選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

lyrical school「L.S.」は最高だという話 ~ヒップホップに追いついた先で~

lyrical school(以降リリスク)現体制最後の作品となるアルバム「L.S.」は、まさしく「リリスク」のアティテュードが存分に表現された作品となった。
それはすなわち、過去にプロデューサーのキムヤスヒロがインタビューで語っていた以下のことが体現されているということだ。

──メンバーに望むことは?

キム グループの見え方としては、サクッとライブやってサクッと帰る、でもライブは最高。みたいな感じが理想なんですよ。こいつら地元でずっと一緒にやってきたのかな、みたいな。

現体制最後であることを殊更ドラマティックにはせず、ただただ良い音楽をバッチリ決める。
それこそが、「L.S.」という作品なのではないか。


リリスクのアルバムは、これまでメンバーに対して、コンセプトを事前に説明されていたそうなのだが、今作はそれがなかったそうだ。
確かに自分が一聴して感じた感想の一つは、このアルバムに通ずるテーマやコンセプトみたいなものは視えないなということだった。しかし、「リリスク」であることは、これまで以上に感じる。
そんな作品だなと思っていたら、更なる制作背景を聴いて納得した。
今作は、制作陣がそれぞれに思うリリスクを表現して、楽曲が作られたのだ。
もともとなかったジャンルという概念を、今作はさらに取っ払っているように感じたのも納得できる。

そんなわけで、アルバム全体について語るのは非常に難しい作品だ。プロデューサーのキムヤスヒロは、今作を「キメラっぽいアルバムになったとも評している(有料のBUBKA8月号より引用)。
そんなキメラのような作品は、全体で見るよりも、個別で見ていったほうが良いかもしれない。
グループの目標としていた日比谷野音という、最大にして最後の見せ場を明日に控えた2022/7/23に、無事開催されることを祈りながら、ここからは1曲ずつ確認していきながら、最後に改めて「L.S.」がどのような作品なのかを確認していきたい。



1: –R.S.-
music/arrange:ALI-KICK

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リリスクのアルバムでは恒例な、映画のプロローグ的な楽曲。あまりどこでも触れられていないが、この楽曲についても少し考えてみたい。
シンプルに捉えると、2曲目の「L.S.」と対比させての「R.S.」(LeftとRight)なのだろうか。
「R.S.」でググってみる。そうすると、一番多く出てくるものがあるのだが、あまり好ましくない可能性が高いので、ここでは記載を控えておく。ただ確かに、今後繰り返し参照し続けられるであろうこのアルバムっぽくもあるのかもしれないとも思った。
この展開が目まぐるしく変わる楽曲は、前作も「Wonderland」からの続きであることも感じた。
それは、前作の作りこまれた世界観とはまた違った、リリスクの個性を活かしたテーマパーク「L.S.」だ。
ここが入口。ここから縦横無尽に繰り広げられるリリスクワールドへと突入していくのだ。

2: L.S.
lyrics /music /arrange:ALI-KICK, 大久保潤也(アナ)

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最近の作品は、実質1曲目の曲でブチかますのがリリスク流だが、今作もその期待を一切裏切らずに、むしろこちらの想像を軽く超えてくる、豪快なかましっぷり。
このアルバムが「キメラっぽい」というのであれば、最も「キメラっぽい」楽曲は、この曲で異論はないだろう。
どれだけ展開させるんだ。最初聴いた時は、まじで爆笑した。ここまでやってしまうとは、恐るべしチームリリスク。しかも、これをセルフタイトル(色々な意味が込められているだろうが、自己紹介的なリリックも含めて最も真っ当に受け取ると、「"L"yrical "S"chool」なのだろう)にしてしまうとは。
この楽曲の面白い要素は、ただ好き勝手に展開してるわけではもちろんなく、それぞれのメンバーの個性を最も映える形で活かしていることだ。だからこそ、ファンからすれば、まさしくセルフタイトルにふさわしい楽曲に感じられるし、長らく現体制のリリスクの作品に携わってきたALI-KICK, 大久保潤也だからこそ為せる技だろう。
言及しようと思えばいくらでも出来てしまうが、minanのオートチューンをかけたばちくそにカッコ良いヴァースも、yuuの一瞬で景色を変える澄んだ歌声も、risano・himeのハイレベルなラップの掛け合いも、クイック・ジャパン VOL160でのインタビューでも言及されている「Twinkle twinkle」が「トゥキトゥキ」になっちゃってるhinakoの流石の活舌にも、リリスクのありのままが詰まっている。
そして、それらを全部ひっくるめて、クライマックスには曲がぶっ壊れるほどに加速させてしまうその様には、最高の一言。

3: Bounce lyrics /music /arrange:Lil’Yukichi

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Lil’Yukichiがプロデュースというだけあってか、今作の中でも最も振り切った楽曲となっている。まさしく、リリスク流のTrap Houseだろう。
鋭利なシンセ音が耳につくのが印象的だが、これだけ攻めたトラップにもかかわらず、リリスクがラップすれば、こんなにキャッチーになるのかと改めて驚かされる。
フックの語彙力のない「最高やん」の連発は、文字通りシンプルに最高なわけだが、自分が最も好きなのは、himeの「ウチらの周辺/いつまでもフェス(Yeah)」のフレーズだ。
minanのフレーズから続くリズムを、最後の「フェス」という言葉で急転直下させる持って行き方も身体に響くのだが、何より「Yeah」だ。これは楽曲だけ聴いていても分からないのだが、ライブではhimeがここで裏ダブルピースをすることが多い。めちゃくちゃ可愛い。何度でも見てられるほどだ。そもそも「ウチらの周辺/いつまでもフェス」って意味が良すぎる。リリスクのメンバーのわちゃわちゃ感はまさしくフェスみたいな雰囲気があると思うし、最高のラインを作ってくれたと思う。

最後に、自分はほとんどLil’Yukichiのことは知らないのが正直なところだが、この記事にて、Lil’YukichiがTengal6の楽曲を"凶悪シット"にリミックスをしていたことが言及されていて、この話が、今回の楽曲で文脈が繋がったと考えると、なんかめちゃくちゃ良いなと思う。

4: Pakara!
lyrics:valknee music:バイレファンキかけ子、valknee arrange:バイレファンキかけ子

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リリスクと言えば夏曲の印象が強いが、今作ではこの楽曲がその役割を一手に担っているだろう。バイレファンキで仕上げられたとにかくアゲ曲だ。
自分は過去に以下の通り書いていたのだが、今改めて読んでもまさしくそうだなと思う。

トラックは、もう終始やりたい放題で、音の色も形状もバリエーション豊かに、あちらこちらで鳴っているのだが、リリスクのメンバーがしっかりとこのトラックに乗り切って、完璧にラップをやり切って、自分たちの曲に仕上げていることに、結構感動している。Cメロの、サイレンの不穏さに対するフロウとか最高だ。

こういうヤバい曲でも、何気ない被せや、合いの手にらしさが溢れているから、リリスクらしい曲だと感じられるのだろう。「I/Like/LS5」とクールなテンポ感で幕開けしつつ、最後には「山のほうがまだギリ」と笑いながらメンバーと話す日常を想起させてくれるhimeのギャップがMOMだろうか。曲自体も、夏曲らしく暴れたくなる良い曲だが、それだけに留まらず、リリスクらしさを散りばめてくれるのが、彼女たちの曲の根幹をなす大事な要素だ。(言うまでもなく、それをちゃんと理解して表現しているvalkneeやバイレファンキかけ子など、制作陣は流石だ。)

まぁとにかく、hinakoに「暴れちゃお?」って言われたら、そりゃ暴れるしかなくないか?

5: ユメミテル
lyrics:ZEN-LA-ROCK music:MURO, grooveman Spot, KASHIF, ZEN-LA-ROCK arrange:MURO, grooveman Spot, KASHIF

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こんな肌触りが滑らかで大人っぽい曲まで演れてしまうのかという驚きがある1曲。個人的にはとにかくそれに尽きる。80'sファンクの趣があるこの曲は、少しの前のリリスクでは、十分に表現し切れなかったのではないかと感じる。これまでの経験とスキルがあるからこそ、この温度感で仕上げられることが出来たのだろう。勢いが抑えられた中でも、あちこちから感じられるピースフルさ。これが今のリリスクの一つの極地だ。

一方で、この楽曲のヒップホップ性については、つやちゃんのこの記事にて言及されている
自分はほとんど知らなかった話なのだが、偉大な女性ラッパーの存在、そして日比谷野音を経て、日本語ラップのルーツにまで接続される。最高にクールだ。

6: LALALA
lyrics /music /arrange:PES

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「Tokyo Burning」「Bright Ride」に続き、PESプロデュースの楽曲は、トラックの絶妙な浮遊感にやられる。いつまでも聴き続けられそうな心地良さと合わせて。
そして、もちろんフィクションだろうが、大人になった彼女たちの夜の姿をイメージしてしまうようなリリックには、5年という月日の長さを感じると同時に、一方でこの子はそういう感じだよねみたいな変わらなさも感じる。
「ユメミテル」と合わせて、このムーディな流れは、これまでのリリスクらしさの一歩先を魅せてくれた。



7: バス停で
lyrics:Rachel(chelmico) music:Ryo Takahashi, Rachel(chelmico) arrange:Ryo Takahashi

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chelmicoのRachelがリリックを担当した楽曲だが、とにかく良いリリックだ。
インタビューを読む限り、おそらくRachelは今回の体制変更について知らない状態でこのリリックを書いたのだろう。
この状況においては、どうしてもそういう目線で見てしまうが、そうではないということがこの曲の真髄だと思う。
テーマは、大きな意味での<別れ>だという。それは、あくまで缶コーヒーを飲むことや歯磨きをする、日常の先にあるものだろう。 その上で「一寸先は案外なんも無い」と言い切る。だからこそ「今の今をしっかりと見たい」と今を殊更に強調する。この文脈は、リリスクがずっと歌い続けてきたことだろう。
そんな至極のリリックの一方で、ライブで見せる、hinakoとyuuの缶コーヒーを飲んだり、歯磨きしたり、ムービーを回す可愛すぎる振付が、なお一層のリリスクらしさを届けてくれる、そんな楽曲だと思う。



8: The Light
lyrics:Lil’Leise But Gold music:KM, Lil’ Leise But Gold arrange:KM

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この曲については、以下記事で書き切ったつもりだ。

shogomusic.hatenablog.com

今の時代を、そしてリリスク最深部を捉えた楽曲の一つだと思っている。 一つだけ付け加えるとすれば、 クイック・ジャパン VOL160でのインタビューにてrisanoが語っているエピソードだ。この曲のrisanoのフロウはいつにも増して素晴らしいと思っていたが、このエピソードを読んで、納得した。

私は「The Light」のレコーディングで、あのLil’Leise But Goldさんから「私のフロウを超えて。risanoちゃんならできるから」と言われて。全身全霊を込めて歌ったら、すごいほめてくださったんです。

リリスクと制作陣の有機的な関係性が、ダイレクトに表れているエピソードではないか。制作陣は自らの想像を超えることをリクエストし、それにちゃんと応えるリリスク。これこそという気がする。

9: Find me!
lyrics:valknee music:Lil Soft Tennis, valknee arrange:Lil Soft Tennis

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初めて聴いたのは、リキッドルームでのワンマンライブの最後に、特別に観客にMVを見せてくれた時だったと思う。これはシューゲイザーだと思った。リリスク流のシューゲイザー
線香花火のように乱れ飛ぶハイハットの音に、違和感すら感じさせるほど大きな低音をぶつけるトラックに対して、仄かに悲し気な雰囲気を醸し出すヴァースが作り出す空気には、不思議な感覚を覚える。そして、ざらついた質感のMVはそれを加速させる。
その上で、それらを、かき鳴らすギターが吹き飛ばす。フックに入る直前のカッティングは、MVの映像も含めて、最もお気に入りの箇所の一つで、何度聴いても鳥肌が立つ。
どことなく危ういバランスでなんとか進んでいく曲の中でも、「闇雲に道を歩いている2人」というminanの柔らかなヴァースが、この世界観を優しく包み込んでいる気がする。
そして、崩れた言葉たちを経て、力強く「気にしないでよ!」とエクスクラメーションマーク付きで言い放つ姿は、どこか強がっているように見えながらも、若者のこの先の未来への可能性を感じさせる、そんな楽曲だと思う。

10. Wings
lyrics:BBY NABE music:R.I.K., BBY NABE arrange:R.I.K.

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今作の中で、最もポップでキャッチーな楽曲は、この曲だろう。Twitterでもこの楽曲を好むというツイートをたくさん見かけた気がする。
「飛んでくための羽/とんでもないとこまで」と、タイトル通りのテーマで、どストレートに韻を踏む潔さと力強さ。
もうこのフックでやられてしまうわけだが、そんなフックに対して、かなり攻めているヴァースがさらにこの曲の印象を強めている。
risanoの特技を活かした英語全開のラップも、minanの「友達との遊びで稼いでいる/Life」という切実さも、まさしくカウントダウンのようにフックに向けてぶちあげていくhinakoのパートも、himeの「ウサインボルト」という固有名詞が印象的なフレーズと、いや本当にそうですよという文句の付け所の一切ないセルフボースティングも、どれもにそれぞれの良さが詰まっている。
その中でも、特にyuuのヴァースには度肝を抜かれた。自分が把握するリリスク楽曲至上、最も攻めた言葉を使っているのではないか。
「昔からの夢/みんなにいわれていた無理/耳を傾けずに無視/そこから黙らせた口/Yea」と、あの澄んだ声でラップしたときの爽快感ったらない。実は芯がめちゃくちゃ強い性格を持つyuuが、リリスクに加入した背景を踏まえて、このフレーズを力強く言い放つことに、とにかくグッとくる。
矛盾していることは承知の上で、常識やルールは確かにあるが「常識やルール全て/そんなのない」のだ。

11: NIGHT FLIGHT
lyrics:マツザカタクミ music:高橋コースケ(TIENOWA WORKS) arrange:高橋コースケ(TIENOWA WORKS)

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過剰な音像が印象的ではあるが、テーマとしてはよくあるものだと思う。夜の雰囲気を感じさせるトラックに乗せて、様々な地名の名前をだしながら、自由自在に飛んでいくかのようなリリックを紡いでいく。それでも、いやだからこそ、リリスクらしさが際立つ。
冒頭のrisanoの畳み掛けるラップのカッコよさは言わずもがな。それに対して、himeが確実に重ねる言葉とその姿をライブで観た時には、あまりにカッコ良すぎて鳥肌が立った。
yuuの「答えなんてないね/ただ、進めば My way/世界が広がってく/次は何が待ってる」とフロウをやや崩したラップも前者の二人のラップがあるからこそ、とても良く映える。
「変な踊り/湿度/空気/思い出すと止まんない」とhinakoが歌えば、それは旅行の歌ではなく、これまでのリリスクでの出来事の話としか思えない。
そんなあれこれを全て受け止めた上で、minanは「思い出も/荷物になんだって」と歌う。本当にそうだ。そういった酸いも甘いも詰まった全てを背負いながら、リリスクは「LAST SCENE」を迎えるのだ。

12. LAST SCENE
lyrics:大久保潤也(アナ) music:上田修平 arrange:上田修平

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minanはこの曲を「まさに愛の曲だ」という作詞を担当した大久保潤也は、「誰がどういう選択をしても、それを肯定できる曲にしたかった」という。まさしくそういう曲になっている。
では、自分はどういう曲だと言うだろうか。

この曲に関しては、曲とMVに分けて観ていこう。まずは曲だ。
一聴して、「LAST SCENE」と言いつつも、そこに終わることへの悲壮感はなく、むしろこの先のそれぞれの未来を祝福するかのような曲であることが分かる。曲調も、音の一つひとつがどれも明るいし、音が上がっていくようなフレーズが多いように感じた。複雑な要素はほとんどないと思う。だからこそシンプルに多幸感が溢れるトラックだ
そしてなにより、リリック。大久保潤也は、「LAST」は続くという意味もあり、必ずしも「終わり」を意味しないと書いている。
これを読んで、漸く腑に落ちた。この曲は全くもって「終わり」を描いた曲ではない。トラックに感じた印象と同様、この先の未来をしっかりと描いているのだ。
himeは「つづく暮らし/Don't Stop 音楽」とこの先に暮らしが続くことをラップしている。(余談だが、「暮らし」が「クラシック」にも聴こえるのは気のせいだろうか。リリスクの楽曲にはこういった歌詞カードの言葉とは違った聴こえ方がするワードも多いと思っている。このラインは、リリスクの現体制は終わるかもしれないが、それでもこの名曲は今後も続いていくことを暗示していると思っている。)
minanはより明確に、「はじまり/また終わり/次がUPCOMING/次回作が最高の/チャップリン」と歌い、次の在り方を想像させる。
そうやって未来に思いを馳せながらも、大事なのは「最後のシーン/どんでん返しより/愛とかピース」。いや本当にそれだ。

MVはこれまた傑作である。ここに、チェキを募ってMVを作るという構造についての話は書いたので、もう少し具体的な話をここでは書いておきたい。
MVの中での一番の驚きは、hinakoのリップシンクだろう。実は最初はちゃんと気付けなかった。リップシンクの話を聴いて見返してやっと気付くことが出来た。短いフレーズではあるが、それでも募ったチェキををうまくつなぎ合わせて、作り上げたのはただただ凄いなと思う。
もう一つ気に入ったのは、最後の「愛とかピース」の箇所で、しっかりとピースのチェキを選んでいるところ。やりすぎず、やらなすぎずにその塩梅に信頼感がめちゃくちゃある。
全体的なMVの構図としても、本当にチェキだけでやり切るとは思わなかった。し、5人を一画面に並べることも一切せず、あくまで一枚一枚を繋ぎ合わせて作られたところに、リリスクというグループの矜持を感じる。あくまでメンバー一人ひとりを際立たせること。そのためにチームがある。それこそが現体制のテーマの一つだったかもしれない。
そういった意味も含めて、このMVは、リリスクのメンバー一人ひとりの存在証明であり、ファンに愛されていたことの証明なのだろう。

改めて、自分はこの曲をどういう曲だというだろうか。
この作品全てを通して、最も好きなラインはこの曲にある。もちろんフックのフレーズだったり他のヴァースも最高なのだが、一番は、minanの「すべてが愛に満ち足り/空に月明り/それぞれの物語/の終わり辺り」だ。
ここにリリスクらしさが全て詰まっていると思った。チームリリスクは愛に満ちているだろうし、そんなチームが笑顔でいるところを空の月明りが照らすシーンは容易に想像できる。そんな笑顔の中でも、確実に、それぞれの物語が終わっていく。日比谷野音に向かうそんな淡い瞬間瞬間をそうやって、皆生きている。



以上で全曲確認し終えたわけだが、最後に改めて「L.S.」はどのような作品だったか。
唐突だが、これまで度々引用させていただいているつやちゃんの著書「わたしはラップをやることに決めた: フィメールラッパー批評原論」より、とんでもない熱量の「Wonderland」のレビューに触れてみたい。
このレビューに対して、自分が何かを言うのはおこがましいのは重々承知の上で、あえていちゃもんを付けるとすれば、締めの一文が引っかかっていた。

アイドルラップは、ついにヒップホップへと追いついた・・・・・のである。

ここを読んだ時に、あたかもヒップホップが上で、リリスクやアイドルラップが下かのように捉えられかねないとも思えたのだ。 しかし、改めて「L.S.」を踏まえて、「Wonderland」を聴くと、まさしくこの表現が適切なのかもしれないと感じる。

この時のリリスクは、現行ヒップホップという"借り物"の衣装でパフォーマンスしているようにも感じられたからだ。
それはそれで魅力もあるのだが、確かにこれは「追いついた」作品なのかもしれない。
翻って、「L.S.」はどうか。 リリスクのアティテュードをこれでもかと、しかしあくまで軽やかに表現し切ったこの作品は、現行最新のヒップホップすらも華麗に着こなしている。もう"借り物"なんかじゃ全然ない。
そう、「Wonderland」でヒップホップに追いついたリリスクは、「L.S.」という作品で、間違いなくこれまでの最高到達地点を刻み込み、そして、ついにヒップホップを追い越したのだ!!

最後に。まだリリスク現体制は終わっていない。「L.S.」で見せた更にその先の景色を、日比谷野音で魅せてくれることを期待する。無事に開催され、関わる全ての人の想いが昇華されますように。こればっかりは祈るのみだ。