選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2019.12 Monthly Best Songs

2019年12月にリリースされた曲・アルバム、もしくは発表されたMVから特に良かった10曲を選びました。
最後に凄いのが出たなという感覚です。

  • Songs


10:シンリズム「未確認のスーパースター」

先日conteにベース,コーラスとして加入したことでも話題のSSWによる2週連続配信リリースの1作目。この作品は、conteでミックス/マスタリングを担当している原真人が担当しているということで、早速ソロの活動にも良い影響が出ているように見受けられる。

この曲は、彼の曲にしては、シンセが非常に印象的で、その他も本当に多種多様な音が詰まっていて、その音が渋滞せずにしっかり鳴っている辺りのアレンジが流石である。
普通ここまでやると、ポップにならずにうるさくなるような気もするのだが、明らかにポップに仕上がっている。
良い意味でJPOPだなぁと思うが、ここまでJPOPらしいポップスは最近あまりない気もするので逆に新鮮さすら感じる。

9:ステレオガール「おやすみグッドナイト」

都内で活動する5人組バンドの初の配信シングル。女性4人男性1人というなかなか面白い構成。
曲は、シンプルな4つ打ちとギターリフから幕を開ける通り、とてもシンプルなロックチューン。
しかし、奇をてらうのではなく、真正面から勝負するところも含めて、バンド音楽として、芯の通った強さを感じるし、全体的に質が高いと思う。毛利安寿の癖は少ないがどこか耳に残る女性ボーカルも印象深い。
サマソニでもチラ見したが、良い音を出すバンドだなと思っていた。各種フェスへの参加も続々としており、今後も期待したいバンドであることは間違いない。

8:Maison book girl「悲しみの子供たち」

「現音ポップ(=現代音楽+ポップス)」とも形容される、ポストロックに近い音を鳴らし続けている4人組アイドルグループのニューリリースアルバムより。
イントロのクラップからはラテンの様相も垣間見えるが、この曲はとにかくドラムがカッコ良くてやられてしまった。。。曲のスピードをどんどん加速させる叩きまくるキック?タム?の音がとても素晴らしい。
若干の悲し気なピアノリフやギターのストローク等も終始鳴り続けるを貫く4人の素直で飾りのないボーカルに、アイドルらしさも垣間見えて良いなと思うが、この曲はやっぱりとにかくドラムが本当良い仕事しているなと何度聴いても思う。

7:Survive Said The Prophet「Bridges」

CMソングにも起用されるなど、最近その名前を目にすることが増えてきた5人組ロックバンドの1/15リリース予定のニューアルバムからの先行リリースシングル曲。
最近は邦楽全体的に一時のラウドロックの勢いはだいぶ落ち着いたように思えるが、その中でも彼らはラウドロックをベースに、コンスタントに良曲を出している印象がある。
フックのシンガロング出来そうなフレーズがとても印象的だが、英詩ではなく日本語詩でも、こういうスケールの大きい曲がしっくりくるのは、バンドの力量がしっかりあるからだと思う。きっかけさえあれば、とても面白い存在になりそうだ。

6:Eve「白銀」

名前だけは良く見ていたのだが、あまり知らなかったSSW、JR SKISKI 2019-2020キャンペーンテーマソングにもなるという注目のEveの新曲を。

そのため、正直あんまり知らないのだが、BUMPが音楽に興味を持ったきっかけだとか、ボカロPからキャリアをスタートさせたことなどが、何の違和感もなく納得できるぐらい、JPOPやら邦ロックやらボカロやらを飲み込んで作られた曲なんだろうなと一聴して印象を受けた。 イントロから4つ打ちと癖になるギターリフに否が応でもワクワク感が高まられていく。
そして、何といっても、フックのスケールの大きさである。 ストリングスは入っていないと思うのだが、ギターの使い方やコーラスの重ね方、そしてティンパニなどの打楽器で壮大な展開を生み出していて、ただのJPOPとはまた違った味わいがある。
JPOPや邦ロックがどんどんアップデートされていく感覚がして、とても喜ばしい気持ちになる1曲だ。

www.cinra.net

www.tfm.co.jp

5:sui sui duck「float」

ずっと注目している4人組バンドの待望のファーストフルアルバムから。
エレクトロポップを標榜するだけあって、その名にまさしくの曲と言えるだろう。多様なシンセの音が印象的で終始曲をリードしていくが、その中でもラップがあったり、ちらっとギターが顔を出したりしてシティポップ感も感じさせながら、昨今のEDMよりのエレクトロとは違った路線を感じさせる。
優しいボーカルと、バンドのグルーヴが曲全体に柔らかな印象を作り出すのに一役買っていて、あまり気合を入れずにふと聴けるような音楽に仕上がっている。良い意味でこういうあまり気合が入りすぎていない感じが良い空気感だなと思う。

4:さとうもか「melt bitter」

岡山を拠点に活動し、2019年も大活躍だったSSWの新曲。この曲は過去作「melt summer」の続編をイメージして作られたそう。
また、初のバンド編成でのアレンジを実施とのことで、かなりグルーヴ感やブラックミュージック感が強調された仕上がりになっている。
甘さ多めのシンガーソングライターという印象を持っているのだが、この曲は曲名の通り、やや"bitter"な大人の曲になっており、バンドのグルーヴを乗りこなしたダイナミックなメロディが素晴らしい。シンガーとしての幅の広さを見せつけた1曲になったと思う。3:30~のラップパートとそこから曲の戻り方で、一瞬風景がガラッと変えられて、細かいがとても面白いと思う。

3:三浦大知「COLORLESS」

三浦大知がリリースした新曲だが、ライブでは以前から披露されていた曲だそうだ。年末の音楽番組でも披露されていたようなので、耳にした人も多いのではないだろうか。
彼が歌うことは、あまり曲によって大きく変わるようなアーティストではないと思うのだが、それでも今回のメッセージは強烈だ。メジャーシーンのトップで戦い続けたきた、まさしく名実ともにトップアーティストと言える三浦大知が、「カテゴライズって一体?/誰かが決めたライン」と歌いだすのはなかなかに考えさせられる。
そして、トラックも毎回のことではあるが、最新のトレンドを反映したような音作りになっており、進化を感じさせるので驚かされる。
Aメロから若干の不穏さを終始感じさせながら、フックでも大胆なコーラスワークを用いながら不思議な感覚を感じさせるが、それでも最後に大きく展開させて、一気に駆け抜ける。ポップスの枠を壊しすぎずに、それでもギリギリまでチャレンジを試みていることが容易に感じ取れる作品だ。

2:SUKISHA · kiki vivi lily「Rainbow Town (tofubeats Remix) 」

長野出身のSSW/トラックメイカーのSUKISHAと、福岡出身のSSW/トラックメイカーのkiki vivi lilyによるコラボアルバムから、tofubeatsのリミックス曲を。SUKISHAとkiki vivi lilyの関係は結構偶然の出会いからのようだが、以前から曲を作ってリリースをしていたようで、この作品はその一つの集大成のようだ。
原曲は、これぞグルーヴィーというようなブラックミュージックでそれはそれで普通に良いのだが、このtofubeatsリミックスがそれに輪をかけて良い。
tofubeats本人も言っているが、特に後半からのカタルシスを感じさせる音の詰め込み方がとても面白く、原曲とは全く違った雰囲気のダンスチューンになっている。この心地よい声とこの心地よい音に、こんなエグいビート乗せられたら、それは耳を奪われざるを得ない。

otrgoods.thebase.in

1:小袋成彬「Gaia」

Gaia

Gaia

music.apple.com

2019年の最後に、小袋成彬が、これしかないというような音楽を生み出してくれた。
リリックも歌も、5lackのラップも、もちろんトラックも文句のつけようがない。
全体的に言葉のはめ方がもう最高なのだが、この5lackの

苦悩と幸福も運命の子孫 善悪のシーソーで困惑しそう

というパンチラインなんて、個人的な2019年ベストかもしれない。

音は、現行R&BとかオルタナティブR&Bとかっていう分類なのだと思い、イギリスでは最近良くあるタイプというような指摘も観た気がするが、それはそうかもしれないが、彼がこの音を日本語詞を乗せて、2019年の最後にリリースしたということが、まず価値のあることだと思う。

ところで、ソースが見つからないのでもしかしたら自分の記憶違いなのかもしれないが、2018年末の小袋成彬は、日本に相当な絶望をしているようなことを発言していた。それがイギリスへの移住に繋がっているのだと思い、彼が今後一体日本とどういう関係を保っていくのかと気になっていたのだが、2019年の間にとても前向きになったようだ。
だって、まさか彼が、ラグビー日本代表8強入りをポジティブな意味で一番のビッグニュースに上げるとは思わなかった。見方によっては全く逆の捉え方をする人もいるだろう。

この曲は、そういうポジティブな雰囲気を直接的に感じることが出来た。比較的私的な歌を歌う印象が多い彼が、その枠を超えたことを歌っているように感じ取れる箇所が非常に多いからだ。

愛はまるでガイアみたいだ

で始めて、

光より先の未来へ

で終わらせる。
この間には色々とあるわけで、良いことばかりではないが、この難しい社会情勢の中で、愛と光に希望を見出す。ここに前向きなメッセージを自分は感じざるを得ない。
本人はそういったつもりはないのかもしれないが、10年代の終わりに、これからの希望をまとめあげた大名曲をドロップしてくれたことが、単純に嬉しい。

miyearnzzlabo.com

miyearnzzlabo.com

  • Albums


UVERworld「UNSER」

6人組バンドの10枚目のフルアルバム。
これだけ活動しているのに、いまだに初期衝動的な音を鳴らせるのは凄い。今作も他では聴けないようなJPOP・ロックをベースにEDM・エレクトロ・ヒップホップを貪欲に取り込んだ音楽が並んでいる。
正直似たような曲も多く、15曲1時間を通して聴くと、かなり胃もたれするのだが、ここまでやり切っていると清々しさすら感じる。いつの間にか、かなり面白い立ち位置を確立したバンドになっている。

realsound.jp

Answer to Remember「Answer to Remember」

石若駿の新プロジェクト。この人は一体いつ寝てるんだと、驚愕してしまうほどの活動量である。
この作品はジャズ畑出身の彼から、ポピュラー・ミュージックシーンに一石を投じるアルバムという位置づけのようだが、ただのポップスではなく、やはりそこにはジャズの趣が一貫して感じられ、実験的な意図も感じられて面白い。
何よりも、とにかく叩きまくるドラムを聴くだけでも流石だなと思える作品。

mikiki.tokyo.jp

DEAN FUJIOKA「Shelly」

自身が主演を務めるフジテレビ系ドラマ『シャーロック』主題歌「Shelly」を含む全5曲が収録されたニューEP。
他の曲もタイアップ満載だが、そういったことを抜きにして、良い音楽が詰まっている。
トレンドの現行R&Bがベースだが、良い意味で日本のポップスにも聴こえるし、世界標準の音にも聴こえるし、凄まじくポテンシャルの感じる音楽だと思う。
これがタイアップがしっかりついている辺りは、まだ日本の音楽も捨てたものじゃないなと思える気がする。

SUKISHA · kiki vivi lily「Over the Rainbow

グルーヴィーで心地よい音楽が頭から最後まで聴ける1枚。

Maison book girl「海と宇宙の子供たち」

なかなか細かな音の工夫が詰まった1枚であることには間違いないが、アイドルでありながら、しっかりと4人の声が曲のベースになっているように感じられた点がとても良かった。

realsound.jp

ぎゅうにゅうとたましい「きっとPOP」

東京を拠点として活動するラッパーの新アルバム。
おもちゃ箱のように次から次へと音が飛び出してくるような音楽。
Twitterでも話題になっていたが、これは確かに面白い。それでいて7曲14分という潔さを感じる構成で、さらっと聴けて良いと思う。

sui sui duck「Long time no see.」

sui sui duckのファーストフルアルバムは、12か月連続リリース時の作品と、新曲を織り交ぜた1枚になっている。
テーマの宇宙旅行ということだが、この作品はコラボも面白い。音楽、舞台など幅広く活躍する髙橋颯や、マルチクリエイターのmakoを迎えた曲も、これまでのsui sui duckとは違った一面を見せてくれる。

小袋成彬「Piercing」

とにかく今月はこの1枚。
もうCDという形では制作しないかもしれないとどこかで本人が言っていたと記憶しているが、その通りデジタル配信のみのリリースとなっている。
しかし、だからこのアルバムに流れがないという意味ではなく、むしろこの「Piercing」というアルバムは通して聴かなければいけない作品になっている。「In The End」~「Snug」~「Three Days Girl」のシームレスな曲間や、明らかに異物の「Tohji's Track」が突然に挿入される驚き、そして最終曲「Gaia」の最終フレーズ。それらの魅力は、決してプレイリストやシャッフルでは味わうことが出来ない。
2019年を代表する1枚になったことは間違いないし、この作品は全て小袋成彬本人のプロデュースであるとのことで、2020年代も、彼には移住先のイギリスから日本の音楽業界に刺激を与え続けてほしい。