選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2021.1 Monthly Best Songs

2021年1月にリリースされた曲・アルバム/EPから特に良かった10曲を選びました。 年始ということもあってか、新しい音を鳴らそうというチャレンジ精神が見える意欲作が多かったように思います。 加えて、ストリングスを自らの曲に必然性のあるものとしてしっかり鳴らせるかが2021年重要になりそうだなとか思いました。

  • Songs


10:クボタカイ「MIDNIGHT DANCING」

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福岡を拠点に活躍するラッパーがデジタルリリースした新曲。
過去にこのブログでも何度か触れたことがあると思うアーティストだが、基本的にはヒップホップを軸としつつも、チルい音楽をメインにやっているという認識だったものの、今作は頭からかなりダンサブル。 大胆な加工もあり、エレクトロ風味のヒップホップという感じだが、その心地よさと耳触りの良さはこれまでの楽曲と地続きであろうと思う。

あと、曲を聴いていて思ったのは、リリックの一つひとつが聞き取りやすいということ。ラップのように言葉を詰め込むと得てして言葉が断片的にしか聞き取れなくなったり、もしくは聞き取れても意味が取れなかったりすることがあるのだが、クボタカイのラップをそういったことが全くない。シンプルだが、彼の良い個性だと思う。

良いと思ったものは何でも貪欲に取り入れるような、新世代の感覚もところどころ感じられて、Rin音や空音と一緒にどしどし活躍してほしいところ。

最後に、この曲の一番好きなところは、フックのフレーズ。言葉のリズム感と相まって、ふとシーンが目に浮かぶような箇所だ。

MIDNIGHT DANCING
ゆれる まわるふれる 息を止める。
MIDNIGHT DANCING 君とダンスをしたいだけ ダンスをしたいだけ

meetia.net

9:maeshima soshi & Kai Takahashi & Rin音「So Far」

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最近よく名前を見るプロデューサーのmaeshima soshiと、LUCKY TAPESのボーカルリストKai Takahashi、上でも名前に出したRin音が共演した1曲。

maeshima soshiの名前は本当に最近よく見るなと思っていて、あまり何者かは知らなかったのだが、調べてみると、Rin音やクボタカイなどに楽曲提供もしていて、そうなると今回の共演も納得の人選。
Rin音はもともと関係があったのだろうが、ここにKai Takahashiが入ることで、その音に溶け込むような優し気な声とグルーヴ感により、チルのレベルが一段と深まっている。

全編通して耳に残るベースラインの心地よい。シンセベースとベースの2種類を使い分けているようで、低音にも豊かさを感じる。 この低音が下地となり、その上に乗るKai Takahashiの歌も、Rin音のラップも、とにかく心地よい。むしろこのメンバーで心地よくないわけがないのだろう。

8:小林私「恵日」

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2021年要注目のシンガーソングライターのファーストアルバム「健康を患う」より。 2020年ベスト50に「生活」を選んだぐらいにはお気に入りのアーティストだが、アルバムはどの曲も良かった。その中でもこの曲は、小林私が個性的な声がひときわ際立っていると思う。

開幕1秒目の声から、善か悪かと言われれば"悪"の様相。
全編通して、歌の軸を担うのは、小林私の個性である、嗄れ声。重めの楽曲の雰囲気と相まって、この嗄れ声は深く響く。一つのエモさの極みであり、叫びであろう。

この声で、「本日も快晴です」と歌う歌詞には、アンビバレントさを感じるし、なんとも不思議な感覚がある。 楽曲自体は、シンプルな楽器隊で構成されているが故に、歌が、声が、良く響くアーティストだ。この歌の中毒性は半端ではない。

okmusic.jp

7:缶缶「バビルサ」

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歌い手である缶缶に、ボカロPである煮ル果実が書き下ろした楽曲。 缶缶については、今回初めて知ったのだが、なぜこの曲を聴いたかと言えば、煮ル果実の作る楽曲を追っているからだ。 煮ル果実を知ったきっかけは、ずっと真夜中でいいのに。の楽曲である「マイノリティ脈絡」。とにかくこの曲が好きなのだが、この編曲をしていたのが煮ル果実である。 その後も、ずとまよの楽曲には、主に編曲として参加している煮ル果実だが、とにかくこの人の作る楽曲は、展開も音も過剰気味で、それが良い。次から次へと飛び出す音は、びっくり玉手箱という感じである。

今回の楽曲もまさしくそういう楽曲である。らしさを感じる、ごった煮感だ。特に、中盤では、徐々にテンポを上げて、カオスを見せる過剰な展開も見せる箇所は必聴。 そういったカオスさの中でも、フックでは、ボーカルチョップっぽく加工することで、病みつきになるようなテンポ感になっている。こういった耳に残るキャッチーなフレーズがあるからこそカオスが光るというものだ。

これだけ楽曲が自由にできるのは、歌がしっかりしているからだ。缶缶のボーカルは、溢れ出んばかりの勢いがあって良い。今回初めて聴いたが、今後折に触れてチェックしたいアーティストだ。

6:理芽「法螺話 (with Guiano)」

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「ほらばなし」と読むようだ。バーチャルシンガーである理芽に、去年シンガーソングライターとしても活動を開始したGuianoが楽曲提供したのがこの曲。この2人はレーベルメイトであり、昨年のGuianoの作品の中でも「透過夏 (feat. 理芽)」で共演していた。

Guianoの作る曲は、キャッチーさと過剰さが不思議に織り交ぜられたような印象を受けていたのだが、今作はそれと繋がりがありつつも、大分趣が違うようにも思える。

どこか、Billie Eilishの「bad guy」を思い出すような曲の雰囲気である。全体的に音数を絞ってスタイリッシュな音作りとなっている点や、フックでのトラックの音の絞り方などからだと思うが、この辺りのGuianoの音使いを面白い。
いつの間にか、デジタルクワイアのように、薄っすらと重ねられた歌も、不思議な雰囲気を作り出している。特に、最後の大サビで、それまでのお決まりから変化させてくる展開は、この音数の少なさの中での小さな工夫であっても世界がガラッと変わる。特にお気に入りの箇所だ。

5:女王蜂「夜天」

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女王蜂がリリースしたニューシングルの表題曲。
前作の低音を意識した、ダークな様相から一転、一聴してキャッチーさがあり、爽やかな音の鳴りがある。良い意味でJ-POPであると感じる音使いでもある。
しかし、低音の鳴り自体は、とても強い。ベースの唸りはむしろ強くなっているとも思えるが、全体的にそちらに意識が向かないように、低音があまり目立ちすぎないように、プロダクションされた曲なのではないかと思った。(一度気になれば、もう離れられないような低音ではあるのだが)

そして、やはりこのバンドは、アヴちゃんのボーカルが凄まじい。1番と2番では声の使い方が全く違うわけだが、そうなると曲の聴こえ方も全く変わってくる。
ファルセットで歌われるパートは浮遊感を感じるし、地声に近い声で歌われるパートは力強さを感じる。そして、その歌を前にしたときに、トラックの鳴り方も変わって聴こえる気がするのだ。
キャッチーでポップな表情をしながら、その実はやはり女王蜂で聴きどころが満載な1曲だ。
ますます凄みが増していて、独自の路線を突き詰めている女王蜂。いったいどこまで連れて行ってくれるのか、楽しみだ。

また、この曲以外にこのシングルには、「火炎」をアコースティックバージョンにアレンジした「火炎(FLAME)」と、2011年リリースのアルバム「魔女狩り」収録曲「コスモ」の再録バージョンが収められる。
「火炎(FLAME)」の良さは改めて言及する必要もないだろうが、「コスモ」の異次元の歌には度肝を抜かれた。これが、2011年にリリースされていたのか。。。という気分になった。アヴちゃん恐るべし。

4:millennium parade「FAMILIA」

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King Gnuの常田大希が率いるプロジェクトであり、音楽集団であるmillennium paradeのリリースしたデビューアルバムからの先行リリース曲。映画『ヤクザと家族 The Family』の主題歌として書き下ろされた曲であり、King Gnuの井口理がmillennium parade初参加してボーカルを務めている。

これまでもmillennium paradeの曲は、聴いていたようには思うが正直あまりピンと来ていなかった。が、この曲は、聴いてすぐにヤバいと思った。常田本人が、"今後FAMILIA以上の曲を書ける自信がない"というようなことを言う気持ちも良くわかる。

一聴してすぐに思ったのが、これがmillennium parade流のレクイエムなのだということ。「白日」はKing Gnuで奏でるレクイエムであると思っていたが、millennium paradeで奏でるレクイエムは、それと通じるような魂を削るような緊迫感がありながらも、やはり鳴り方は全く違う。
「白日」はあくまでバンドサウンドだったが、「FAMILIA」は幾重にも、デジタルクワイアのように多様な音が重ねられている。そこには、"人"の感触は感じないだが、だからこそ、違った形の緊迫感を感じる。自然の音とは対極にあるような、テクノロジーの、ごつごつとした手触りのある音たち。それが、井口理と常田大希のひたすらに生々しく生を感じさせる歌に重なることで、表現される世界観。これこそが、millennium paradeという超絶音楽集団が、徹底的に音を作り込んだ結果なのだと思う。

これは、millennium paradeでしか出来ない、そして、ここでしか成立しない音楽だろう。この音楽集団の凄さをまざまざと見せつけられた。ひたすらに感服である。

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3:NOT WONK「spirit in the sun」

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北海道の3人組ロックバンドによる約1年半ぶりに4枚目のフルアルバムから、開幕を飾る曲を。
今作は、エンジニアに柏井日向とillicit tsuboiを起用し、音像の細部まで突き詰められて、、、みたいな話もあるのだが、そういう情報なしにしても、とりあえず聴けば、ヤバいよねというのが分かる曲だ。

この曲、途中でめちゃくちゃハンドクラップするし、その裏では口笛も鳴っているし、牧歌的だがちょっとしたカオス感がある。
1曲の中で曲の表情がコロコロ変わる曲は数多あれど、NOT WONKの曲はそれらとは違った手触りがある気がする。なんだろうか。確かに次から次へと場面を変えて描いていく曲の情景が描かれているのだが、その場面の転換がスムーズであり、必然性を感じるような気がする。転換のための転換では決してなく、その先にある意味を持たせた転換。だからこそ、曲調はガラッと変わっていても、音の鳴り方は地続きになっている。そんなような気がする。

ただ、だから何なのかというのはよく分からない。でも笑っちゃうぐらいの過剰さはあるし、音像も独特で本当に面白い。それだけでいいように思う。
だって、加藤修平もアルバムのアートワークについて書いた文章の中で、こう語っているぐらいなのだから。

このジャケットを作るにあたって、私や私たちがそれぞれ考えたことや交わした言葉や関係こそが一枚の写真に収めたかったことではあるけれど、この写真が何を語っているのかまだわからない。このアルバムが何を語っているのか、実は僕もまだ考えている。

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2:ずっと真夜中でいいのに。「過眠」

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ずとまよの新曲は、彼女たちの一層の進化・深化を、また充実した活動っぷりを強く感じさせるものだった。
まず、このように囁くように歌い上げるフック、果たして歌と言ってよいのかと考えてしまった。これは何なんだ。正直自分はこういう歌を聞いた覚えが、少なくともポップスの類ではないように思う。そしてこの繊細な歌に合わせて、音使いの一つひとつも、緊張感ある音に変わってきている。この音像の中でのストリングスの使い方も抜群だと思う。主張しすぎず、しなさすぎず。一つの音で、すべてを壊しかねない音楽の中で、文句の付け所が見当たらない。

ある意味初期のような分かりやすい展開の多さとは違った方向で、リスナーを驚かせるような展開を見せてくるのが最近のずとまよだと思う。初期の曲があるが故、そういった曲をイメージするからこそ、余計に効いてくるのだろう。

そして、毎回書いているが、やはりACAねのボーカルの進化が止まらない。最近の曲では毎回彼女の歌に驚かせられる。こんな歌、よほどの自信がないと乗せられないだろう。
また、彼女の歌と歌詞は、なんとなくの個々のフレーズは耳に入るのだが、その意味が取るには、難解だなと思う。言葉の展開が普通ではないからだ。その言葉とその言葉を繋げるのかという新鮮な驚きがある。そういう独特の世界観を、独特の歌でしっかりと表現できるのは、言わずもがな、そこにトラックにも抜群の自信と信頼感があるからこそなのだろうと思うわけで、そうなると、もうずとまよ無敵では?と思わざるをえないわけである。

1:Awesome City Club「勿忘」

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ACCの新曲は、脚本家・坂元裕二のオリジナル脚本による話題の映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして、大きな反響を呼んでいる。

ACCはいつの間にか3人組バンドになっていた。比較的初期から聴いていたバンドだったが、確かに最近は名前は気に掛けるものの、あまり曲に対する印象がなくなっていたのが事実だ。ただ、この曲はめちゃくちゃ良いと思う。

いわゆるシティポップ的なバンドであり、フェスにもよく出るので、盛り上がるダンサブルな曲を多くやるみたいな印象が付いてしまい、そこからなかなか抜け出せなかったように思うのだが(このシティポップの論文で彼らがシティポップの中でもEDMとして捉えられていることで強烈にこのことを意識した)、ある意味、メンバー2名の脱退という痛みを経て、大きくチャレンジできた楽曲が、今作なのではないかと思う。

音が、大胆に削ぎ落されていて、一つひとつの音がちゃんと立っている。それが故に、曲の作り出す世界観をシンプルに、率直に受け止められる。atagiとPORINのツインボーカルも、これまでもACCの定番であったわけだが、ここでは、これまでとは違った響きを感じる。音がシンプルだからこそ、二人の歌がちゃんと届いてくる。良い歌だなと思う。

単純に好みだというのが大きいかもしれないが、何処を切り取っても、これぐらいがちょうど良い。過剰な音楽ももちろん大好きだが、それはそのほうが驚きがあるからという理由だ。その意味では、この曲にはどこにも中途半端な過剰さはなく、驚きはない。しかし、その代わりに一つひとつの音と向き合える。ビートもリズムも、シンプルで分かりやすい。そこにストリングスが与える彩りが色鮮やかで、何度でも聴きたくなる。本当に良い曲だと思う。

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  • Albums/EPs


quoree「鉛色の街」

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柴 那典さんの記事で知ったアーティスト。このエレクトロ感は好みにバッチリハマった。Hyperpopっぽさもあるが、その割には整っている音像が面白い。

ヨルシカ「創作」

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「風を食む」が大好きなのだが、その流れを汲んだこの繊細な音使いは好み。世界が"広い"なと思っている。ピアノもギターも音色が優しい。

NOT WONK「dimen」

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トラックメイカーと比較すれば、なかなかバンドには難しい状況になってしまっているが、NOT WONKの音にはロックバンドの未来への希望が詰まっているかもしれない。そんな音がひたすらに鳴っている。

女王蜂「夜天」

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上述の通り、3曲ともヤバい。

Kroi「STRUCTURE DECK」

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2021年注目のアーティストである5人組バンド。どうしてもSuchmosの影がちらつくブラックミュージック感だが、そこを超えていそうなポテンシャルも感じる自由奔放さを感じる音楽だ。
「Page」では、曲の中心を担っている唸りまくるベースが作り出すグルーヴ感が見逃せない。

小林私「健康を患う」

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この人の歌は、中毒性が高くて危険だ。しかし、そういう漂う危険さが、より一層の魅力になっている。

おいしくるメロンパン「theory」

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ギターロックらしく、あふれる疾走感に安心する。らしい、刻みまくるハイハットとか、単純に好きなので、こういう変わらなさが良い。

崎山蒼志「find fuse in youth」

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各所で言及される打ち込みの楽曲の面白さもさることながら、やはり彼の歌は良いなと"回転"を聴いて思った。"季節"と"陰謀"を並べてしまう無邪気さも、歌がすべて貫いている。このアルバムを経て、崎山蒼志は今後どうなっていくのか、期待が高まってしまう。

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tokion.jp

KID FRESINO「20,Stop it.」

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どの曲もチャレンジ精神が感じられていいなと思うが、特に長谷川白紙との共演には驚いた。
曲の感じは微妙にハマりきらなかったのだが、インタビューを読む限り、海外を強く意識するなど、かなり意欲的だし、今後も楽しみだ。

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