選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

絶好調・5本のマイク・咲き誇る!!!!! 〜リリスクことlyrical schoolの話〜

2020年は、現在進行形でとんでもない年になっている。この惨事は人類史に残る1年となることだろう。特に上半期は、どうしようもないやるせなさに塗れる日々だった。
こと音楽については、インディーズ界隈に渦巻いていた、めちゃくちゃ面白くなりそうな空気感が、コロナ禍でぶっ壊されてしまった感覚がある。
確かに、YOASOBIなどの、"今"を体現するアーティストも出てきているし、リモートでの音楽の在り方の模索など、興味深い出来事もなくはなかった。
それでもなかなか前向きになれるようなことはない状況だった中で、このコロナ禍における、個人的に唯一とも言っていいほどのポジティブな発見があった。
それが"lyrical school"、通称リリス。公式プロフィールによれば、5人組ガールズラップユニット。あえて言ってしまえば、ヒップホップアイドルユニットだ。

この記事は、ポエムみたいなものだが、リリスクがめちゃくちゃ面白いと思っている今の感情をパッケージしておくために、書き連ねていく。
リリスクについての細かい説明はここでは書かない。良い記事がいっぱいあるので、知らない方は例えば以下の辺りを見てもらえばいいだろう。
HIP HOP×女子アイドルの黄金比「リリスク」に一緒にハマりませんか!!
新参ドルヲタが秒でリリスクにハマった話

さて、もともとリリスクは知っていたし、ライブは大分前、おそらく前体制の時に1回見たきりだが、こんな記事でも紹介したことも、マンスリーベストにも年間ベストにも入れたことがある。
が、改めて今回の"発見"に至ったきっかけは、4/22にリリースしたEP「OK!!!!!」の表題曲"OK!"だ。 これがとにかく良い。120点満点である。
全く偶然ではあることには違いないのだが、このコロナ禍におけるリリックとしては、とにかく突き刺さるものがあったし、曲自体も素晴らしかった。(ここでは曲に言及すると話が長くなるのでやめておく。"OK!"の話ここに書いた。)
そんな矢先にコロナ禍において、リリスクが仕掛けてきたのが、リモートライブ。
これで完全にやられてしまったのだ。
曲が良いのは知っていた。それはもう当たり前のように次から次へと良い音楽を奏でていく。
大幅に予想外だったのは、リモートライブからも溢れんばかりに伝わってくるメンバー5人の"個性"だ。
そもそもこのリモートライブはまずその仕組みからも驚かされた。
なんとメンバー各自が一人で自ら撮影した動画を、つなぎ合わせて1つの動画にしていた。ちなみにこれを知ったのは随分後。初見では気づけないほどに、自然な動画だ。

こんな感じで、リリスクを発見し、色んな記事を読んだり、改めて曲を聴きなおしたり、Youtubeを漁ったりして、今に至る。
確実に今のリリスクは絶好調に違いなく、面白さに溢れているし、可能性しか感じないのだが、リリスクの何にそんなに惹かれたか。良いものは良いので、あえて言葉にする必要性もないとは思うのだが、3つ考えてみた。

  1. 5人の"個性"
    まずは上にも書いた通り、5人の"個性"だ。
    "個性"というと、最近はとかく分かりやすく刺激的なものが求められる印象がある。"個性的"というと、"変わっている"と変換されることもあるだろう。
    しかし、"個性"とはそういった何か特別なものではなく、一人ひとりの人間のそれまでの思考や経験が表現されたものなのだと思う。
    その点、リリスクの5人は真っ当に"個性"がしっかり表現されている。その"個性"が5本のマイクから次々と放たれるラップで十二分に表現されているのだ。
    ぶっちゃけめちゃくちゃラップが上手いわけではないと思う。しかし、一人ひとりのフロウが全然違うし、リリックも個人に紐づいたものになっていたりする。
    そういうところから、自然と滲み出てくるものこそが、"個性"なんだって、改めてリリスクのおかげで気づかされた。
    自分はまだ生では観ていないライブに関しては、リリスクは振付がないという点も驚きだ。5人が自由に動き回るスタイルであり、ライブ動画を見ても、メンバーの一つひとつの動きから、溢れ出る"個性"が止まらない。
    余談だが、ライブの形態がなぜそうなったのかの細かい話はインタビュー記事に色々ある。メンバーからKANDYTOWNのようにライブするのはどうかとプロデューサーに提案した結果、二つ返事ですぐやってみることに、そしてそのままそれが定着するといった流れだった模様。
    また、ほぼ同時期に骨折してしまったメンバーに対して、"他のアイドルさんがめっちゃ振り付きで踊ってる中で、全く振りがなくて、しかも一人が棒立ちって、普通に格好よくないですか?"みたいなことがメンバーからさっと言えてしまう発想の柔軟さと自由さ。(この二つの逸話は、「インタビュー:証人になって欲しい――ワンマン・ライヴ〈TAKE ME OUT〉開催を控えるlyrical schoolの“いま” - CDJournal CDJ PUSH 」より。)
    この話から、チームリリスクの中での、所謂心理的安全性の高さが垣間見えるわけで、こういう環境だからこそ、こんなに"個性"が見えるのだろう。
    曲もパフォーマンスも日に日に増す自由度。それでも"個性"がぶつかり合うことなく、かけ算で魅力が倍々になっていく。
    アイドルというのは、プロデューサーにガチガチに決められたら枠を、予想外に飛び越えてくるところに面白さがあると思っているのだが、それとは対称に、5人の"個性"で余白いっぱいのキャンバスを自由気ままに描くやり方で、軽々と予想を飛び越えていく姿が観れるのは、リリスクの醍醐味ではないか。

  2. ヒップホップ×ポップス(×アイドル)
    そもそも、自分が好きになる音楽は、"この音楽が色んな人に聴かれたら、社会がめちゃくちゃ変わるんじゃないか"と思わせるものが多い。というかそれが一つの条件になっているとすら言えるかもしれない。
    その意味で、リリスクの音楽は、その条件を確実に満たした。
    最近のポップスにはヒップホップの要素が含まれることが良くある。星野源だって、ヒゲダンだって、King Gnuだって、宇多田ヒカルだって、米津玄師だってそうだろう。
    でもこれはあくまで、ポップスにちょっとヒップホップの要素を入れたという感じに過ぎない。
    一方、KOHHやら舐達磨やらの日本のヒップホップも非常に人気はあり、最近ではRin音のスマッシュヒットも記憶に新しく、自分も大好きだが、どうも界隈感が強いのが正直なところ。
    そこでリリスク。完全にヒップホップとポップスの中間をぶち抜こうとしている。大前提としてキャッチーで聴きやすい曲の中で、歌もあるし、ラップもあるし、ヒップホップの中にも今っぽいトラップ調があれば、オールドスクールっぽいものも。
    そこにはジャンルへの必要以上な拘りは見えず、壁がない。リリスクであればいいという強い軸が垣間見える。
    しかもアイドルとしての破壊的にキャッチーな顔も持ちながら。
    このアイドル要素が、ヒップホップへのとっつきにくさというか、ハードルの一切を取り払っているとも言えるかもしれない。
    これらからは、メタル×アイドルでBABYMETALが日本中、そして世界を驚愕させていく姿に覚えた興奮の予感をリリスクにも感じてしまっている。
    リリスクのような音楽が、もっと街中に流れたら、そりゃ良い世の中ではないだろうか。

  3. "崇高な"ビジョン
    そして、最後にプロデューサーによる"崇高な"ビジョン。
    以下「lyrical school「BE KIND REWIND」インタビュー|5つの個性がビートを刻む ガールズラップの可能性 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー」より引用。

──メンバーに望むことは?
キム グループの見え方としては、サクッとライブやってサクッと帰る、でもライブは最高。みたいな感じが理想なんですよ。こいつら地元でずっと一緒にやってきたのかな、みたいな。2018年の「TIF」でSMILE GARDEN(屋外ステージ)に出たときに、奥から5人がダラダラ出てくるのを観て「あーこれこれ」と思ったんですよね(笑)。ほかのアイドルさんはパパパッと出てきて板付きで始めるのに、リリスクは水飲みながらダラダラと出てきて、この感じはカッコいいなという手応えがあって。

"ダラダラ出てくる"アイドルって、ヤバすぎる。面白過ぎる。
それでいて、"ライブは最高"って、もう言うことない。こういうのって綺麗すぎることを掲げがちだと思うが、このビジョンには共感しかない。
こんなことを考えているアーティストはなかなかいない、ましてやアイドルには。


ここまで頑張って勢いで書いてみたが、まぁ碌な文章が書けずに申し訳ない気持ちが強い。
人間というのは都合のいいもので、結果論でなんでも辻褄を合わせようとしてしまう。今になっては、ここまでハマっている理由なんてどうとだって言えるだろう。
でも頑張ってそれを差し引いたとしても、やはり可能性に溢れているなと思う。
ここまで読んでくれた方は、きっともうリリスクを知っている方がほとんどだとは思うが、ちょっと聴いたことがあるぐらいであれば、改めて聴いてみて欲しいし、それでしっくりこなかったとしても、リリスクのことを頭に残しておいて欲しい。
彼女たちの強みはライブだという中で、なかなかライブがしづらい期間が続くと思うが、そんな逆境も彼女たちなら吹っ飛ばしてくれるだろうという期待が強いし、
きっとそのうちめちゃくちゃ面白いものが見れるはずだから、それを見逃さないで欲しい。


正直、リリスクは、人気が拡大していっているかといえばそうでもないと思う。Googleトレンドを見ても、Youtubeの再生回数を見ても、現状維持中というのが実際のところではないか。
しかし、とても真っ当なやり方をしているなと思っている。良くも悪くもSNSをめちゃくちゃ有効に活用してるわけでもないし、話題作りを色々してるわけでもない。良い曲を作って、良いライブをする、それを徹底しているように見える。そこにはチームリリスクの信念みたいなものを感じるのは気のせいか。
でも、やはり良いアーティストはもっと聴かれて欲しい。君島大空とかもそうなのだが、再生回数とか一桁足りないんだよね。
言ってみれば祈りみたいなものだが、でもやはり、こういう状況を打ち抜く姿こそが、観てみたい。 当たり前のように良い音楽を奏でるリリスクが、当たり前のように広く聴かれれば、色々あるけれども、世界がちょっと良い方向に行くんじゃないかなって思うので。


最後に改めて書いておこう。
絶好調なチームリリスク。5本のマイクで紡がれるラップ、それを支える一つひとつ。それぞれが今に咲き誇るかのように輝いている。
そんなlyrical schoolに気が付かずに見流すなんて、勿体ない。




以下、動画や参考記事を。

lyrical school REMOTE FREE LIVE vol.1

www.youtube.com

モートライブ第一弾。
最近曲が多めで、今のリリスクらしさが詰まっている40分になっていると思う。
自分はこれで持ってかれた。 一人ひとりの個性がこれだけでもめちゃくちゃ分かる。 余談だが、himeが盛れないのでiPhoneのインカメでずっと自分を見るとか地獄だったと何かの動画で言っていたが、この動画のhimeめちゃくちゃ可愛いなと思っている。

lyrical school REMOTE FREE LIVE vol.2

www.youtube.com

モートライブ第二弾。
メンバーも少し慣れたのか、第一弾よりも肩の力が抜けて、やりたい放題であるが、それが良い。
メンバーも同時に公開時に初めて見たようで、チャット欄のやり取りが微笑ましい。

lyrical school REMOTE FREE LIVE vol.3

www.youtube.com

当記事作成時点の最新のリモートライブ。第三弾。
第一弾、第二弾の伏線を回収するかの展開は面白いし、何よりメンバーが楽しんでライブする姿がめちゃくちゃグッとくる。
新曲も2曲あり、めちゃくちゃ良い曲に仕上がっている。

インタビュー:証人になって欲しい――ワンマン・ライヴ〈TAKE ME OUT〉開催を控えるlyrical schoolの“いま” - CDJournal CDJ PUSH

新体制になってから半年ほど経ち、2017年末のワンマンライブ前のインタビュー記事。
本文中にも出した2つの話が両方出ているのはこの記事だけでは。
新体制での葛藤も見えるが、だからこそ2つの話に繋がったという展開も納得。
終始ぶっこまれる緩いやり取りや、メンバーそれぞれの"らしい"発言が、何とも良い空気。

lyrical school(minan / hime)「この5人だったらどこまでも頑張れるかなって」[ Special Interview ](2017年11月15日)|BIGLOBEニュース

こちらも一つ前の記事と同時期のもので、minanとhimeの二人のインタビュー。
旧体制にいた2人からの視点が興味深い。

lyrical school「BE KIND REWIND」インタビュー|5つの個性がビートを刻む ガールズラップの可能性 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

2019秋にアルバム「BE KIND REWIND」をリリースした際のインタビュー。
プロデューサーのキムさんと、作詞作曲を多く担当する大久保さんのインタビューもあって面白い。

lyrical school プロデューサー・キムヤスヒロに聞く 新アルバムやMVへのこだわり「長いようで短い青春と重ね撮りした“VHS”」 | ガジェット通信 GetNews
lyrical school プロデューサー・キムヤスヒロがメンバーにおすすめしたい映画とは? アルバム『BE KIND REWIND』と「青春」の関係性も | ガジェット通信 GetNews

珍しいプロデューサー単独の長尺インタビュー。
この人がめちゃくちゃ色々考えているからこそのリリスクだろうことが良く分かる。 メンバーへのおすすめ映画もガチな感じで面白い。(自分は映画は全然分からないが。。。)

アイドルが未経験でラップグループに!躍進中の「lyrical school」に聞く « 日刊SPA!

ちょっとライトなインタビュー。
アイドルなのか、アーティストなのか。
この手のユニットだと絶対に聴かれる話の回答にも納得。
それにしても、みんな体力お化けなんだね、凄い。
メンバー同士のケンカに関する話の中でのminanの発言は流石すぎた。らしい。

【インタビュー】lyrical school、挑戦作『OK!!!!!』でネクストフェーズへ | BARKS

新作EPに関するインタビュー。
"Last Summer"に関する逸話が面白い。
全体的に今の良い感じが滲み出ている。

lyrical schoolから届いた新たな挑戦の詰め合わせ――himeが語る新EP『OK!!!!!』 | Mikiki

hime単独という珍しい感じだが、本当に夏フェスぴったりだと思うので、
来年こそは。

lyrical school|めちゃくちゃ逆境に強い“アイデア・グループ”なので | ガルポ!-ガールズポップ専門情報サイト

モートライブに関する苦労が語られているが、 そんなに大変だったのか、、、という感じ。言われてみればその苦労は納得できるものだが。
それにしてもリモートで撮ったものを合わせて、あのクオリティになるのは本当に驚き。 そして、タイトルにもなっている締めの「めちゃくちゃ逆境に強い“アイデア・グループ”なので」がめちゃくちゃ良いね。

ソーシャルディスタンスで失われた物語を、僕たちは再構築する。科学文化作家・宮本道人氏インタビュー。|Less is More.by info Mart Corporation

ソーシャルディスタンスの時代における創作に関する記事だが、
ここのリリスクのリモートライブが出てくるのがめちゃくちゃ良い。




www.youtube.com

最後に貼っておく。
最高の曲だと思う。