選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2019.8 Monthly Best Songs

2019年8月にリリースされた曲・アルバム、もしくは発表されたMVから特に良かった10曲を選びました。
おまけでライブの感想なども書きましたので、良かったら是非。

 

 ■Songs

10:佐々木 海真 「溺れ藍」

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彼についての情報は少ない。Twitterによると、佐々木 海真は名古屋在住の19歳で、iPhoneGarageBandで楽曲制作するSSWのようだ。
情報の少なさに反して、曲のインパクトは絶大だ。
決して派手な曲ではない。しかし、その音使いや細かな展開からは、彼の個性がはっきりと感じられる。ところどころに感じる不協和音にも近い音に感じる大胆さに驚きながら、丁寧に紡がれる歌から生み出されるカタルシスに、とても説得力と納得感がある。
単純ながらアートワークに感じるセンスもあわせて昨今の注目のSSWへ近い場所にいるような気もして、今後も注目だ。

9:SHE IS SUMMER 「Bloom in the city」

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シンガー・ソングライター、MICOのソロ・プロジェクトである「SHE IS SUMMER」の新曲。この楽曲はテレビ大阪BSテレ東BSテレ東4Kで放送中の連続ドラマ「まどろみバーメイド ~屋台バーで最高の一杯を。~」の主題歌とのこと。
まずイントロを聴いて感じたのは、最近海外で人気を博している80年代や90年代のシティポップ感だ。
ちょっとベタな雰囲気のシンセをベースにしたアレンジと、彼女の甘めの声やメロディがマッチし、ちょっと前のシティポップ感を醸し出しているのだろう。
前作は今っぽさを感じさせる出来だったが、今作では少し雰囲気を変えながらも、こういう空気感で真正面から勝負できるアーティストはそう多くないと思うので、非常に頼もしさがある。

8:佐藤千亜妃 「大キライ」

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惜しまれつつ活動休止を発表したきのこ帝国のボーカルギターを務める佐藤千亜妃が、全編の音楽監督を務めた映画『CAST:』の主題歌として書き下ろしたのが、この曲。しかも自らも主役として出演するという多彩っぷり。
去年あたりから、ソロ活動を活性化させていた彼女だったが、主にエレクトロ色多めと感じていた中で、今作はアコースティックギターやストリングスを使いながらも、近年のきのこ帝国にも近いようなシンプルなバンドサウンドに仕上がっている。

それよりも何よりも、自分が衝撃を受けたのは、彼女がこのような歌詞を歌っているということだ。
正直、こういう歌を歌えるシンガーだと思っていなかった。ある意味すごく単純で、世俗的な感情を、シンプルに歌いあげるとは。
その歌唱力には全く疑いの余地がない中で、今時の若者のような恋愛の歌は、昔の彼女であれば絶対に歌うことはなかっただろうに、色々な経験を経て、これだけ深みを見せることが出来ていることが、彼女の人間としての、シンガーとしての素晴らしさを示しているのだと思う。

7:赤い公園 「凛々爛々」

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4人組ガールズバンド「赤い公園」が、ついに精力的に活動を再開し始めた。
去年、新ボーカルとして、元アイドルの石野理子の加入を発表して以来、時折ライブを行ったりYoutubeへ新曲公開は行っていたものの、リリースとしては今作が初めてだ。10/23リリースのEP『消えない - EP』からの先行配信という形である。

石野理子の癖のないストレートな歌声がぴったりのストレートなロックサウンドであるこの曲。"ヒーロー"という単語がぴったり合うような爽快感やカッコよさを感じる。
彼女のボーカルは、ライブでは若干不安に思うこともあったのが、その2000年生まれという若さからか伸びしろ満載で、どんどん"赤い公園のボーカル"としての立ち位置を確立している。彼女がこのバンドの中でどういう成長をしていくのかも、今後の楽しみなポイントだろう。
日本の音楽シーンに、赤い公園が帰ってきたぞ。

6:The 1975 「People」

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サマソニでのライブの絶賛が記憶に新しいThe 1975がリリースした話題の1曲。
「People」は来年2月にリリースとなるニュー・アルバム『Notes On A Conditional Form』からの1stシングルとのこと。
The 1975はあまり知らないのだが、この曲に溢れるエネルギーは凄まじい。
全てを曝け出すかのようなボーカルとサウンドに対して「People」というタイトルとこのMVに仕上げる辺りの感性は、まさしく今を代表するモンスターバンドというところか。
一体どんなアルバムになるのか、今から楽しみだ。 

5:ヨルシカ「雨のカプチーノ

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 2人組バンド「ヨルシカ」の8/28リリースの新AL「エルマ」からの1曲。
ボカロPとしても活動するコンポーザーのn-buna(ナブナ)が、女性シンガーのsuis(スイ)と共に結成したバンドとのことで、MVのアニメや出てきたタイミングなども併せて、"ずっと真夜中でいいのに。"と似た感覚もあり、なんとも新世代感がある。

この曲は、イントロから流れるメインのギターリフで勝負ありという感じだ。凄くシンプルなのに耳に残るのが不思議で、それだけでもう引き込まれてしまった。
展開も多彩で、軽快さを見せながらも、サビではしっかりと腰を据えたような壮大さで力強さを感じる。癖の少ないボーカルと合わせて、すごくストレートな音楽だなと思う。

そんなことを思っていたのだが、以下の記事を読んで、ヨルシカに対する見方が大きく変わったので、併せて紹介しておきたい。
所謂"邦楽ロックバンド"としてみてしまうと、このバンドの深さを見落としてしまうかもしれない。ポップシーンで活躍するアーティストが、芸術に対するここまで強い意識を見せるのはそうないのではないだろうか。

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4:Mura Masa「I Don’t Think I Can Do This Again (with Clairo)」

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イギリスのガーンジー島出身のプロデューサー・DJである、 Mura Masaのニューシングル。アメリカの若手SSWのClairoをフィーチャーしている。
どちらもあまり聴いたことがなかったのだが、この曲は凄く良い。
なんといっても聴きどころは、フックだろう。Mura MasaのクリーンなトラックとClarioの透き通った歌声が、一気に雰囲気を変え、ノイジーな展開を見せる。
単なる流行りの"低音"に終わらず、それを一つ推し進めたような、そこにあえて少し歪な要素を加えている辺りに強烈なオリジナリティを感じる。

3:88rising, NIKI「Indigo」

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88risingのR&Bシンガーであるジャカルタ出身のNIKIの新曲。
オルタナティブR&Bと言っていいのか、何と言っていいのか分からないが、エレクトロやHiphopを飲み込んだ、今らしい1曲になっている。
特にフックのラップがとても心地よい。シンプルながら、曲にぴったりとハマるフロウとリリックだ。
1999年生まれだそうだが、曲のシーンに合わせてフロウを使い分けるボーカルからは、すでに貫禄すら感じる。  

2:舐達麻「GOOD DAY」

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埼玉・熊谷発の3人組ヒップホップクルーが8/31にリリースした新AL「GODBREATH BUDDHACESS」からの1曲。
舐達磨についても、自分は良く知らない。名前だけ知っていたぐらいだが、ふと聴いたこの曲には耳を完全に奪われた。
音数少なく、綺麗な音で構成されたトラックに、怒涛のように紡ぐリリック。
そこには、彼らのこれまでの人生が詰まっているのだろう。あまりに詰まり過ぎていて、言及をするのはやめておこうと思う。
ただ、これだけ彼らの物語が詰まったリリックであっても(いや、だからこそからもしれないが)、それぞれのリスナーが感じる、それぞれの感情というのがあるのではないだろうか。こういう曲を"クラシック"というのかもしれない。

昨日今日明日明後日
燃やすスモークのように上がってく
深く吸って 過ぎてくgood day
深く吐いて 迎える good day
過去 現在 未来はハイになって
近づく頂上空に向かってく
どこに行っても過ぎてくgood day
高く飛んで 迎えるgood day 

1:春野 「燃える夜」

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燃える夜

燃える夜

  • 春野
  • R&B/ソウル
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

music.apple.com

ボカロP出身のトラックメイカー/SSWである春野の8/28リリースのEP「CULT」からの1曲。
イントロで勝負あり。ローファイかつ音量の抑えられたイントロの空気感は、これぞチル。自分にツボに思いっきりハマってしまった。
そして、そこからの楽曲では、絶妙なバランスで数々の音色の粒が重ね合わせられる。
やり過ぎでもないし、やらなすぎでもない。そんな感覚が、まさに彼らしいチルでポップな楽曲の特徴だろう。綺麗な言葉で紡がれるボーカルも、トラックの雰囲気と相まって、感情に響く。 
派手な聴きどころがあるわけではない。しかし、だからこそ、一瞬一瞬に凝らされた工夫の丁寧さにハッと気づかされる瞬間がある。そういう音楽の楽しみを味わえる1曲だ。

■Albums

  • MON/KU「m.p」

2019年に彗星のように現れたSSW、MON/KUのEPが遂にリリースされた。
お気に入りは、「Inner Odyssey」。宇宙のスケール感での壮大さが最高だ。 
本人の言葉を借りれば、これが「ダークネス・ドラゴン・EP」か。

  • ヨルシカ「エルマ」

ヨルシカの新ALは、「雨とカプチーノ」以外の曲にもお気に入りが多く、「夕凪、某、花惑い」の勢いのある展開を見せるロックサウンドも良かった。
インタールードのようなインスト曲も耳に残るものが多く、全体的に完成度が高い1枚。

  • 春野「CULT」

「燃える夜」から始まる6曲はどれも素晴らしい。
正直どれをBest Songに選んでも良かった、というかこの6曲の合わせ技と言ってもいいぐらい、この1枚で表現している世界観が圧倒的だと思う。

 

■Lives

サマソニの3日目に行ってきた。これという目当てがあったわけではないが、Perfumeは一度見てみたいなと思っていたし、BLACKPINKやEDM勢もここで観なければ、きっとしばらく観れないだろうと思ったので、楽しみにしていた。

まずは、やはりソールドアウトだけあって人がとにかく多かった。昨年も行ったが、それとは比べ物にならない人の入り。マリンスタジアムがあそこまで一杯になるとは、正直予想を超えていた。

そんな注目度の中でのPerfumeやBLACKPINK、ZEDDやThe Chainsmokersは、流石の世界標準のアクトだった。

ただ一番記憶に残ったアクトは、最後に観たFlume。
Future Bassの要素を取り入れている点が気になり、観に行ったが、その型破りのパフォーマンスに完全に度肝を抜かれてしまった。ステージ上でハンマー持って機材をぶっ壊すパフォーマンスするなんて初めて見た。もちろん曲も最高に良く、今後注目していきたい。

あと、チラッとしか見れなかった女王蜂もすごくよかった。あそこまでバキバキのサウンドとは。今度はちゃんと見たい。

毎年のことだが、総じて楽しめたサマソニだった。来年はないが、再来年も期待したい。

natalie.mu

 

そういえば、今回初めてプレイリストメーカーなるものを使ってみた。
自分の観たいアーティストに絞るなど、自由度が高めながらシンプルUIなので、非常に使いやすかったので、おすすめである。

mag.digle.tokyo

 

初めての野音は、蓮沼執太フィル。最高の夜だった。
「時が奏でる」は名盤だと思うし、蓮沼執太フィルは日本のポップスの一つの到達地点であることを再確認できた。

natalie.mu

 

■+α

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君島大空のフジロックでのライブ映像が公開されていたので、載せておく。
バンドメンバーは、石若駿 (dr), 新井和輝 (ba), 西田修大 (gt) という豪華さ。これがルーキー枠とは信じられない。
バンドの実力はさることながら、豪雨すらも曲の装飾かのようになっている、最高の1曲だ。この曲、きっと2019年を代表する1曲になるに違いない。

qetic.jp