選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2019.9 Monthly Best Songs

2019年9月にリリースされた曲・アルバム、もしくは発表されたMVから特に良かった10曲を選びました。
気に入ったアルバムも簡単に載せています。あんまりアルバム単位で聴かないんですが、最近は良いアルバムが多すぎですね。

 ■Songs

10:笹川真生 「官能と飽食」

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最近知ったSSWの方から。
2012年より自宅録音した作品を公開しており、今年に入りリリースした作品がストリーミングサービスで話題になっているようだ。最近はこういった宅録アーティストの流れが凄くて、次から次へと出てくる。

柔らかなピアノと優し気なボーカルで始まるこの曲だが、その表情はだんだんと様子を変えていく。
だんだんと緊張感が増していく中で、優しさあるボーカルの裏に見え隠れる刺々しい感情にも気づく。
そして、フックで一気に爆発する。このエモーショナルな展開には、耳を奪われる。
"君"との間のあまりの執着心に、恐怖すら感じる歌詞も興味深い。

インタビューに出てくる、"鬱ロック"だったり、"ドリーミーだけとちょっとエグイ感じ"みたいなキーワードがすごくしっくり来る曲だ。
表面を撫でるような優しさではなく、抉ってくるような音だからこそ、ということも感じる人間らしさみたいなものが非常に良いなと思う。

realsound.jp
9:MONO NO AWARE「言葉がなかったら」

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2013年に、東京都八丈島出身のメンバーを中心に結成された4人組バンドから。
このバンドは、バンド名からして、独特の言語感覚を持っているのがとても良い。

懐かしさを感じる優しいギターの音色のイントロから、とても心地が良い。
そして、主題は、曲名の通り、"言葉"。
言葉がなかったらどんな良いことがあるか。言葉があるからどんな良いことがあるか。そんなことを、"if"を織り交ぜながら、言葉を大事に紡いで、丁寧に表現していく。
このバンドは、複雑なアレンジもできると思うが、この曲はシンプルに歌を伝えていく。
改めて、このバンドの言語感覚に驚くと同時に、言葉の負の側面がよく目立つ昨今だけど、そもそも言葉ってなんだっけっていうのを優しく考えさせてくれる、そんな曲になっている。

最後の一節にて、色々あるけれど、最大限前向きに捉えるその態度も、とても良いなと思う。

言葉に直したら
嘘になってしまうとしても
ギリギリのところまで
表していたいんだ

8:おいしくるメロンパン「candle tower」

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3ピースロックバンドのニューEPから。
このバンドは、ボーカルの甘めのハイトーンボイスと、楽曲の衝動性のギャップが非常に面白い。
この曲も、そういうギャップが特に際立つ。

イントロからマスロックかのように攻め攻めの展開。彼らにしてみればそこまで複雑なことをしているわけではないと思うが、こういう攻めまくったリズム感は単純に好みだ。
フックでのボーカルも、後半に進むに従い、シャウトかのように、感情がしっかり乗っていて非常に良い。
マスロック的要素を持つバンドだなと思っていて、そういう意味でずっと注目していたのだが、その可能性を改めて感じさせる。
インタビューでもそのようなニュアンスが読み取れるが、あくまで"おいしくるメロンパン"の音を出すために、マスロックに振り過ぎず、彼らの個性をしっかり活かそうとしている点も、ストイックで良いなと思う。

あんまりこういう曲は好まれないと思うが、個人的にはめちゃくちゃ上がるし、ひと捻りしたリズムはカッコ良いと思うので、今後もこういう曲を期待したいなと思う。

music.emtg.jp

7:banvox「Sellout」

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突如日本のみならず世界でリリースされた音楽プロデューサー・DJのbanvoxのニューアルバムのリード曲。今作は初めての日本語詞も含まれており、この曲も日本語詞だ。

ここのところ、フェスへの参加や楽曲提供の動きは盛んなものの、個人として目立った活動は少ない印象だった彼だが、相当攻めておりタイトルは、この曲にかける強い気持ちだろうか。
上記の通り、まさかの日本語詞で、しかも分かりやすく刺激的な言葉が並ぶ中で、迎えるドロップでは、昨今の彼のメロディアスなEDMというよりは、初期の名曲である「Laser」を彷彿とさせるような音の凶暴さを感じた。

この曲に対して、"Sellout"と曲名をつけるのは皮肉すら感じるほど、今までの楽曲の中でも攻めているかもしれない。
"あなたのために生きてない"、"あなたのために生きてたい"というリリックからも、この曲に込められた矛盾や背反といった一筋縄ではいかないような、そんなことを感じた。

6:FIVE NEW OLD「Fast Car」

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神戸出身の4人組ロックバンドの2ndアルバムの幕開けを飾る1曲。
最近の彼らは、ブラスをふんだんに取り入れ、当初から見せていたブラックミュージックの要素を深化させていっている印象だったが、この曲は当人たちも言う通り、若干最近の路線とは違い、8ビートのストレートな曲調で、初期のメイン要素だったポップパンクの雰囲気も感じる仕上がりになっている。

これが非常に良い。良い意味で肩の力が凄く抜けているのが良くわかる。
気負い過ぎず。でも気負わなすぎず。
どこまでも連れていってくれそうな、とても伸びやかなフックがめちゃくちゃ心地よい。
分かりやすいポップな展開だが、これまでの多様な経験が詰まっていると思う。
この手のバンドにありがちではある「中途半端さ」に葛藤していたようだが、そういうものも飲み込んで、懐の大きいバンドになっていっているなと思わせる曲だ。 

www.cinra.net

5:パソコン音楽クラブ「hikari」

2人組DTMユニットがリリースした2ndアルバムの最後を飾る1曲。今年要注目のSSWのひとり、長谷川白紙をゲストボーカルに迎えて作成されている。

イントロのピアノリフから完全に勝ちのパターンである。綺麗なピアノのフレーズが、まさに"光"だ。
そして驚きは、長谷川白紙のボーカル。正直ここまでとは思わなかった。彼自身の曲は、トラックの複雑さに耳を奪われるので、あまりボーカルを意識したことがなかったが、こうやってフィーチャーされると、癖が少ないとは思いながらも、記名性も感じるボーカルとしての力強さが、存分に発揮されている。
フックではドラムンベースの派手な展開を見せるが、しっかりと生きているボーカルからは、"光"の強さを感じる。

パソコン音楽クラブらしく、生活に馴染む音楽であり、自然の景色が眼に浮かぶ1曲。文句なしで良い歌ものであることに加えて、しっかり踊れる曲に出来上がっているところが、まさに名曲だと思う。

4:BBHF「涙の階段」

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4人組バンドの新曲より。元々前作の「Mirror Mirror」のインタビューにて、言及されていた新作である11/13発売予定の2nd EP “Family”の先行リリース曲である。

前作は、「デジタルなもの」、今作は「肉体的なもの」という表現がされていた通り、前作と比較して、このバンドが持つメロディーの強みにフォーカスされた曲になっていると思う。
一聴して、まさに"涙の階段"だと思った、感情が込み上げていくようなフックのメロディは、もう流石とか言いようがない。コーラスとエフェクトが秀逸で、登ったり降りたり、そういった情景が目に浮かぶ。
これぞBBHFというような、ポップなんだけど、そっちに振りすぎずの温度感が素晴らしい。歌詞の世界観はJPOPらしいが、その表現はさらに研ぎ澄まされているなと思う。こういう曲をグッドミュージックと呼ぶのだろうなと、そんな曲だ。

3:lyrical school「YOUNG LOVE」

2度目のメジャーデビューを果たした5人組ガールズラップグループのニューアルバムから。
正直、このアルバムからどの曲を選んでも良いぐらい、良いアルバムだと思うのだが、彼女たちのアイドルらしい可愛らしさと、その中にキラリと光るカッコ良さのバランスが非常にうまく出ていると思うこの曲を選んだ。 

アコースティックギターで軽やかにスタートするこの曲は、全体的にすごくエモい。
一人ひとりのラップは、言葉の割り方が秀逸だし、それに乗りきる彼女たちのフロウがとても良い。他の曲に比べても、この曲は乗り方が今っぽくて特徴的だ。
また、合いの手のようなコーラスも曲をどんどんと加速させていく。
そこから迎えるフックは、歌ではなく、まさかのセリフメイン。この緩急には驚いた。
クライマックスはCメロ。最高の盛り上がりを見せる。学生時代の甘酸っぱいストーリーが、映画や小説かのように表現された1曲になっている。

この曲だけでも、やはり彼女たちには、多くの人にその音楽とキャラクターが届きうる可能性が秘められていると思った。

2:Flume「Rushing Back ft. Vera Blue」

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オーストラリアのプロデューサーのニューシングル。
彼の名前を知ったのは、今年のサマーソニック。正真正銘の今年のサマーソニックの大トリを飾った彼だが、個人的なベストアクトだった。 

その時のアクトでも披露されたこの曲。とても耳に残っていたが、リリースされていないことに残念に思っていたところに、このタイミングでのリリースは純粋に嬉しかった。

透明感抜群のボーカルに、カラフルな音に彩られたトラック。
リズムも音も目まぐるしく変わる中で、芯の強いボーカルが頼り甲斐のある心地よさがある。
耳を切り裂くような高音がまさにフューチャーベースらしく印象深いが、ビートや時折顔を出す低音が曲の表情をさらに豊かにし、グルーヴを生み出していく。

過激なライブパフォーマンスも話題だが、彼のやっている音楽そのものに揺るぎない良さがあるからこそのパフォーマンスだなと改めて思った。

1:崎山蒼志「潜水 (with 君島大空)」

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潜水 (with 君島大空) - Single

潜水 (with 君島大空) - Single

  • 崎山蒼志
  • J-Pop
  • ¥250

music.apple.com

新世代のシンガーソングライターによる2ndアルバムからの1曲。 
崎山蒼志の曲だという時点でマストチェックという感じだが、この曲はその中で格別なものだろう。なんてったって君島大空と石若駿が参加しているのだから。

この曲は、もともと崎山蒼志のバンドのオリジナル曲だが、君島大空が崎山蒼志と出会った曲でもある。その曲を、今夏の共演を機に、君島大空のプロデュースでアレンジし直し、そこに最注目ドラマーともいえる石若駿が参加する。控えめに言って出来過ぎたストーリーだし、凄すぎる。

原曲よりもスローな雰囲気がある楽曲については、ギターのアレンジやコーラスワークに君島大空感が前面に出ている。ギターやコーラスのキラキラ感と、石若駿のドラムの多彩さからは、なんとなく感じるモノクロな質感も含めて、情報量がこれでもかと詰まっている。
それでも色褪せない崎山蒼志のボーカルの圧倒的個性と存在感こそ、この曲の神髄だろう。ボーカリストとしての個性と、スキルがさらに研ぎ澄まされてるのが、原曲と聴き比べると鮮明になる。

2019年の1曲と言っても過言じゃないだろうし、今後も長く歌い継がれてほしい、そんな曲だ。

soundcloud.com

テストの最終日、とんでもなくバズってしまった僕は、気がつけばサマソニのステージに立っていた

■Albums

  • For Tracy Hyde「New Young City」

ドリーミー/シューゲイザーポップバンドの3rdフルアルバム。
終始、ドリーミー感、シューゲ感が満載。
ここまで徹底してやり切れるバンドは多くないのでは。

楽曲の質の高さが際立つアイドルのニューアルバム。
このアルバムは、12か月連続リリースした楽曲に新曲を1曲加えてパッケージした作品。
個人的には耳に残る曲とそうでない曲が結構ハッキリ出てしまったのだが、多様なアーティストを招いて作成された楽曲の質はやはり高いなと思う。
今後も要注目。

3人組ロックバンドの7thアルバム。
あまりちゃんと聴いたことがなかったのだが、この軽快な音に乗せて、耳を突く刺激的な言葉が散りばめられた楽曲からは、良い意味で、明らかに"普通じゃねーな"と感じさせる。

 

8人組ソウルバンドの3rdフルアルバム。 
曲としては似たような雰囲気の曲が並んでいるが、良いことばかりじゃない世の中で、前向きな歌を歌い続ける。
まさに"希望"の音楽だ。

  • Kuro「JUST SAYING HI」

ダブバンドTAMTAMのボーカリストによる1stソロアルバム。
EVISBEATSやShin Sakiura、ji2kia、そして君島大空も参加するという豪華さ。
透明感のある歌声から、多様な音楽を見せてくれるが、一番のお気に入りは「HITOSHIREZ」 。
自作のトラックということだが、現行Hiphopの雰囲気全開で、トラップ的要素も盛り込んだダークに攻めたトラックに、自由自在に乗りこなすラップが最高にカッコ良い。
ここまで出来るボーカリストだとは、正直びっくりだ。

mikiki.tokyo.jp

ドライブサーフミュージックを奏でる4ピースロックバンドによる3rdフルアルバム。
彼らのことを知ったのはTVのCM。
良い意味で日本のバンドらしくない、カラッとした雰囲気が爽やかで心地よくて、シンガロングしたくなる。

  • TWICE「Feel Special」

言わずと知れた韓国のアイドルによる8枚目のミニアルバム。
彼女たち自身に色々あったようだが、そのあたりはあまり知らない。
単純に、曲が凄く良いと思った。韓国の楽曲は、こういうエレクトロ系の音楽の質が本当に高い。
KPOPアイドルは日本だと日本語版の楽曲をリリースすることが多いようだが、日本語だとどうしても、歌詞が安っぽくなってしまい、リズム感が出ない印象。
これは日本版ではないので、韓国語や英語で歌われているのだが、それが楽曲とマッチしていて、とても良い。

  • 笹川真生「あたらしいからだ」

アルバム通して、すごく危険な雰囲気を感じるが、それが良い。 

「candle tower」以外の曲は、もう少しポップに寄せた雰囲気。それもなかなか良い。 

  • パソコン音楽クラブ 「Night Flow」

夜から朝へというようなコンセプトとのことだが、その空気感が凄く伝わってくる。
インスト曲とボーカル曲のバランスも良く、ふとした時に聴きたくなるような、そんなアルバム。 

mikiki.tokyo.jp

  • FIVE NEW OLD「Emulsification」

「Fast Car」以外の曲は結構多様。 同世代のゲストも参加している。
"Emulsification"は"乳化"という意味らしい。互いに混ざりあわないものを調和させるという意味。
まだまだこのバンドは色んなものを調和させながら、活躍の場を広げていくだろう。 

mikiki.tokyo.jp

  • banvox「Sellout」

全体通して、なかなかハードな音だが、 そこに日本語詞をぶつけてくる気概が素晴らしい。

アルバム通して、本当に良い。
踊Foot WorksやJinmenusagi等々、豪華なゲストが参加しており、それぞれの個性がしっかり出ているのだが、それをリリスクが完全に自分たちの色に染めてしまっている。
このポップさは、JPOPの文脈から見ても十分面白い作品になっていると思う。

natalie.mu