選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2020.7 Monthly Best Songs

2020年7月にリリースされた曲・アルバム/EPから特に良かった10曲を選びました。
良い曲がめちゃくちゃ多かったですね。

  • Songs


10:アイラヴミー「セーブミー - Moe Shop Remix」

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3人組バンド、アイラヴミーの楽曲「セーブミー」を日本在住、フランス出身のプロデューサーであるMoe Shopがリミックスしてリリースされた1曲。
Moe Shopは「WWW」でその名前を知り、3月のベストに取り上げたこともあって、今回の楽曲を聴いてみたという感じで、アイラヴミーのことはほとんど知らなかったのが正直なところだ。

そんな訳なので、実際に聴いた順序は逆だが、原曲にまず言及しておくと、良い意味でとてもシンプルだ。突き刺さるようなリリックがまず軸としてあり、フォークっぽさとダンサブルな楽曲が、リリックの生々しさと適度な距離感を取りながら引き立てているように感じる。これはこれで、バンドらしさが詰まっていると思う。

そして、今回のリミックス。
イントロからガッツポーズしたくなるほどの壮大さ。そしてビルドアップからのドロップ。EDMマナーに忠実に沿ったような展開が、アイラヴミーのリリックを、より際立たせている。
その後も、エレクトロだったり、ドラムンベースだったり、なんかよくわからないけどかっこいい低音だったり、おもちゃ箱のように次から次へと展開していって面白い音がたくさん鳴っていく、最高に踊れて上がるリミックスなわけだが、決して歌が埋もれない。この曲の軸はあくまでアイラヴミーのリリックであり、歌なのだというのが強く感じられるリミックスになっていることが素晴らしいと思う。

remarkable point:正しい表現ではない気がするが、1:20や2:55あたりの、ドロップ(フック)のあとにさらにドロップかのような最高にダンサブルな展開。



skream.jp

news.yahoo.co.jp

9:FIVE NEW OLD「Vent」

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4人組バンドのFIVE NEW OLDの新曲。今年頭に、ワーナーミュージック・ジャパン内CENTROへのレーベル&マネジメントへと移籍しており、その第一弾となる配信シングルだ。

バンド結成10周年にして日本語詞に初挑戦という触れ込みがついているのだが、これまでもところどころに日本語が入っている曲はあったように思うので、あくまでもメインではという意味なのだと思うだが、それでも初挑戦というのは意外だった。

そして曲自体は、いつも通り最高の心地よさ。英語詞メインでやっていたアーティストが日本語詞に挑戦したことで、そのアーティストの良さが埋もれることはありがちだと思うが、FiNOに至っては、なんら違和感を感じない。リリックが日本語になることで、歌の情報量が増えて、違和感を感じることもあったりするのだが、良い意味で、深く考えずに気持ちよく聴ける音楽だ。 このバンドの曲はリリースされる度に聴いていると思うが、毎度良い曲だなと思うほど、ポテンシャルが高いと感じているので、製作中の模様のアルバムにも期待だ。

remarkable point:メロディに、違和感なく、しっかりとはめ込んだ日本語詞。

8:碧海祐人「夕凪、慕情」

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名古屋のシンガーソングライターの新曲。これまで名前はよく見かけていたが、ちゃんと曲を初めてかもしれない。

一聴して思ったのは、欲しいところに欲しい音が鳴っている曲だなということ。音数はシンプルだが、ちゃんと一つひとつの音が立っていて、それでいて全体的に心地よい雰囲気を形作っている。優しさ溢れる声と歌も染みる。ラップっぽく、畳み掛けるヴァースも良い感じ。全体として、言葉の使い方も綺麗だ。
すでに完成されているように思えるので、特に何も言うことがないなという感じだ。ちなみに今回改めて調べて知ったのだが、この曲のドラムも石若駿らしい。。。どんだけ仕事するんだこの人と思うが、やはりこの人が参加するほどの注目株ということだろう。

remarkable point:欲しいところに欲しい音が鳴る気持ちよさ。



spincoaster.com

7:tricot「おまえ」

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4人組バンドtricotの配信シングル。
これぞtricotというような驚き満載の展開だが、今作はなんといってもギターの音作りではないか。こういう太いギターを思いっきり聴いたのはとても久しぶりな気がする。
ロックという感じの勢いが強く感じられて、ああロックバンドってこれだよねというようなカッコよさがある。
ドラムの疾走感も素晴らしい。ところどころに打たれるドラムロールは曲にとてつもなく勢いをもたらしているし、全体としてもスネアの音、使い方がとても好きだなと感じた。

余談だが、オフィシャルに「tricotらしい変化球満載のPOPなサマーチューン」と書いてあって、これってサマーチューンだったのかと思ってしまった。夏感あるか?とも思わなくもないが、この上がる感じは確かにサマーチューンの条件をしっかり満たしているなと思った。

remarkable point:ギターの太い音を、掻き鳴らすフック。

6:SASUKE「Times」

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新世代のトラックメイカーによる新曲。
この曲は新譜をランダムで再生していて、たまたま聴いたのがきっかけのため、最初は誰の曲だか分からず聴いたのだが、まずイントロから、ずいぶんと渋いグルーヴを見せてくれるなと思った。
こういう曲を作りそうなアーティストがいくつか思い浮かんだので、一体誰の曲だろうと思ったら、まさかのSASUKE。これは全く予想だにしていなかった。
改めて聴きなおしてみても、全編通して、本当にグルーヴが心地よく、こんなことまでできたのかと、この人の多彩さには驚かされるばかり。

そして、今回感想を書くにあたって、調べたら、なんとこの曲は、NHK Eテレ中学、高校生向け数学番組 "アクティブ10 マスと!"テーマ・ソングのために書き下ろしたものだとういう。
正直そんなこと、全然感じていなかったのだが、歌詞を見て納得。本当に器用なアーティストだ。

ぜひ、17歳が奏でる渋いグルーヴと、発想力のなせる業の歌詞を一度体験してみてほしい。

remarkable point:終始、腰に来る、渋いグルーヴ。

5:eill「踊らせないで」

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女性シンガーソングライターによる、テレビ東京ほかドラマ25「女子グルメバーガー部」主題歌に抜擢された新曲。

彼女はK-POPの影響も強く感じさせるような、ダンサブルな楽曲が特徴だと思っているが、そんな彼女が、「踊らせないで」なんていう曲を作るとは、という驚きがあった。

その実、曲を聴き進めれば、この「踊らせないで」は、"誰かのステップで/決まったリズムで"という枕詞で装飾されていることにすぐ気づく。
やはり、彼女は、踊りたいし、踊らせたいのだろう。しかし、それは、決して"つまらない"ものであってはならない。形だけのものであってはならない。
それがどういうものなのか、うまく言語化できない(し、したくない)のだが、そういう心意気がとても伝わってきて、嬉しくなった。そんな1曲。

remarkable point:ギターソロから転調して、フックを経て、ラストに向かっていく最後に向かっていく展開。シンプルながら大きい熱量を感じさせる。

4:Mom「あかるいみらい」

今最も注目されているトラックメイカー/シンガーソングライターと言っても過言ではない、Momの3rdフルアルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』から。前作も非常に良かったが、機材を変えたことで、音の質が変わり、そしてこれまで標榜していたクラフトヒップホップの次を見せつけてくれた。

まずタイトルから、ディストピアを強く感じさせる。全部ひらがなで、なんか怖いやつ。曲はと言えば、バスドラム連打から、ガラスの割れる音。Momの「あかるいみらい」という囁き。アコギでの綺麗な弾き語り。謎のうめきのような声で、一気にムードが変わり、カウント音から、リリックに入っていく。 ここまで12秒。意味の分からなさがすごい。

そして、最初のヴァースが、

アイスクリームが溶けるその前に
電光石火で切り込んで
滑らかに頭を撃ち抜いて
首を頂いてさっと帰ろう

だ。この世界観はなんだろう。これをMomの幼さもどこか感じさせる声で聴くと、リリックの淡々とした怖さとのアンビバレントさに、よく分からない感情が生まれてくる。ただ、そういうところが良い。

この分かりにくい時代に、分かりやすそうでいて、そこでは決して収まらない表現を続けているMom。インタビューを読んでいると、彼の考えや今のムードが、如実に反映されている曲だなと思う。彼が今後どんな表現を続けていくのか、楽しみでしょうがない。

余談だが、締めのリリックは、「ヒールを履いた美女がワンと吠える」というラインは、この曲の持つディストピア感と、これを書いているタイミングとが重なり、「チェンソーマン」を強く想起してしまった。マキマ。。。

でも以下のインタビューに、

当初は多分“カルトボーイ”のような具体的なイメージやキャラクターが無かったんですけど、ディストピア的なところで、少年ジャンプ的にガムシャラにやる曲で。

とあるのですが、まさかね、、、

fnmnl.tv



remarkable point:終始、過剰なまでに鳴らし続けるバスドラム。こういう過剰さは、JPEGMAFIAや100 gecsも想起される。



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mikiki.tokyo.jp

3:RYUTist「ALIVE」

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新潟市中央区古町から生まれた4人組アイドルユニットの新譜より、あの蓮沼執太フィルが提供した1曲。
あまりこのアイドルグループのことは知らなかったのだが、まさか蓮沼執太フィルが曲提供をするなんて何事かと思った記憶がある。

本当にアイドルに蓮沼執太フィルの曲が消化できるのかというような、勝手な心配すらちょっとあったのが正直なところだが、この7分弱の曲は、最初から最後まで、自分の心配を綺麗さっぱり吹き飛ばす、会心の1曲だった。

全体として、"重ねる"という言葉がとてもしっくりくる音楽だ。リリックの中にも出てくるし、蓮沼執太フィルの多様な音と、4人の透明感のある声との重なりは、見事なまでだ。
中盤のポエトリーリーディングも見逃せない。このパートがあることで7分弱という曲の長さを全く感じさせない。

フックでは、"スワイプ"・"カットアップ"・"フラッシュバック"・"タッチ"という4つの英単語の使い方と歌い方がとても良い。この4つの言葉で、4人の快活で元気な様子が、ありありと浮き出てくるようだ。

総じて、何の文句のない、ただただ良い曲だ。これこそまさしく"グッドミュージック"ってやつだろう。

remarkable point:永遠に聴いていられるかのような心地よさがある、多幸感あふれるフック。



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2:イヤホンズ「記憶」

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高野麻里佳高橋李依長久友紀の3人からなる声優ユニットイヤホンズ。そんな彼女たちがリリースした3rdアルバム『Theory of evolution』より、□□□の三浦康嗣のプロデュースの1曲を。

これはいったい何なんだろう。普段聴いている音楽とは確実に違う。でも、これこそが"音楽"とすら感じる力がある。

声だけで勝負する声優が、歌だけでなく、ポエトリーリーディングやラップを混ぜながら表現していく一つひとつのリリック。そして、そのリリックに合わせて組み込まれる生活音や環境音。
音とはなんだ、歌とはなんだと考えさせられる。

今回のアルバムは、2020年のイヤホンズ流“音楽の進化論”との記載があるが、まさしくだ。これは自分がこれまで抱いていた音楽への固定観念をぶち壊してくれた1曲だ。いや、諭吉佳作/menの荒ぶり具合を見ても、自分だけに限らず、JPOPの枠を押し広げた1曲であることに間違いないのだろう。

いや、それにしても凄い。

remarkable point:一つひとつの音に込められた意味合いと必然性。



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1:君島大空「火傷に雨」

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君島大空の新曲。ドラムはバンド編成時のメンバーと共にゆかりのあるカフェの地下室を借りて録音された、石若駿によるもの。それ以外は全て君島大空本人による演奏。
君島大空というアーティストが、どういうアーティストであり、どういう音楽を奏でるのか。
それが、余すところなく表現されている音楽。
それ以上でも、それ以下でもない。とりあえずこの音楽は、もっと多く聴かれてほしい。心の底からそう思える音楽だ。
曲については、これ以上語る必要はないだろう。ぜひ。

ちなみに、この曲は2年前にSoundcloudにアップロードされたバージョンがある。シューゲイザーのタグがつけられたこのバージョンと今回のリリース分の比較を楽しむのも良い。



remarkable point:君島大空の音楽だということが、一聴して分かるほどの、彼が奏でる意味のあるすべての音一つひとつ。

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  • Albums/EPs


betcover!!「告白」

「Love and Destroy」は小袋成彬プロデュースとのことで話題にもなったbetcover!!の2ndアルバム。
なんとも不思議な空気感だ。今っぽいような気もするし、そうでない気もする。しかし、なんだか気になる存在であることは確か。
Momと並んで、時代を切り取る、今見逃せないシンガーソングライターの一人であることに間違いはない。

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banvox「DIFFERENCE」

banvoxの新作は、全曲ヒップホップという意欲作。EDMをベースに多様な音を魅せてきた彼の幅の広さを改めて見せつけた形となっただろう。
個人的には「LazerBeam」というタイトルから、「Laser」をどうしても思い出すのだが、Laserのカラフルさとは対象的に、シンプルな音像で展開させるやり口に、なるほどこう来るか、と思わずにはいられなかった。

RYUTist「ファルセット」

「ALIVE」は紹介したが、他の曲もあまりにも豪華すぎる1枚。
Kan Sano、柴田聡子、パソコン音楽クラブ、TWEEDEESなど、とにかくひたすらに良いアーティストが、ひたすらに良い曲を作って、それを4人がしっかりと表現した、そういうアルバムだろう。
最近は聴かない気がするが、"楽曲派"という言葉が、ぴったりの1枚に仕上がっている。

Mom「21st Century Cultboi Ride a Sk8board」

全編通して、Momとしての世界観が見事に表現されている。こういう音楽を"しっかり"とやれるアーティストはそう多くない。

PUNPEE「The Sofakingdom」

PUNPEEについては、めちゃくちゃ好きかと言われれば、正直そこまでではないのだが、どの曲を聴いても、おっと思わせるような展開やメロディが出てくるのが、凄い。

イヤホンズ「Theory of evolution」

「記憶」が凄すぎて、なかなか他の曲を聴き込めていないのだが、立ち位置ややっていること含めて、"歌"の可能性を押し広げているアーティストだなと思う。