心地よいが、この曲はとにかくYUKIの歌が凄い。一聴してYUKIと分かる甘めの声は衰え知らずだが、決してそれだけでない。トラックに合わせて、しっかりと壮大の世界観も表現できる。距離や景色のコントロールがとんでもなく上手いなと思った。この曲は、"153cmのリアルファンタジー"なのだ。ファンタジーのように、自由自在に距離感も変わるし、景色もころころ変わる。頭から、「君のスマイル/境界線は無いっす/逃すまいっと」と、話し言葉を織り交ぜて近い距離感を表現しながら、フックでは「大地」や「世界」といった広い景色に視点を一気にシフトチェンジする。この自由な世界観を、説得力ある歌で、提示していく。これがYUKIの世界観だ。いやはや、aikoに引き続き、こちらも本当に恐れ入る。
6:King Gnu「泡」
King Gnuの新曲は、映画『太陽は動かない』の主題歌。最近のKing Gnuの曲とは一線を画しているような曲であり、どちらかというと、millennium paradeでやっているような曲だと思った。MVの世界観も凄かった。
まず耳に引っかかるのは、プリズマイザー的なボーカルのエフェクトを効かせたうえで、展開させていくツインボーカル。かなり機械色が強いアレンジになっているが、言ってしまえば、多くの感情が声からそぎ落とされている。しかし、それでも残っているものは確実にある。終始鳴り続ける鼓動の音に、切迫感を感じつつも、そういう機微を感じられる曲だと思う。最近のKing Gnuの曲にはハマりきれない感覚がどこかあるのだが、この曲ははっきりと違うモードでのチャレンジが感じられて、とても良かった。
この記事を書く上で初めて知ったのだが、この曲は前身バンドのSrv.Vinciの「ABUKU」が原曲となっているらしい。なるほど、確かにそちらと聴き比べてみると、King Gnuを経ての曲になっていることがよく分かるし、最近の彼らの曲との違う印象を受けた理由も、納得。
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5:UVERworld「Teenage Love」
UVERworldの2021年第1弾シングルに収録されているカップリング曲。どうやら去年のうちにすでに制作されていたようだ。
明らかにバンドサウンドではないのだが、逆に最近話題になったBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEやSexy Zoneなどのボーイズグループに通ずるような、曲調・音作りだなと感じた。全体的に抑えめな雰囲気の中で、バスドラム多めながらシュッとしたビートに対して、時折ラップ調にもなったりして、リズミカルに乗せていくボーカル。
これだけだとありがちな曲になりそうだが、この曲のポイントはなんだかよく分からない音が詰まっていること。曲の頭から、声とも音とも言えなそうなサウンドが印象的だが、それがこの曲の軸となっている。フックやアウトロなどでは前面に出て、曲を引っ張っていくのは面白い。
UVERworldは、そこまでちゃんと追えているわけではないが、昔はロックバンドのイメージが強かったものの、最近は音楽性がどんどん広がっていて、貪欲なチャレンジ精神がとても良いなと思う。
4:Aimer「地球儀 with Vaundy」
Aimer6枚目のフルアルバムより、Vaundy作詞作曲かつ参加となった先行リリース曲。
とにかく、この2人の声・歌の相性が良すぎて、びっくりした。ここまでとは思わなかった。ちょっと歪な組み合わせも、面白い響きになったりするので好きなのだが、この組み合わせは適合率100%みたいな感覚。ここまでしっくりくる組み合わせは、あまり思い当たらなかった。歌の上手さ、表現力の高さは折り紙付きの2人なので、そりゃ良いには決まっていたのだが、このコラボレーションはそれぞれのソロとは、また違った次元の話になっているように思う。
Vaundyのトラックも、自分が好みの感じで良い。イントロの、音を切り刻みながら、繋ぎ合わせながら、リズミカルでグルーヴ感あるリフだけで、やられてしまった。めちゃくちゃカッコいい。最近のVaundyの曲はどれも良いな。今っぽさもありながら、J-POPとしても成立するようなキャッチーさ。このバランス感覚が良い。
3:underscores「Spoiled little brat」
hyperpop文脈でよく名前を見かけるニューヨークのプロデューサー、underscoresの曲を。正直どういう人だかあまり知らないのだが、最近目にする機会が多い。
hyperpop的な曲なのかなと思って聴き始めたら、なんとポップパンク・ギターロックっぽい疾走感ある曲調で始まる曲。こういうビート、特にドラムのハイハットが大好き。フェスとかに行けない日々なので、こういう曲、最近全然聴いてないなー、こういうストレートな曲もやるのか、これはこれで面白いなぁ、これで踊りたいなぁとか思っていた。途中までは。
曲が進むにつれて、ちょこちょこ怪しげな様相。そして遂に訪れる2:30頃の展開。なんだこれ。やっぱりhyperpopだった。これ、こういうアーティストだって知らなかったら、機器の故障を疑うレベルだ。やってることはシンプルだが、こういう展開で持ってくるのか、頭がぶっ壊れそうな最高のバグだ。大爆笑してしまった。フロアで大音量で聴きたい曲。
2:(sic)boy「爆撃機」
最早説明不要のレベルとなっている、(sic)boyとKMによる新曲。今最も注目を浴びている二人と言ってもいいかもしれない。2ndEPからの先行リリース曲。
このタイトルにはこのトラックだと思うし、同様にこのトラックにはこのタイトルだと思うほど、フィットしている。まさしく「爆撃機」という曲だ。とにかく爆風のような重低音が効きまくっていて、身体に響き渡る。バチバチにかっこいいベースリフに、バスドラムやサブベースが乗っかると、もはや無敵感すらある。
(sic)boyのフロウは安定感すら感じるほど。彼の特徴の一つにしっかりメロディを歌えることが挙げられると思うが、この曲のようにメロディの起伏は少なめの曲であっても、この重低音に負けない存在感をしっかり出せる辺り、ポテンシャルの底が知れない。最終盤の暴れ具合は爽快感MAX。
1:宇多田ヒカル「One Last Kiss」
この人の曲について、改めて自分が何かを言う必要はないだろう。自分はエヴァはあまり知らないのだが、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の主題歌であることと、切り離して聴くことはできない。これだけの作品の終幕に際して、ドラマチックになりすぎず、しかし決して表面的でない。そういう温度感で、曲を、物語を少しずつ前進させていく、そういうバランス感。決して踏み込みすぎず、時間の幅を感じさせながら、でも決して第三者的視点というわけではない。とにかく、一つひとつの要素の置き方、組み方、見せ方、聴かせ方に、唸る。
Albums/EPs
Yellow Studs「DRAFT」
最近あまり追ってなかったバンドだが、泥臭く追及してきた彼らのロックンロールが、勢いと共に音源に詰まっている。
Tohji・Loota・Brodinski「KUUGA」
好きな音かと言われれば微妙。ただ、明らかに異質かつ最先端、いやもはや先端とか関係なく、別次元の音に仕上がっているのは確かだと思う。
マハラージャン「セーラ☆ムン太郎」
色物感満載のジャケットにタイトル。一体どんなものかと思ったら、音はガチもガチ。バンドメンバーを見て納得。しかし、その界隈から出てきたアーティストかと思ったら、そういうわけでもなさそうで、一体なんなんだ、凄い。
underscores「fishmonger」
「Spoiled little brat」以外も、面白い曲たくさん。hyperpop、やはり興味深い。
Lil' Leise But Gold「Sleepless 364」
浅い表現になってしまうが、どの曲も、世界観に深みがある。
ミツメ「VI」
ゆらゆらと揺れざるをえない心地よさ。
YonYon「The Light, The Water」
「Bridge」は2月のベストで取り上げたが、他の曲も含めて、リリックに力強さがある。
FINLANDS「FLASH」
勢いあるボーカルとか良い意味で変わらないなと思った。
4s4ki「UNDEAD CYBORG」
日本のhyperpopシーンでは、彼女の存在は一瞬たりとも見逃せなさそうだ。
DEAN FUJIOKA「Take Over」
この人の曲にはいつも驚かされる。
折坂悠太「朝顔」
遂にメインストリームに突き抜けつつあるが、ひたすらに良い歌だ。
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