選択の痕跡

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【ライブの記憶】2022/7/24 lyrical school tour 2022 “L.S.”final@日比谷野音 ~LYRICAL SCHOOL SAGA CONTINUES~

次の体制が明確に"3期"と銘打っているので、この体制を"2期"と称しても差し支えないだろう。 yuu、hime、hinako、risano、minanの5人体制での最後のライブは、グループとして常に目標に掲げてきた日比谷野音
このライブを最後に、yuu、hime、hinako、risanoの4人はグループを卒業することとなる。

とにかく思うのは、無事開催出来て良かったということ。もちろん暑かったのはあるが、天気も気温も、この季節であればこの上ないコンディションだったのではないか。
個人的には、2019年の蓮沼執太フィル以来の野音だ。あの大所帯のフィルが演奏していたステージに、たった5人とバックDJのみで挑むと考えると、感慨深い。

そしてもう一つ、日比谷野音のステージ掲げられた大きなフラッグの一番上にある文章。
LYRICAL SCHOOL SAGA CONTINUES」。 なぜ気づかなかったのか、ツアーファイナルのグッズにも書かれていたこの文章は、ライブを観終えて、殊更大きな意味を持つ言葉なのではないかと思う。
「SAGA」=「(長編の)英雄物語,冒険譚,大河小説。」
リリスクスクールの、冒険譚は、まだ続く。」
これは一体どういうことを表現したかったのだろうか。それについては最後に改めて考えてみたい。

Shazamした開演前のSEのセットリスト(入場したタイミングからのみ)。
Tofubeats Feat. PES:Poolside (Rip Slyme)
Dodo:Renq
Lil' Leise But Gold & KM:Summertime Blue
※バリバリオートチューンがかかった声と、シューゲな雰囲気が絶妙な曲。Shazamで見つからず。
KICK THE CAN CREW:イツナロウバ
Saint Vega, valknee & ORKL:Good Mood Travel
SUSHIBOYS:ISCREAM
chelmico:bff
ズットズレテルズ:僕の果汁
思い出野郎Aチーム:週末はソウルバンド
Dengaryu:Sentimental Journey
Kohh:Tomodachi
真心ブラザーズサマーヌード



このライブは、7月一杯配信でも観れる。目に焼き付けた記憶を配信で保管/補完しながら、まずはライブの記憶を書き残していく。


DJ BIG-Dが、心無しか緊張した様子で、野音の景色を見渡したのちに、トラックをかける。
グループとして目標としていた場所で、"2期"体制最後のライブが始まる。

幕開けは「-R.S.-」。何気に初披露では。あくまで「L.S.」ツアーであることを明示しているように思えるが、次に流れるのはハンドクラップの音。これは「夏休みのBaby」のイントロだ。
"2期"体制として始まりの楽曲。最後のライブをこの楽曲で始めるとは、シンプルだけど、良い。このライブは"2期"体制の集大成なのだ。
それにしても、いつにもまして5人のビジュアルが決まりまくっている。野音の広いステージでも、DJ BIG-Dとターンテーブルの前に5人が揃うだけで、特別なギミックがなくても、画が抜群に決まるのだ。
テンション上げていく曲を続けていく。「Over Dubbing」だ。そして、この日のための短めのラップを挟んで、risanoの掛け声から始まるのは、「YABAINATSU」。ここから夏曲連打だ。短くDJミックスで繋いで、「Pakara!」~「秒で終わる夏」と畳み掛けていく。とにかく最初からフルスロットル。気合が入っている。

自己紹介を挟んで流れるは新譜より「LALALA」。
良い意味で、ここまでの楽曲とは一線を画す雰囲気を持つ。一瞬で野音をムーディーな雰囲気で包む。スキルと経験を積み重ねた5人だからこそ映える楽曲だろう。そしてノンストップで「ユメミテル」へと流れ込んでいく。
この野音という場所で演奏されることに、シーンという大きい視点で見て、最も意義がある楽曲。難しいところはばっちりキメたのに、何でもないところで、歌詞をやや間違えそうになるhinakoが可愛い。「今がベスト/笑える/それがリリスク」というrisanoのヴァースにはいつにもましてグッとくる。まさしくこの5人のリリスクを表していた、このシンプルなラインを聴けるのも、これが最後だ。

ダンサブルな四つ打ちで始まるのは「Danger Treasure」。この曲は、イントロ部分でメンバーが様々な動物の声をまねるのが恒例になっているのだが、今回はhimeがアーニャのものまねをしてるのが、最高に可愛かった。「アーニャ、野音、がんばるます」。
今回のライブは全編通して、構成を担当したALI-KICKの曲間の繋ぎがカッコ良すぎたのだが、最も鳥肌が立ったのが、「Danger Treasure」から「Hey!Adamski!」への繋ぎだ。
yuuとrisano、そしてhimeによる、見覚えのあるダンスが始まったと思ったら、それに呼応するように、徐々に曲が移り変わっていく。ビートを止めないで、リリスクのライブは続いていくのだ。「Let's Contine the SAGA」。
勢い止まらず、yuuの掛け声から「Bring the noise」へ。
現場で観ていた時から気になっていたのだが、ちょこちょこhinakoがDJブースにあるMacBookの外面周辺を覗き込んでいる。カメラか何かあるのかな?思っていたら、どうやらMacBookのあのリンゴの部分で前髪をチェックしていたようだ。こんな使い方するなんて、ジョブズもビックリでは。minanも便乗してやっていて、可愛い。
多幸感ある曲から、さらに多幸感がある「LOVE TOGETHER RAP」へとまだまだノンストップで続けていく。hinakoの「今のカタチが大好き」というラインは、これまで聴いた中で最もグッとくる歌い方だった。野音のステージから見る、LOVEのハンドサインも絶景だっただろう。
第一部最後の曲は「LAST DANCE」。この5人のリリスクを最も象徴する楽曲の一つであることは間違いない。himeが「そんなに泣かないで。みんな笑ってね、最後まで。」とファンに向かって語り掛ける姿には、このライブがどういうものであるのかが投影されているように感じられて、本当に良かった。

コロナ禍で良かったことなんて数えるぐらいしかないと思うが、ライブの間に小休止を挟んでも何の違和感も感じなくなったのは、良い事だと思っている。もちろん真夏の野外ということで、演者・ファンの体調を気遣うという意味でも確実に良いと思うし、小休止を挟んで、ライブのモードも変えられる。DJ BIG-Dの「これが野音っすね」という言葉もなんか良い。


第二部は「Fantasy」よりスタート。メンバーは衣装を変えて、イケてるBEAMSとのコラボシャツを纏って登場。この曲は、バチバチに狂暴なトラックのくせに、5人が楽しそうにステージを駆けまわる姿が、いつも微笑ましい。でも、himeがめちゃくちゃ疲れてる雰囲気出していたのには笑った。
数少ないギミックの一つ、hinakoのばかでか一万円札は、これはこれで良いのだが、その後しばらくステージ上に飾ってあったのはシュールであった。himeが「なにこれ、まじで」と言っていたが、こちらのセリフだ。めっちゃ面白い。
加えて、一万円になれたことをピュアに喜ぶhinako・yuu、ちょっと羨ましそうなrisano、「一万円になれたのかな、、、」と呟くminanの構図が、まさにリリスクだった。

お金繋がりで、「MONEY CASH CASH CASH」をワンコーラス挟んで、「OK!」へ。個人的に、この曲にやられてリリスクにのめり込んだので、思い入れが強く、観れて良かった。
himeが締めで蹴るヴァース、「365×5のマーチ/一番盛り上がるのはどのパーティ?」に答える形で、yuuが可愛く「パジャマパーティー!」とコールして、「パジャマパーティー」が始まる。
非常に"らしい"のだが、ここは冒頭で5人が中央に集まる決まりだったものの、普段そういう決まりがないから意識が薄いのか、yuuとhinakoは忘れちゃうという。ステージ上で「皆集まるよー」って、これは遠足か何かか。めっちゃ面白い。
フックでは5人が縦に並んで、Choo Choo TRAINのダンスまで披露。しかし先頭のhinakoのすねたリアクションを見る限り、どうやら4人で決めたことだったのかもしれない。こういう細かい部分もリリスクのライブの醍醐味だ。
「今夜わたしは飛べる」のラインから、「今夜わたし達は飛べる」と繰り返し「FIVE SHOOTERS」へ。さらに、そう繋げるのか!というような繋ぎから、「Tokyo Burning」へと曲は続いていく。5人それぞれが丁寧に歌うヴァースが沁みる。
次に流れるは「Find me!」。リリスク流のシューゲイザーで、日比谷野音に轟音が降り注ぐ。minanが丁寧に紡ぐ「闇雲に道を歩いている2人」というラインに、いつも以上に気持ちがこもっている気がして、感動した。ヘドバンするDJ BIG-Dにめちゃくちゃ共感する。この曲はそういう曲だ。
「TIME MACHINE」では、また違った轟音が野音に訪れる。ステージに腰かけて歌うhinako、なんかめっちゃ良かった。

メンバーの実体験がリリックに詰まった「大人になっても」は、誰かしら泣くかなと思ったが、みんなやり切った。イントロで、ハンドシェイクするrisanoとhinako。こういう何気ない一コマに良さが垣間見える。
拍手が鳴り止まないなか、第二部最後を飾ったのは「つれてってよ」。メンバーの顔を見合わせるような仕草を見ると、拍手が鳴り止まなかったのは、想定外だったのかもしれない。この体制での初期の人気楽曲であり、今の楽曲とは全く違った雰囲気があるわけだが、これをあえて今やる良さが確実にある。
しゃがんで話すyuuとhinako。ちょっと心配したが、大丈夫そうだったので安心。
ここでまた小休止。hinakoのばかでか一万円札を持って帰るときに、「一万円札になれていいなー」と繰り返すyuu。多分本当になったら、yuuはめっちゃ恥ずかしがる気がすると思って、なんか笑ってしまう。


日が傾きつつある中、ついに最終パート、第三部へ。
「CM-(skit)」に乗せて、DJ BIG-Dがこの日限りのセリフを乗せる。あーそうか、このライブは「超大作SF作品」なのかもしれないと思う。
改めて「-R.S.-」のトラックを流し、涼しげな衣装で"4人"が登場し、始まるのは「L.S.」。
さぁ何が始まるのかと思ったら、最高の見せ場で、hinakoがチアリーダー2人を引き連れて、この日のためだけに作られたばりばりのアイドル衣装で登場!野音のステージで、念願のアイドル衣装を着れて、本当に良かったと思う。後のMCで話していたが、チアメンバー2人はこの日急遽参加してもらったそうで、そういうところが「リリスク」だなと思う。
Bounce」では、いつも通り、himeの裏ダブルピースが最高に可愛かった。このTrap Houseをアイドル衣装のままやるhinakoも、ギャップがひたすらシュールで最高だった。
シャープペンシル feat. SUSHIBOYS」では、メンバーそれぞれのロングヴァースが映える。この曲を聴いたときも衝撃だったな
続くは「バス停で」。着替えから戻ってきたhinakoに対して、「おかえり」というrisano。「ただいま」というhinako。そういうところ。
しかしトラブル発生。hinakoが一度舞台裏に戻ってしまい、yuuとhinakoでいつもやっている、缶コーヒーからのムーブが出来ない!そこで急遽ピンチヒッターminan!配信で残ってないのが残念だが、めちゃくちゃ可愛かった。「いつか思い出そう/こんな日々があったこと」。そういうところ。
「その思い/その笑顔/その声が/この曇り空を/オレンジに染めてく」と紡ぐ、最高にカッコ良いrisanoのオリジナルラップから突入するは「オレンジ」。日曜の夕方に、こんなにピッタリくる曲はそうない。「今がいつも最高」。
後ほど配信リリースが発表された「Summer Trip」は、アゲていくような夏曲ではないが、この塩梅が最高に心地良い。

ここでMCへ。なんていうか、とにかくこのシチュエーションで、卒業に向けて一人ひとりが話していくわけでもなく、こんな自由なMCが出来るのがリリスクだなと思う。野音のステージで、Lil'Yukichiと福沢諭吉を素で間違えるのも、何か面白いこと言ってと言われて、小島よしおをやるのも、後にも先にもrisanoしかいないでしょう。(大好きだよという甘い言葉をかけてrisanoを地獄に突き落とすhinako、この世で最も恐ろしい)
ライオンキングの話をいきなりし出すrisanoと、それに即突っ込むメンバーも、himeの「5年間ずっとつまんない人だったよね」と率直に言っちゃうのも、最高。

そして、最後4曲へ。この4曲については個別に細かくは書かないでおこうかと思う。
「Wings」~「NIGHT FLIGHT」~「The Light」~「LAST SCENE」。 「The Light」ではスマホのライトが、「LAST SCENE」では、有志の方によるサイリウムの演出があり、最高に決まっていた。ありがとうございました。
ステージ上でハグを繰り返す5人が、最後の最後まで笑顔が溢れる5人が、全てだったと思う。


ここでメンバー一人ひとりにも、簡単に触れておきたい。順番は最後の自己紹介の順番だ。

まずはhinako。
看護師とアイドルの両立という困難なことを、しっかりとやり切ったことは本当に凄いことだと思う。
どれだけの苦労があったか、自分には想像も出来ない。
ラップも何も知らない状態から、ここまで来ることが出来た、それだけの努力家なので、この経験を糧に次のステージに進んでほしい。
「LAST SCENE」のhinakoパートの最後。ファンに対して深々とお辞儀をする姿に、hinakoの5年間が詰まっていた気がして、最高にカッコ良かった。

続いてhime。
インタビューを読んでいても、本当に客観的な視点を持って、「リリスクのhime」をプロデュースしていたのだなと感じる。
客観的に見れてしまうからこそ、やるべきと思うことにはストイックに取り組んだ結果が、ここまでのプロフェッショナリズムに繋がったのだろう。所作の一つひとつの綺麗さは群を抜いていた。本当にそこは尊敬する。
でも、これからは客観的な視点ではなく、自分自身を大事にして主観的にやりたいことを存分にやってほしい。きっとhimeが最も大事にしてきたファンのみんなも、それを望んでいる。

次は、yuu。 言語化は苦手と常々言っていたが、苦労しながらも絞り出した言葉は、いつもキラキラ光っていて、素晴らしいものだったと思う。
最後のMCの言葉も、本当に素晴らしかった。
表現をしていく中で、言葉と向き合うことは今後も避けられないと思う。苦手意識をなくす必要はないと思う。でも、実際に出てきた言葉は、素晴らしいものばかりだったということに自信を持って欲しい。次のステージでの活躍を期待している。

続いて、minan。
あえて踏み込んで書けば、このステージはminanにとって、"みんな"のためのステージだったのだと思う。
ここでいう"みんな"は、卒業する4人のことだ。
髪飾りやネックレスには、メンバーそれぞれの色が入っていたように思うし、夏べビで歌詞をとばしたことについても、野音のステージとはいえ、リリスクではよくある話ではあると思うのだが、あえてMCで"みんな"に向けて謝る。
「Wings」の最後に贈った言葉は、「"みんな"なら、どこへでもいけるよ」。
ライブ後にも、"みんな"を気遣うツイートをする
こんなにも愛に満ち溢れたグループに出会うことが出来て、とても嬉しい。
これだけメンバーのことを思えるminanが率いる、次のリリスクを楽しみに待っている。

最後にrisano。
最後の最後まで、risanoムーブ全開だった。「LAST SCENE」の最後でも立ち位置忘れちゃう辺り、本当にらしさを貫いていたと思う。正直こんな人間がいるなんて、リリスク出会わなかったら、知ることはなかったかもしれないとすら思う。
何も心配していないが、とにかくこれからも、その良さをしっかり貫き通して欲しいなと思う。
やりたいことをやってもらえればいい思うのだが、himeが言う通り、risanoにはまだまだ色んな可能性が溢れているはず
一つのことに縛られずに、その可能性を開放していってほしい。


さて、改めて「LYRICAL SCHOOL SAGA CONTINUES」に向き合ってみる。
まず、このライブは、明確に"2期"体制の集大成であったと言える。
ライブは"2期"体制時代のみの楽曲で構成されているし、クライマックスと言える最後4曲は全て新譜からの曲で揃えてきた。宣言通り、アンコールも一切やらない潔さ。期待していた人もいたであろう「永遠にNOWがいいー!」と叫ぶ曲もやらなかった。
これは明確に一つの節目を意識させたと自分は捉えた。

しかし、それでも、「LYRICAL SCHOOL SAGA CONTINUES」なのだ。
ライブの中では5人としての最後のリリースとなるEP「PLAYBACK SUMMER ver.1.3」を、初音源化となる「Summer Trip」を含んだ形でリリースすることを発表する。
そういえば、10月に公開される映画では、この5人での楽曲が主題歌として使用され、楽曲名は公開されていないが、リリスクの楽曲が他にも3曲、挿入歌として使用されているという。
リリスク初のAMラジオにて冠番組lyrical schoolのラジッパ」では、特段のアナウンスもなく、最新回ではminanが一人で担当している。
これらからは、"2期"体制終了という概念が揺さぶられる。
つまり、誤解を恐れず書けば、やはりこれは、「LYRICAL SCHOOL」の物語であり、5人の物語ではない。5人はその物語の一端を担ったにすぎず、4人は卒業して次のステージへと旅立ち、1人は次の「LYRICAL SCHOOL」を改めて形作っていく。5人はそれぞれの物語を自分で創っていくのだ。

すでに"3期"メンバー募集も開始されており、性別不問であることや、一癖ある質問事項に対するリアクションを、Twitterでよく見かける。
個人的にも、これを見るだけでも、次の「lyrical school」も信頼できるだろうなというものだった。
一つの節目を迎えつつも、「リリスクスクールの、冒険譚は、まだ続く。」


最後に、過去のインタビューから、minanの言葉を引こう。
今回の体制変更は、"1期"から"2期"への体制変更に匹敵する逆境であろう。そんな逆境を、「チームリリスク」がどのようにひっくり返してくれるのか、ただただ楽しみだ。

ーーこれまでも、いろいろ乗り越えてきたわけですね。

minan:例えば、小さいことですけど、野外ライブをやる日に雨になって「今日ライブどうしよう」「できないね」っていう時も、工夫してなんとか乗り切ってきたグループなので、それこそリリスクの魅力だなって今回改めて思いました。メンバーのみならず、スタッフさんも含め、めちゃくちゃ逆境に強い“アイデア・グループ”なので。


リリス野音