選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2019.11 Monthly Best Songs

2019年11月にリリースされた曲・アルバム、もしくは発表されたMVから特に良かった10曲を選びました。
この月もなかなか音楽を聴く時間を取れなかったので、聴き逃しが多そうですが、それでも良い曲たくさんありました。
ちなみに今回からMarkdownで書いています。

  • Songs


10:春野「sad motor」

ボカロP発のシンガーソングライターによる新作。
チルやローファイといった言葉がぴったりのアーティストだが、今作もその期待を裏切らない。
まず面白いと思ったのは、少し籠ったような音が印象的なキック。このキックを中心に、全体的にどの音も絶妙なバランスでまじりあっていて、心地よさが極まる。
春野は、本当に音の配置が綺麗だと思う。
また、短編ミステリーかのようなリリックの美しさも素晴らしく、高い完成度を誇る1曲。

9:クボタカイ「TWICE」

福岡を拠点に活躍するラッパーの新曲で、ライブでも高い評価を得ているらしい。
きっとフラットに考えて、良いと思ったものを何でも取り入れているのだろう。
「昨日の余りをレンジでチン~」から始まるヴァースではPUNPEEの面影が見えるし、SiriやラムちゃんなどのSEを大胆に取り入れる辺り、自由である。
それをあえて意識してやっているというよりは、自然とやってしまってるように感じるあたりの空気感が良い。
その実は結構刺激的なリリックを紡いでいるところも見逃せない。

8:Sano ibuki「革命的閃光弾」

23歳のシンガーソングライターによる、メジャーデビュー作となる1stフルアルバム。構想に約2年をかけたという。
一聴した時はシンプルな邦ロックだと思った。それでも何度か聴きたくなるような魅力があるし、そうしているうちに、この人には底知れぬ可能性を感じるようになった。
アルバム全体から感じる孤独感だったり、楽曲から感じる多様性、このシンプルなMVでも非常に様になっている佇まい、そして何より、彼の力強い歌は、今の時代において、多くのものを背負うことができるだろうし、そうなる予感が強くある。

曲調や声質などから米津玄師がどうしてもチラついてしまうが、そこを突き抜けることができれば、次代のロックスターに化ける可能性が十分にあるのではないか。

music.emtg.jp

7:佐藤千亜妃「Fake / Romance」

活動休止中のきのこ帝国のギターボーカルを務める佐藤千亜妃の自身名義初となる1stフルアルバム。最近の彼女は自身名義での活動が非常に活発だ。
ど頭の刺激的な音がいきなり印象的だ。
デジタル風味強めのこの刺激的な音から初めて、どんな歌を歌うのかと思えば、そこは最近のモードなのだろう、とても身近な恋愛ソングだ。
「会いたい、今日明日明明後日」という印象的なフックのパンチラインは、あまりにシンプルすぎて、良い意味でそう簡単に歌えるものでない。
こういう素朴なリリックを、脚色なしで歌えるというだけで、シンガーソングライターとしての成長が垣間見えると思う。

6:yonawo「ミルクチョコ」

福岡出身の4人組バンドのメジャーデビュー作品。
序盤から、その溢れんばかりのローファイな質感がめちゃくちゃ面白い。バンドなのに、最近の宅録のSSWに通じるかのような音は印象的だ。
日本語詩で始まるが、英詞がメインに添えられていて、そのシームレスな展開にはハッとした。
終盤の観客との合唱パートは、また違った雰囲気をもたらしていて、派手さはないが、しみじみと良い曲だなと思う。

mymo-ibank.com

5:ROTH BART BARON「春の嵐

非常に独特な立ち位置にいると思う2人組バンドの新作アルバムからの1曲。
この曲は個人的には、ドラムで勝ち。
スネアの音は、曲名に相応しく爽やかさすら感じるし、全体に勢いをもたらすそのリズムはずっと聴いていられるような心地よさがある。
よく聴けば、ギターやブラス、ストリングのアクセントも見逃せず、春の景色が目に浮かぶかのような表現力が素晴らしい。

mikiki.tokyo.jp

4:conte「季節を狙え」

要注目バンドOrangeadeが、新メンバーとして、シンガーソングライターのシンリズムを迎え、バンド名を改名したのちの、初リリース。メンバーは、メンバーは黒澤よう(Vo, G)、佐藤望(Piano, Cho)、シンリズム(Ba, Cho)の3名である。
やはりシンリズムが入ってまた一味変わったような気もする。
全体としてはポップな趣を貫いているのは相も変わらずだが、細かい工夫や仕掛けの量が半端じゃなく、一筋縄ではいかない曲に仕上がっている。
ここまでやってもポップであるということがひたすら驚きだ。

mikiki.tokyo.jp

3:BBHF「なにもしらない」

4人組バンドBBHFの最新EPからの1曲。
今作はフィジカルリリースされているが、7月に配信限定でリリースされた『Mirror Mirror』と同時期に制作された作品のようだ。
前作はデジタルの様相が強く打ち出されていたが、今作は逆。 バンドサウンドを強く感じる。
その一つひとつの曲がどれも等しくクオリティが高く、どの曲を選んでもよかった。この曲がMVがあったから選んだというだけだ。

この曲は「僕らは/何にもしらない」というフックのリリックがとても印象的だ。
だが、他にそんなに特筆すべきことがあるとそんなにないのが正直なところではある。
それでも、一つひとつの音やリリック、そしてそれらが曲としてパッケージされていること、それがただただ良いから、何度聴いても飽きないし、ああ良い曲だなぁと思うことができるのだと思う。

www.cinra.net

2:長谷川白紙「いつくしい日々」

長谷川白紙の1stアルバム「エアにに」からの1曲。この曲は姫乃たまへの提供曲“いつくしい日々”のセルフカバーである。 個人的には、以前にライブで聴いて以来ずっと印象に残っている曲でもある。
この曲には、彼の一つの特徴であるカオスを再構築したかのような衝撃はそこまでないが、7分間があっという間に感じる素晴らしい構成力が印象的だ。音の表現力もずば抜けているのだろう。
また、ローマ神話の酒の神を登場させながら多くは語らず。 しかし、その余白も含めて、ひとつの短編作品を観賞したかのような感覚になる。

ピアニカやピアノで歌の裏で平行して奏でられるメロディも綺麗で、長谷川白紙の優しくも芯の強い声とよくマッチしてる。 最後のさりげない笑い声も意味深で興味深い。
これだけの複雑なアウトプットを出し続けて、良くマンネリ化せず、アイデア切れにならずに活動できるなと驚いてしまうのが正直な感想だ。良曲。

meetia.net

kompass.cinra.net

1:Mom「マスク」

マスク

マスク

  • Mom
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
music.apple.com

シンガーソングライターMomの半年ぶりのリリース。
完全に化けたと感じる。今作は、制作ソフトがGarageBandからLogic Pro Xへ移行されたようで、そういった意味でのローファイサウンドからの決別もあるが、ここまでシリアスに振り切った音楽を徹底してやり切れるとは。

明らかに「ジョーカー」を意識していることも見て取れるが、それでも、この音で、この歌を歌える、歌おうと思うアーティストはなかなかいないのでは。
最後の一節からも、以前から感じる彼の達観した様子は変わらない、これが癇に障る人もいるかもしれないと思う。
でもいま、この音楽を奏でることには確実に意味があって、ここに感じる反射的な感情よりも、深い意味を見出す必要があるのだと思う。

もう一つ、彼の声はまず、何よりもまずよく届く。それだけでも稀有な才能だなと思う。この音楽を、この声でこの音でやっていること、そこに「ポップスター」の役割とは違うものの、何かを起こしてくれそうだと期待せざるを得ない。

www.cinra.net

ちなみに、「ハッピーニュースペーパー」は、チュッパチャプスというコラボともあり、比較的これまでのMomに近く、シリアスを軽やかにやっている。
こちらも必聴だ。

  • Albums


長谷川白紙「エアにに」

各所で絶賛の通りなので、そちらを見ていただければいいと思うが、アルバム全体を通して、前作よりもさらに前進していることは明らかで、このまま行くところまで突っ走ってほしい。
彼の活躍が、近い未来の音楽業界の大きな変化に繋がっていくことに違いないと思うから。

BBHF「Family」

本当にどの曲も等しく好きだ。聴けば聴くほど味わい深くなる、そういう曲ばかりである。

Sano ibuki「STORY TELLER」

曲の種類もバリエーション豊かで、単なる邦ロックの枠では収まらないのは確か。
ここからどうなるか、楽しみだ。

佐藤千亜妃「PLANET」

どの曲も本当に、リスナーから"距離が近い"と思う。
特にリリックの良い意味での素朴さ、簡潔さは目を見張るところがある。
元々持つセンスに疑いは一切ないのは確かなので、このまま国民的なシンガーになっていくのかもしれない。

ROTH BART BARON「けものたちの名前」

どの曲もシンプルに音が良い。
単純なことだけど、それだけでも大きな違いになっているように思える。
こういう音を作るバンドがもっと増えてほしい。

sora tob sakanaflash

マスロックアイドルとも言われるsora tob sakanaのニューEP。
「パレードがはじまる」が特にお気に入り。
さすがマスロックというだけあって、ベースは4つうちのリズムだと思うが、そうとは思えない上物の不思議なリズム感が癖になる。
フックもなんとも言えない不思議な感覚だが、自然と繰り返し聞きたくなるような魅力がある。

FKA twigs「MAGDALENE」

新世代の歌姫とも呼ばれているようだが、様々のことを乗り越えた先に、ここまで切迫した歌があるのかと思った。
Pitchforkの点数が高いのも納得だ。

ずっと真夜中でいいのに。「潜潜話」

先月紹介し忘れていたようなので、紹介。
ずとまよは、どの曲もひたすら良い。
最近はKabanagu編曲の「居眠り遠征隊」がお気に入り。
リリックは視点が斬新かつ意味深で、かつ音もめちゃくちゃ色んなことが盛り込まれているが、それが負荷には感じない軽やかさが、ずとまよの一つの大きな特徴だと思う。