選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2020.1 Monthly Best Songs

いきなり遅くなりましたが、2020年も毎月のベストを書いていきたいと思います。
2020年1月にリリースされた曲・アルバムから特に良かった10曲を選びました。

  • Songs


10:DAOKO「御伽の街」

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女性シンガーソングライターのニューシングル。歌い手発のアーティストだが、米津玄師との「打ち上げ花火」や、Beckとのコラボも果たすなど、その活動の幅は留まるところを知らない。
また、その音楽性も、良い意味で決まりきったものがなく、曲ごとに多面的な魅力を見せてくれるのが彼女の特徴のひとつと考えているが、今作も一聴して、DAOKOは一体どこに向かっているんだと思ったぐらい、これまでにはなかったようなドープで面白い曲だなという印象を受けた。

なかなか攻めたエレクトロな4つ打ちであり、こういう方向性もアリだなと思っていたころで、サウンドプロデューサーが小袋成彬と聴いて非常に納得。DAOKOのラップのフロウも曲にぴったり合っていて、流石に多様なコラボをこなしてきただけのことはあるなと思う
個人的にはどうしても未だに「水星」のカバーのイメージが抜けきらないのだが、多様な方面から楽曲にアプローチできる柔軟さが面白いガールズシンガーだと思う。色んなプロデューサーがこぞってコラボする理由がよくわかる曲だ。

mikiki.tokyo.jp

9:Mega Shinnosuke「Japan」

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2000年生まれというまさしく新世代アーティストと言えるMega SHinnosukeによる配信シングル。
イントロからローファイかつレトロで、不思議な世界観に飛ばされる。そして特徴的なのがリリック。この曲調に合うような、合わないような、とても不思議な語感を生み出しながらも、支離滅裂とすら思えるリリックの中にはどこかシニカルなメッセージも感じる。
「Japan」という現実味のある大きなものを表現した曲名に対して、異世界に連れ込むかのようなプロデュースをしてしまうことには、驚きしかない。
そして2分の短さであっけなく終えてしまう、このひたすらの潔さ。さすがの新世代のクリエイターだ。

8:xiangyu「ひじのビリビリ」

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これまでもファニーな曲を多く生み出してきたxiangyuだが、新曲もその流れを汲んだものとなっている。本作は、東アフリカ・タンザニアの超高速エレクトロ “シンゲリ”にインスパイアを受けた楽曲とのこと。
タイトルからしていつも通りのセンスで、その名の通り、ただひじのビリビリについて歌っているだけなのだが、ケンモチヒデフミのトラックがめちゃくちゃカッコよい。
ケンモチヒデフミは、音のぶつけ方が特徴的で、ゴツゴツとした音の印象を受けることが多いのだが、今作も同様で、その音使いのセンスにより、最高に意味不明な音楽に仕上がっている。
こんなにかっこいい音と歌っていることの下らなささのギャップが凄まじくて、衝撃的だ。

www.cdjournal.com

7:木(KI)「Neiro」

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注目の4人組バンドによる新曲。現在はカネコアヤノなどを擁する〈1994 ARTISTS〉に所属し、初のリリースとなったが、無機質さと有機質さが融合し、スタイリッシュな中に強い情熱を感じる木(KI)らしい曲に仕上がったと思う。
緊張感のある厳かな音から幕を開ける一曲だが、民族的、宗教的な音色が印象的だ。
そこから、序盤はストレートな音色のギターと和の雰囲気のある笛のような音がメインとなり、曲が進んでいく。
デジタルもアナログも関係なく色んな音が混ざりまくっている点が非常に彼ららしいと思う。耳に馴染むので、圧迫感はないのだが、よく聴くと音の入り混じり方がカオスだ。
途中からはアコースティックギターが印象深くなる、ラテンの様相も感じるフレーズを奏でる。
そこからピアノフレーズメインのパートを超え、加工されたボーカルパートを経て、最大の盛り上がりへ。ベースも暴れだすことで、一気に曲の温度が上がる。

6分という時間に凝縮された壮大な物語だ。この6分に詰め込まれた一つ一つの要素が、彼らのバンドのポテンシャルを見せつけており、やはり特別なバンドだなと思う。
最後にもうひとつ、6分間を、ひたすら同じリズムで刻み支え続けるビートも、彼らやこの曲を大きく印象付ける、大仕事をやってのけているなと思った。

6:Omoinotake「モラトリアム」

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今年要注目のピアノポップトリオの新曲。この曲は劇場アニメ「囀る鳥は羽ばたかない The clouds gather」主題歌にもなっている。
イントロのピアノとボーカルのメロディから、非常にJPOPだなと思うのだが、ボーカルの持つ引力に持っていかれて、聴き続けてしまう。
構成としては、ピアノを軸にボーカルがとても映える音楽であり、Official髭男dismの系譜で見ると、すごくしっくりくる。ギターソロではなく、サックスソロをチョイスするセンスも素晴らしい。そこまで前面には出てこないが、ストリングスもよく似合うバンドだ。
そして、終盤の転調からのメロディの盛り上がりが、最大のハイライト。転調を抜群に使いこなす点もOfficial髭男dism似たところがあるかもしれない。
総じて、今の音楽らしさもあるし、JPOP的な安心感ある聴きやすさもあるので、これから一気に跳ねても何ら不思議はないバンドだと思う。

natalie.mu

5:Official髭男dism「I LOVE...」

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2020年もその勢いはまだまだ止まらなそうなヒゲダンの新曲。BS系火曜ドラマ『恋はつづくよどこまでも』の主題歌として書き下ろしとのこと。
もはや文句なしのキャッチーなポップスだろう。序盤はドラムのやや突っ込み気味な、細かなリズムの工夫が面白い。また、シンセベースだろうか、エレクトロ感あるベースも良い味を出している。
そして終盤の展開は見事の一言。そう展開させるか!という驚きしかない。
加えて、しれっと難しい曲を歌いこなしてしまっており、見逃してしまいがちなのだが、トラックの様々な工夫がありつつも、インパクトのある歌が終始曲をリードしている。
そのボーカルの力量の高さがやはりこのバンドの軸であることがよくわかる一曲だと思う。

4:赤い公園絶対零度

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TVアニメ"空挺ドラゴンズ"エンディング・テーマに起用された、新体制初/レーベル移籍後初シングル。ボーカル石野理子のポテンシャルの高さを感じる一曲となっている。
彼女の持ち味は、多少の幼さも残った高音を活かした歌だと思ってたが、違うのだなと今作を聴いて考え直した。
この人の長所はローからミドルなのだろう。もちろん高音も良いのだが、低めの声の持つ雰囲気が、ヒーローをイメージさせる。"まだまだ全力出してませんよ、これからですよ"みたいなカッコよさがある。言葉の節々から凛とした佇まいを感じさせるのだ。
そう考えると、今の赤い公園には、"ガールズヒーロー"という言葉がぴったりハマるほど、救世主のようなワクワク感と底知れない可能性がある。
MVのモノクロな世界観の中での彼女たちの堂々たる佇まいも必見。まだまだ成長途上な彼女たちには要注目だ。

3:ガウディーズ「アンインストール feat. 荘子it」

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東京を拠点とするSSWのコーノを中心としたロック・バンド、ガウディーズが、Dos MonosのMC/プロデューサー・荘子itを招いた新曲。
不協和音のような音の揺らぎが不安を感じさせるイントロから、なんだか惹きつけられてしまう曲だが、フックで繰り返される"アンインストール"というフレーズが耳から離れないほどのインパクトを放つ。
ボーカルの位置も時間軸も少しずつずらす細かなエフェクトも面白い。
よくもここに荘子itを乗せようと思ったなと思うが、結果として大正解だろう。
ポップでキャッチーな音楽とは違うが、全体的に絶妙なギリギリのバランス感で構成されていながらも、耳に残るインパクトがある曲に仕上がっている点は、ただただ凄い。

2:Youmentbay「素敵なスローライフ

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東京を中心に活動する男女ツイン・ボーカル・バンドによる3ヵ月連続リリース第3弾。
このバンドは、前から気になっていたが、この曲は彼らの特徴が良く分かってとても良いなと思う。
とにかくまずは、ツインボーカルの心地よさだろう。気取らない歌が非常に安心できる。
そして、生活感を感じる音とリリック、特別な音や詩ではないんだが、暖かい。 ラップパートは特に良い、このゆったりとしたテンポ感にのせると心地よさが溢れる。
そんなリリックに対して、エレキギターの厚めの音によるリフも曲に絶妙な色付けをしている。ギターソロのシンプルなチョーキングもたまらない。 中盤に突然訪れるハッとさせるキメフレーズや、終盤に向けて景色が変わるかのように雰囲気が変わる点は曲にメリハリをもたらしており、決して一辺倒な音楽になっていない点も良いなと思う。

とても特別な音楽というわけではないのだが、ぼんやりと休日に散歩しながら、ふと再生したくなるような、そういう意味では非常に今らしい音楽だなと思う。

1:高井息吹「瞼」

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瞼

  • 高井息吹
  • ポップ
  • ¥255
music.apple.com

名前は知っていたのだが、また素晴らしい女性シンガーソングライターが出てきたものだ。
1stシングルとなる今作では、バンドメンバーでもある君島大空、新井和輝(King Gnu)を共同制作、プロデューサーとして迎えており、「瞼」は君島大空と新井和輝がトラックメイキングを担当している。

リズム感と音の質感、そして高井息吹の発する言葉の一つ一つの発音の個性。どれをとっても面白さに溢れている。 特に言葉の発し方という視点では、君島大空に通じるところがあるように思う。
そして、音数が少ないが故に余白が目立つ、そしてそれが曲を更に引き立てている。この辺りは素晴らしい2人のプロデューサーの仕事の成果なのだと思うが、 でも結局歌が中心にドンと構えているのがとても良い。あくまで中心は歌だ。そしてその歌が素晴らしいから、この曲は素晴らしい。
まだまだ彼女については知らないことも多いのだが、この3分だけで、虜になってしまうほど、魅力溢れるアーティストであることは分かったので、今後の活動が楽しみだ。
(ちなみに、ベースの音がめちゃくちゃ面白いのだが、これどういう音なんだろうか。)

  • Albums


Gezan「狂(KLUE)」

今、最も注目すべきロックバンドのひとつであるGezanの5枚目のアルバム。
2020年を振り返った時に、確実に一つの大きなマイルストーンになるだろう。それだけの熱量が込められた作品だ。
今を生きる人は一度は聴くべきだろう。これぞロックバンドだし、ロックバンドはこうでなきゃ。

VaVa「Mevius」

VaVaの新作EP。特に「Biscuit」がお気に入り。
リリックはシリアスな趣だが、そんな中でもアコースティックギターの柔らかな雰囲気にぴったりの、軽快でリズムの良いフックのフレーズが大好き。

雨のパレード「BORDERLESS」

2019年から新体制となった3人組バンドの、4枚目のアルバム。
全体的にこれまでの楽曲とは少し違った印象を受ける。特に「惑星STRaNdING (ft.Dos Monos)」は、まさかDos Monosとガッツリ1曲やってしまうとは想像にもしなかった。
スタイリッシュな曲が多い印象だったが、そういった驚きのコラボも含めて、楽曲的にもリリック的にも、これまで以上に深く踏み込んだ作品となっている。

King Gnu「CEREMONY」

まさか2019年の1年間でここまで上り詰めてしまうとは。タイアップだらけのこの1枚をリリースしたことで、良い意味でも悪い意味でも、今の社会を体現したバンドになったと思っている。
そのセンスには疑う余地の一切がないが、彼らにはもっともっと振り切った狂暴な音楽を期待したいと個人的には思っている。2020年はゆっくり曲を作ってほしい。

Last Electro「closer」

Kan Sano、Yusuke Nakamura(BLU-SWING)、Ippei Sawamura(SANABAGUN.)、Jun Uchino(Mime)という実力者4名によるバンドのデビュー作品。
他のどのバンドとも違う立ち位置から鳴らされたかのような音楽に仕上がっている。ポップスではあるのだが、そう一筋縄ではいかない曲たちに仕上がっている点は、流石の一言。

香取慎吾「20200101」

説明不要のスーパーアイドルが、各所のアーティストを迎えて作成した1枚。
コラボ曲は、良い意味でそのアーティストにしっかり染まっており、流石のアイドル性というところか。
コラボ作品以外では、今っぽい音が鳴っていて、まぁありがちではあるのだが、しっかりと世界標準の音に仕上がっており、これはこれで彼がやる意味が非常にあるものだと思う。

realsound.jp

lyrical school「BE KIND REWIND –Expanded Edition-」

メジャー1stアルバムとしてリリースされた「BE KIND REWIND」に、新たに「シャープペンシル feat. SUSHIBOYS」「Cookin’ feat.Young Hastle」「NOW!」を加えてデジタルリリースされたもの。
なぜこのような不思議なリリースの仕方になったのかは良く分からないが、特に「シャープペンシル feat. SUSHIBOYS」は、とても素晴らしい出来なので、しっかりとパッケージされたことが素直に嬉しい。
また、「NOW!」はこれまでライブでは披露されていた楽曲のようだが、彼女たちのキュートなアイドルの一面と、ヒップホップアイドルとしての地に足着いたラップを披露する一面が共存しており、彼女たちらしい曲だなと思う。今を精一杯楽しもうという心意気もよく伝わってきて、単純にとても可愛らしいしね。