選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2020.2 Monthly Best Songs

2020年2月にリリースされた曲・アルバム/EPから特に良かった10曲を選びました。特に意識していないのですが、2月はアルバムのピックアップが多いですね。良かったら是非チェックを。

  • Songs


10:Chara+YUKI「You! You! You!」

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その名の通り、CharaYUKIという日本を代表する女性アーティスト2人によるボーカルユニット・Chara+YUKIが2/14にリリースしたミニアルバム「echo」より。ストリーミングは3月に配信が開始されたということもあり、そもそもこのリリースは完全にノーチェックだった。

CharaYUKIも、その突き抜けた個性を持つ、抜群のアーティストであるが故に、個性がぶつかってしまうのではないかと思ったが、そんなわけなかった。お互いにそんな低レベルの問題は優に乗り越えてきた大御所だった。
この曲は、Seihoアレンジのテクノであり、このミニアルバムの中でも飛びぬけてダンサブルである。この2人は声が特徴的なので、他の曲も含めてそういった声の部分が印象深いが、この曲は、固めの音の質に合わせて、CharaYUKIの声もエフェクトがかけられていたり、大胆に様々な電子音が飛び込んできたりして、2人の声や歌の個性というよりも、全体を通してテクノとして統一感ある音楽になっている。これは無限に聴けるやつ。
しかし、その中でもポップスとしての趣は残っており、Seiho・CharaYUKIという三者の地力を感じる。
個人的にはYUKIのラップが痺れるぐらいカッコ良い。J-POPの底力を感じた1曲。

natalie.mu

9:釈迦坊主「Shinjuku」

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トラックメイカー/ラッパーの釈迦坊主の最新音源より。
一聴してとにかくフロウが抜群にカッコ良い。このリズムは明らかにトラップ以降のものだと思うが、ここまで徹底して、1曲やり抜いている曲は自分はあまり記憶にない。日本語のはめ方も明らかに異質な気がするが、それがしっくりきてしまう、このディレクションは素晴らしい。
ほとんどビートとラップ以外の音はないのだが、ここまで躍動感を感じるのは、左右から無差別に飛び交う弾丸かのような合いの手の連続によるところかもしれない。

このアーティストについてはほとんど知らないのだが、どうやらニコ動等のネット発のラッパーのようだ。歌舞伎町でホストをしていた経験もあるということで、このタイトルとリリックの意味することが繋がる。

ハイライトは終盤のスクリーム。カタルシスである。

fnmnl.tv

8:踊foot works 「Angel」

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常に目が離せない3人組ヒップホップバンドによる、昨年12/24に無料公開された1曲。ストリーミングが公開されたのが2月だったようなので、対象とした。
この曲は、前半と後半で受ける印象が全然違うのがとても面白い。前半は不穏な雰囲気が終始漂っているのだが、後半に曲が進むにつれて、曲が明るさを帯びていく。そして終盤では、クリスマスにふさわしい楽しげな雰囲気すら感じる。さりげなく裏で鳴り続けるジングルベルの音の印象も、最初と最後では全然違う。
まさしくドープという表現がぴったりなカッコよさがあるし、テンポも曲もフロウも自由自在に操り、華麗な展開を見せる辺りは、流石だなと思う。
そして、なにより最後は笑顔になれるような音楽に仕上げてくれたところが、この曲がお気に入りの理由の一番の理由だ。

7:パスピエ「まだら」

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邦ロックバンドの中でも、個性的な位置づけを保ち続けている4人組ロックバンドの新曲。知らなかったのだが、この曲より、ユニバーサルミュージックとタッグを組み、自身のレーベル「NEHAN RECORDS」を立ち上げたとのこと。そして、この曲はMBS ドラマ特区「ホームルーム」エンディング主題歌として、レーベル第一弾の配信リリースだ。

最新アルバムのパスピエは個人的にとても好みな仕上がりだったのだが、そのモードを引き継ぎながらも、更なる試みも企んでいるかのような1曲だ。パスピエの曲はいつもそうなのだが、一見するとポップ、しかし良く聴くとなんだこれと思うような要素がたくさん詰まっている。今回もそう。
特にフックのメロディは、とても面白い。良い意味で意味が分からない。盛り上がりそうで、盛り上がらないギリギリのラインを攻めているように見える。そうやって焦らしておきながら、最後どうするのかといえば、転調させてしまう。そうくるのかという驚きの展開だ。

リリックもなかなか危ういことを歌っていたり、ところどころのアレンジには不協和音かのような印象もあり、分かりやすくはないが、思いっきり攻めている曲に仕上がっている。まさしくパスピエというような音楽だと思うが、まだまだこのチャレンジには先がありそうで、その途中段階のようにも思える、そんな1曲だ。今後のパスピエにも要注目。

6:Vaundy「僕は今日も」

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2020年要注目アーティストの1人である、シンガーソングライターVaundyの新曲。
これまではどちらかというと、ブラックミュージック寄りのグルーヴィーさを感じていたが、今作は彼の大きな特徴である"歌"にフォーカスされている。
シンプルでありながら、ストリングス的なアレンジも随所に織り交ぜており、とにかく歌が映える。声も良く通るし、良く届く。一聴して心を掴むこともできるほどの力がある。リリックとしても、とにかく"歌"なんだという気概が感じられ、この曲に込められた覚悟を感じる。
5/27には初のアルバムリリースの情報も公開された。すでにタイアップもついているようだ。ここまで歌えるアーティストは、多くの人にすぐ愛されること間違いなしだろう。アルバムも楽しみだ。

natalie.mu

5:音楽かいと「あなたは朝日に照らされて」

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次から次へと新しいアーティストが出てくる。音楽かいとは大阪在住の高校2年生であり、全て打ち込みで作詞・作曲を行う。そして2/26にデビューアルバムをビクターエンタテインメントのCONNECTUNEレーベルから、uamiに続いてリリースした。

サカナクションの山口一郎が音楽番組で紹介したという話もあるが、それも納得の音楽だ。この人の作る音楽は、今の音楽をあれもこれも貪欲に吸収して、綺麗にアウトプットされていると感じる。表現はあまり良くないかもしれないが、海外からの借り物のようなEDMではなく、「日本のEDM」を生み出していると思う。
アルバム通じて、楽曲の構成は非常に分かりやすい。この曲もEDMのお手本のような構成になっていると思う。しかし、いわゆるEDMとは違うなと思うのは、距離の近さを感じる日本語詞と、それを紡ぐメロディの秀逸さだ。この辺りは邦ロックの要素も感じ、ともすればこれまでの音楽の焼き増しになりそうなところだが、そこをEDMを思いっきり取り入れることで、これまであまりなかったようなエレクトロな音楽になっているのではないか。

こういう若いアーティストには、もはやストリーミングが身体に染み込んでいる世代であり、世に数多ある音楽をジャンルレスに取り込んでいるのだろう。だからこそ、変に凝り過ぎずに、シンプルかつ個性的な音楽を打ち出せるのだと思う。

4:羊文学「恋なんて」

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女性3人組バンドの新作EPより。
羊文学の曲は、これまでも聴いていた"つもり"だった。でもあまりちゃんと聴けていなかったのかもしれない。それぐらい、個人的には、これまでの作品と今作では大きな違いを感じた。これまでも良い曲はあるバンドだと思っていたが、今作は飛びぬけて良い。
特にこの曲は、これまで比較的熱量低めで淡々と歌うイメージがあった塩塚モエカの歌に、非常にダイナミックなメロディやフロウが感じられて、歌で一気に持っていかれた。 特に2番の歌は、ラップのような躍動感があり、そこに感情がばっちりと乗っている気がして、何度聴いても良いなと思う、この曲のハイライトだ。
リリックは、失恋を意識したものだろう。しかし、あえて言いきらないかのような展開も、興味深い。
羊文学は作品をリリースする度に、新しい一面を感じる。まだまだこれからも色んな一面を見せてくれそうだ。

fudge.jp

3:Eve「心予報」

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ネット発のシンガーソングライターEveのニューアルバムより。この曲はロッテ・ガーナチョコレート“ピンクバレンタイン”テーマソングに起用され、ガーナとのコラボMVも制作されている。
「白銀」でも思ったのだが、この人のメロディセンスには脱帽だ。EveはBUMP OF CHICKENの楽曲をきっかけに音楽と出会ったというが、自分もである。だからこそ、メロディセンスに通じるところがあるのだろうか、とにかくツボを突くようなメロディの展開を見せてくれる。
メロディを彩るアレンジにも、センスが光る。イントロやフックで鳴るギターリフも、シンプルながら耳に残るキラーリフになっている。ハンドクラップとも絡み合いも、非常に楽しい。
リフとハンドクラップの絡み合いにも通じるが、余白の埋め方にもバランスの良さを感じる。比較的、日本の音楽は音を足し算していく方向で、失敗するとそれぞれの音の良さが消されてしまうだけになってしまいがちだが、この曲はここにはこの音が欲しいと思ったところに、ちゃんと音がはまってくれる。特に2番のメロディとギター・シンセの掛け合いは、個人的に大好きな箇所の一つだ。

全体的に、何か今の時代の音楽のトレンドを取り入れて、最先端を狙ったような音楽ではないと思う。しかし、これまでの邦ロックの良さを凝縮し、シンプルにメロディやリフの良さを追求すれば、それで良い音楽になるんだということを改めて思い出させてくれた、そういう1曲だ。

2:女王蜂「心中デイト」

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既存の邦ロックに縛られず、邦楽をアップデートするかのような楽曲をリリースし続けている4人組ロックバンドの新作アルバムより。
今作は前作に比較すると、トレンドを意識してか、全体的に"重心"が低いように感じた。低音の存在感がとても強く、この点がトラップにより接近した路線を突き詰めていると言われる所以かもしれない。
この曲も、低音が非常に印象的だ。シンセベースだろうか、終始かなり強く鳴り続ける。その上で面白いのは、シンセベース・シンセ・電子ドラムの絡み合いだ。メロディの裏で、掛け合うかのように、音を重ねている。 シンセは頭から終始同じフレーズを奏で続けており、これが曲全体を形作っているが、そこにシンセベースが同じフレーズを弾いたり、弾かなかったりと、なかなかに面白い。そこに電子ドラムも彩りを加えており、この三者の絡みだけでも、興味深い点がたくさんある。
と、裏側ばかり聴いていられないのが女王蜂。アヴちゃんの低音から高音と自由自在のボーカルの存在感も流石だ。様々に重ねられたハーモニーも、曲の雰囲気にピッタリの不思議な空気感を生み出す。
一見すると邪道かのような思われがちなバンドだが、そこには確実に地力があるからこその異端かのような歌でありアレンジであることは間違いない。むしろ逆に、今の時代のメインストリームの音楽を奏でているのは、彼らなのかもしれないとすら思う曲だ。

1:Omoinotake「So Far So Good」

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So Far So Good

So Far So Good

  • Omoinotake
  • J-Pop
  • ¥255
music.apple.com

島根県出身の3人組ピアノトリオの3rdminiアルバムより。
2020年フック選手権暫定1位だ。とにかくフックのメロディとリリックが最高。ブラスの音も加わり華やかさが増す点もそうだが、「So Far So Good」という言葉とそこに当てたメロディが素晴らしい。あまり説明するのも野暮なのだが、一度目の「So Far So Good」では、"Good"で少し音程下げながらも、2度目の「So Far So Good」の"Good"では、かなり高い高音を伸びやかな声で当てていることで、"とにかく良い方向に"、"上に上に突き抜けようよ"という勢いを強く感じたのだ。
これはリリックの意味するところとは、大分ニュアンスは違うかもしれない。「So Far So Good」というのは「今のところ順調」という意味である。それでも"Good"という言葉に込められた意味合いは変わらないはずだ。とてもシンプルなことではあるが、単純なメロディの良さもあるからこそ、こういう細部がとても心に響いたのだろう。
最後の大サビでは、言葉もリズムも変えながらも、それでもやはり感じることは変わらない。
こういう強いメロディと言葉を生み出せるバンドは、確実にこれからも活躍の場を広げていくに違いない。

natalie.mu

  • Albums/EPs


Eve「Smile」

各所で絶賛されている通り、アルバムとしても非常に質の高い出来だ。確かに二面性がある点も興味深い。個人的には、ギターリフが暴れる躍動感ある曲がたくさんあって良いなと思う。「心予報」「白銀」以外にも「リーゾンデートル」「いのちの食べ方」「バウムクーヘンエンド」なども非常にギターリフが印象的。最近ギターリフはなかなか聴く機会が少なくなっているような気がするが、要は使いようだと改めて思う。

mikiki.tokyo.jp

realsound.jp

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Chara+YUKI「echo」

そもそもChara+YUKIを知らなかったので、「愛の火 3つ オレンジ」の1999年リリースバージョンも今回初めて聴いたが、クオリティの高さが凄まじい。このレベルの人達が本気を出すとひとたまりもないなということを感じる。「愛の火 3つ オレンジ(2020version)」では、即興だというYUKIのラップフレーズも楽し気で良い。

音楽かいと「僕は音楽に照らされて」

基本的に展開はEDMをベースにしているため、全編通して展開に対する驚きはあまりないが、言葉の使い方にははっとさせられる場面も多かった。ここからどういう音楽を作っていくのかが楽しみだ。
凄く単純だが、曲のタイトルがしっかりと歌詞の中軸になっている点も良いなと思う。

Omoinotake「モラトリアム」

「モラトリアム」も非常に良い曲だし、他の曲も十分に良い曲。確かに2020年要注目バンドの一つだ。何かきっかけがあれば一気にブレイクしそうである。

羊文学「ざわめき」

「人間だった」も、衝撃だった。シンプルなロックビートに、社会に対する強烈な言葉の数々。他の曲も含めて、本当に深いところの感情が音楽に強く乗るようになってきた気がして、とても大好きな1枚。ここから大化けしそうな予感。インタビューに出てきた今注目のアーティストたちとの化学反応も楽しみ。

www.cinra.net

女王蜂「BL」

8曲で比較的コンパクトにまとまっているが、「CRY」のような"歌"だけで勝負するような曲もあり、なかなかバラエティに富んだ仕上がり。それにしても自由だ。

BTS「MAP OF THE SOUL : 7」

めちゃくちゃ良い曲だなと思うことはそこまで多くなかったが、どの曲も及第点は軽々超えるような普通に良い曲だと思う辺りが、流石のK-POPというところか。

ジャスティン・ビーバー「Changes」

全体を貫く、心地よいムードが、非常に興味深い。こちらもめちゃくちゃ良い曲があるなとは思わないのだが、なんとなく流しておきたいような、その中でふと何か深いところにたどり着かせてくれるような、そんな音楽だと思う。

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神様クラブ「JURA」

2人組のポップユニットのニューアルバム。
なんだこの音楽はと思うような驚きの数々、まさにおもちゃ箱のような音楽だ。
お気に入りは「エスパー」。他の曲に比べても、かなりギリギリのバランスの曲で、もはや曲として成り立っていないかのようにも思えるほどの攻め加減。終始危うさから放たれるスリルが素晴らしい。

松木美定「実意の行進」

遂にストリーミングリリース!
「焦点回避」のジャジーな雰囲気も良いのだが、やはり「実意の行進」が何度聴いても素晴らしい。晴れた日の昼下がりに、ゆっくり散歩しながら聴きたい。


女王蜂「十」

「BL」と合わせて、遂にストリーミングサービスでリリースされた2019年リリースのアルバム。
このアルバム良すぎるので、2019年のベストに確実に入れるべきだった。「BL」と比べると、ロックサウンド強めの曲も多く、かなり勢いがある。それが「BL」とは違った観点でリズムに現れているのではないか。複雑なことをやっているわけではないのだが、一つひとつのキメフレーズにカッコよさがあり、それが曲のリズムを印象付けていると思った。
個人的なお気に入りは「Serenade」。四つ打ちのリズムに、80~90年代を想起させるようなシンセフレーズが炸裂しており、最高のディスコチューンだ。

ちなみに、以下の一発撮りシリーズが凄い。アヴちゃんのボーカルが炸裂している。

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