選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2022.1 Monthly Best Songs

2022年1月に良かった音楽をまとめました。宇多田ヒカルが圧倒的ではありましたが、後半にまとめたそれとは対照的な過剰な鳴りをしている音楽は面白かったです。あとoverused最高でした、解散が残念。

  • Songs

宇多田ヒカル「BADモード」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

2022年初月にして、圧倒的な作品が出てしまった。
そりゃそうなるだろうとは思っていたが、ここで切り拓かれた態度、ムード、スタイル、加えて多方面から紡がれる言説が、この先のシーンに大きな影響を与えていくように思う。
この音楽については、以下で書いたが、本当に"自由"だ。

shogomusic.hatenablog.com

tokion.jp

kompass.cinra.net

www.billboard-japan.com

meetia.net

turntokyo.com

www.billboard.com

www.cyzo.com

open.spotify.com

中村佳穂「さよならクレール」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

紅白でのmillennium parade×Belleとして「U」を披露したことも記憶に新しい中村佳穂が、3/23リリース予定の最新アルバム「NIA」より、先行配信。
クレールは、フランス語で「光」の意。全編通して、カラフルというよりは、不思議な浮遊感がある質感が面白い曲だ。中村佳穂の力強い歌を、さらに遠くへと運んでいる。
< もう少しシンプルなバンドサウンドを軸に、歌で世界観を創り上げていくようなイメージがあったので、ストリングスが全体的に薄っすらと鳴っていたり、中盤のシンセソロ?の異様な雰囲気にはびっくりしたのだが、そういうのを一旦置いておいて、やはり歌だ。頭のワンラインで全てを掻っ攫う。
中村佳穂のある意味ラップとも言えそうな自由な歌と同時に耳に残るのは、ドラムの手数の多さだが、迎えた演者は石若駿。このハイハットはなかなかに攻めていて最高だ。このビートと歌がお互いに自由に絡みあう場で生まれるグルーヴ感は、独特さを極めている。

adieu「灯台より」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

adieuの新作は、毎度のこと素晴らしい座組であって、柴田聡子による作詞作曲、編曲はYaffle。

adieuには不思議な魅力がある。正直に言ってかなり好きだ。なぜこんなにもこの人の歌は届いてくるのか。歌とは違った何かがあるような気がする。もはや詩に近しいかもしれない。
トラックは至極シンプルながらも、メロディには意外と起伏があるのだが、そういう要素は全て後景に追いやられていて、素朴な歌と言葉が躍動している。フィメールメロウラップという文脈で捉えている記事もあったが、確かにラップと言っても良いような、言葉の乗せ方も魅力的だ。特に、随所で見せるちょっと崩したような音の当て方は、アクセントになっていて良い。

realsound.jp

kolme「Upgrade me」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

セルフプロデュースが特徴的な3人組ガールズユニットkolmeがリリースしたミニアルバム「Hajimete No Mini Album」より。
この楽曲自体は昨年末にリリースされているのだが、その時から、イントロの英語でのラップ調のパートには、そのスタイリッシュさに惹かれた。シンプルだし、ありがちっちゃありがちかもだが、良い意味で全体の雰囲気からは浮いているようにも思えるので、セルフプロデュースが故に出来ることかもしれない。
全体のリリックを改めて見ると、良い感じの太々しさと生々しさが詰まっていて、この力強さは良いなと思う。

MINAKEKKE, 君島大空「i/o - 君島大空 Remix」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

ユイミナコによるソロユニットMINAKEKKEの楽曲を、君島大空がリミックスしたこの曲。原曲は知らなかったのだが、今回聴き比べてみて、君島大空らしさが存分に繰り広げられるリミックスで流石だった。
謎な音をあちらこちらに差し込んだり、エフェクトを過剰にかけたり、曲を刻んでリズムに変化を与えたりして、壊れてしまいそうな直前までバランスを傾けつつも、フックで響く「傷だらけのまま時を超えるの / まだ知らないあの時の私に」というストレートなフレーズがグッとくる。このコントラストがたまらない。
RYUTistの「水硝子」でも思ったのだが、君島大空のリミックスワークはハイパーポップ感が前面に出てきて面白い。

Ado「花火」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

満を持してリリースされたAdoのメジャー1stアルバム『狂言』より。他の曲ももちろん良かったのだが、ちょっとカロリー高めでしんどさあるなと思った中で、この曲の温度感がちょうどよかった。
このAdoの個性的な歌にあって、チルやトロピカルな雰囲気のあるEDMをもってきたのが良い。見せどころのフックでは、ドロップで落として、あえてこの声を使わないわけだから。
「花火」というタイトルや曲調からも、サマソニで花火をバックに歌っている絵が思い浮かんだ。

realsound.jp

kompass.cinra.net

羊文学「光るとき」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

最近の羊文学の貫き具合には凄い。ここまで一貫した音楽をやるか。
圧倒的に祈りと希望の音楽。「calling」なんてワードはまさしくだろう。それにあって、メロディがより一層自由になっている。ボーカルのエフェクトや重ね方にも神々しさが宿っている。
全編リリックが良いのだが、最後のラインが最高に素晴らしい。次のアルバムタイトルは「our hope」だそうだ。何か一つの到達点を見せてくれそうだ。期待しかない。

君たちはありあまる奇跡を
駆け抜けて今をゆく

SASUKE「また会いましょう」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

SASUKE、ちょっと凄すぎて、皆あまり受け取れ切れていない感があるがどうだろう。自分も含めて。
なぜに、ここまで絶妙な塩梅で曲が作れちゃうのか。J-POPというポップスの枠の中で、実験的なパートをふんだんに盛り込みながら、R&B的な心地良さをしっかり残す。加えて、ベテランのような安定感と、それだけじゃない初期衝動や遊びを感じる面白さがあるわけで、シンプルに凄い。
どこを切り取っても良く出来過ぎていて、これからどうなっていくのか、本当に末恐ろしい。

RhymeTube, SUSHIBOYS「SPACE」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

ヒップホップシーンで活躍するプロデューサーRhymeTubeによる1stアルバム「KOZMO」より、SUSHIBOYSを客演に迎えた曲を。
最近流行りの音像とは一線を画す安心感の鳴り。イントロのギターリフが印象的だが、心地良く滑らかなに展開していくトラックに乗りながら、ひたすらに畳み掛けるラップ。アルバム通して、このムードが貫いていて、こういう曲久しぶりに聴いたなと思った。

C.O.S.A.「Ghost Town」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

C.O.S.A.の新譜「Cool Kids」も、ひたすら真っ直ぐに聴かせる1枚だったと思う。
コロナ禍も想起させるようなやるせなさや無力感をちらつかせながらも、愚直に突き進むようにラップしていくC.O.S.A.が、いつもながら、本当に頼もしい。

note.com

KM, LEX「Stay (feat. LEX)」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

非常に今更なわけだが、年末年始にかけて、鬼リピートした。
毎年恒例の関ジャムの年間ベストにも選出されていて曲だが、つやちゃんのLEXの分析を読んで、最近漸くLEXのことが分かってきた。
この言葉の乗せ方の中毒性もさることながら、KMの暴力的な重低音と綺麗な鍵盤の間を、力強くもしなやかなLEXのボーカルが躍動している。Yaffleが言及していた、終盤の過剰な展開ももちろん面白い。

tokion.jp

realsound.jp

mdpr.jp

KM, Lil' Leise But Gold「Stay II (feat. Lil' Leise But Gold) 」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

そんな名曲「Stay」を、アコースティックバージョンとして、Lil' Leise But Goldのボーカルにてセルフカバー。
アコースティックな鳴りに変わることで、曲自体は穏やかな印象が強まりつつも、それが故に、言葉の乗せ方の異質さがより一層に際立つ。透明感のあるボーカルもそこには一役買っているだろう。
なんといっても耳を引くのは、後半の展開。穏やかな展開から一点、原曲よりもさらに歪ませて、全方位に雨が弾ける。

BE:FIRST「Brave Generation」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

その勢いのとどまることの知らないボーイズグループBE:FIRSTの新曲だが、何の気になしに聴いたら、まず耳に飛び込むのは、切れ味鋭い疾走感あるギターのカッティング。なかなか爽やかな歪みの鳴りだなと思っていたら、聴き覚えのあるプロデューサータグが。
ここにもKMだ。言われてみれば、SKY-HIプロデュースのグループなわけで、相性が悪いわけがないな。切れのあるギターで疾走させながら、フックでは重低音の鳴らし方とそのリズムで耳を奪う、流石だ。

www.thefirsttimes.jp

vo僕「noise age」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

たまたま見かけて読んだ、PRKS9のニューカマーを対象にした2021年の年間ベスト記事のアーティストの選出が素晴らしかった。どのアーティストも良かったのだが、とりわけ良かった2アーティストを。

まずは、最近uamiとも曲を出していて、おっと思ったvo僕。
仄かに不安になるような、やや雑味がかったギターリフから始まり、やや不安感のあるフロウに緊迫感を覚える。このまま行くわけないだろうなと思ってはいたが、やはり中盤や後半ではボーカルチョップが炸裂して独特の鳴りを聴かせる。この音のテイストが面白いのだが、その音の中でもリリックがちゃんと届いていてくるのが、とても良い。

prks9.com

浅井杜人「いれずみ」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

浅井杜人はめちゃくちゃ声とフロウが良い。特に低い声に含まれるその凄みが、ロックの様相とピッタリだ。
なんとなく、米津玄師を思い出すようなフロウだと思ったりもしたのだが、どうだろう。相当にシンプルなトラックながら、終始ボーカルに耳を奪われ、スルッと聴けてしまう1曲。

PAS TASTA「turtle thief」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

突然現れたPAS TASTAは、「hirihiri、kabanagu、phritz、quoree、ウ山あまね、yuigotの6人が音楽をする企画」だ。この並びをみるだけでも、ある種の期待せざるを得ない。
こういうべきではないかもしれないが、曲を一聴して思ったのは、期待通りこれぞ日本のハイパーポップの決定版という曲だなということ。ヒップホップもロックもサブカルも何もかも飲み込み、過剰にかつ美しく仕上げる。圧巻である。

underscores, six impala「spoiled little brat - six impala Version」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

underscoresの「spoiled little brat」は、ポッドキャスト「POP LIFE: The Podcast」の2021年音楽総括会でも話題に上がっていたし、2021年の重要曲の一つだったことは間違いないと思うが、underscoresが所属しているグループsix impalaがリミックスしているということは知らなかった。
これは、こちらもポッドキャストTALK LIKE BETAS」を聴いていて知ったのだが、聴いてみるとまぁヤバいこと。原曲でさえ相当ヤバいのに、さらに振り切っていて、エグみが凄いことになっている。ここがHyperpopの最先端か。

open.spotify.com

open.spotify.com

open.spotify.com

overused「手紙」

www.youtube.com

各種ストリーミングサービスへのリンク

overusedは最近知って、かなり気になっているバンドだった。
ハイパーポップとは全く違った路線での圧倒的な過剰さ。それはこの曲にも表れており、終始今まであまり聴いたことがないような鳴りをしてる。
どういう音作りなのか分からないのだが、全てが平面のようにも聴こえる。それはいわゆる良い音とは明らかに違う。しかしそれでも、ちゃんと"鳴っている"。しかも、こんな音にあって、軸になっているのはグッドメロディの歌であり、前面に出てきて、曲を引っ張っているというのが更に不思議だ。
違和感しかないのに、全体で見れば良い曲だとしか思えない。音の差し引きの勝負ではなく、とにかく音を足しまくっているように聴こえるのに、それがどこかで転倒して、綺麗に仕上がっているように見える。何度聴いても不思議だ。
特にアウトロでは、もはやシューゲイザーのような甘美さすらある轟音に心奪われる。

overusedはこのリリースをもって解散らしい。非常に残念だが、この音の衝撃は、少なくとも自分の中に残り続ける。

indiegrab.jp