選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2019.7 Monthly Best Songs

2019年7月にリリースされた曲・アルバム、もしくは発表されたMVから特に良かった10曲を選びました。
おまけでライブの感想なども書きましたので、良かったら是非。

 ■Songs

10:SPARTA「いつも通り」

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ビデオグラファーとしても活躍するラッパー、SPARTAの新曲。
MVは、本人とKID FRESINOが手掛けており、ラップからも溢れる"身近さ"、"生活感"みたいな空気感が感じられる映像になっている。最後にちらっと映るフレシノにも注目。
シンプルなトラックとラップではあるが、この、日増しにスピードが速くなっていく、複雑になっていく社会の中を貫く、優しいショートチューンに出来上がっている。
"いつも通り"に生きることについて、改めて考えさせられる。

9:Official髭男dism「宿命」

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今年大注目の4人組バンドの新曲。『熱闘甲子園』テーマソングにもなった。
Brasstracksが引き合いに出されることもあるほど、イントロからブラスがふんだんに使用され耳に残る。
いつも通り、髭男のメロディは素晴らしく、ブラスとうまく混ざり合っていることに加え、『熱闘甲子園』テーマソングということもあって、歌詞も相まって青春も想起されるような歌に仕上がっている。
ギターソロや終盤では、ある意味曲調とは似合わない音作りのエレキギターが、曲を切り裂く様が、絶妙なバランス感覚で曲を引き立てており、素晴らしくカッコ良い。
次から次へと良曲リリースを連発する髭男。今後もまだまだ期待できそうだ。

また、後ほど公開された高校生ブラスバンドとの共演の動画もとても良い。
なんだか込み上げてくるものがある。
こういうハートフルな演奏は、紅白にピッタリではないかなと思う。

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8:Lucky Kilimanjaro「HOUSE」

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6人組エレクトロ・ポップ・バンド、Lucky Kilimanjaroの4か月連続リリースの第二弾シングル。このバンドのことは知っていたものの、ちゃんと曲を聴いたのは今回が初めてな気がするが、その振り切ったポップさに驚かされた。
おそらく「HOUSE MUSIC」と「HOUSE(家)」を掛けているのだと思うが、家で自由気ままに音楽を聴いて踊る様子を、これでもかとポップなリリックに落とし込みながら、キャッチーで踊れるハウスミュージックが、最高に楽し気な雰囲気を醸し出す。
個人的には、めっちゃ共感できるリリックも非常にお気に入り。
間口が広い音楽だと思うので、キッカケあれば、一気に売れていくのでは。

BPM125
部屋で爆音のミュージック
ベッドの上で完結
もう一歩もここから出ない
BPM125
部屋で踊るハウスミュージック
何もない休日だからこそ
ここから出ない

7:ものんくる「スーパールーパー」

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角田隆太吉田沙良からなる音楽ユニット"ものんくる"の新曲。これを書いている中で知ったが、クラフト・ビール「水曜日のネコ」をイメージして作った楽曲とのこと。
非常に爽やかでポップな曲となっており、夏にぴったりの1曲になっている。
終始ポップではあるものの、そこはものんくる。随所に"おっ"と思うような仕掛けがあって、何度聴いても飽きさせない良質ポップスだ。
歌詞はMVや曲の背景を知ったうえだと、ある程度イメージが固まるが、その情報なしでも、きっと色んな人が色んなことを思い浮かぶようなリリックに仕上がっているのではないだろうか。
ちなみに「スーパールーパー」という聴きなれない単語はどういう意味か、曲を最後まで聴いて、納得出来た。なかなか良い仕掛けで、面白いね。

6:betcover!! 「異星人」

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ヤナセジロウのソロプロジェクト「betcover!!」が満を持して、メジャーデビューし、リリースした初アルバムのリード曲。
6分あるこの曲は、大きな盛り上がりがあるわけではないのだが、彼らしい空気感で、ゆったりと駆け抜ける。
この時代にぴったりの"今"の音楽とは、かなり距離を置いた楽曲だが、だからこそ、そこに彼の個性が満杯に詰まっている。1分30秒のアウトロも、彼だから出来るのかもしれない。
アルバムには、10分越えの曲も複数あるほど、"今"っぽくないアルバムを、メジャーデビュー、しかも初アルバムとしてリリースするということをやってのけたbetcover!!。この空気感は、リスナーの期待をある意味裏切って、ブルースやサイケに振り切った今のSuchmosと比類する存在かもしれないと、ふとそう感じた。
確実に、要注目のSSWの一人だ。

www.cinra.net

5:松木美定 「主観」

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ついに、要注目SSWのひとり、松木美定からのリリースが行われた!
新作「主観」は、「実意の行進」とは、違ったテイストではあるが、そのジャズのような雰囲気を包み込んだポップスの完成度は、素晴らしいの一言。
サビのメロディは、最高にツボである。"きっと昇華できるから"や、"いっそ不信の中で "などの部分のフレーズが、不思議な感覚もあり非常に耳に残る。というか、最初に聴いたときから耳を離れない。
歌やリリックも、メロディや曲の雰囲気にぴったりと思わせるソングライティングも流石だし、特別目立つわけではないが、キーボードソロも地味に良い。。。
まだ3曲しかリリースされていないが、これぞ松木美定という個性がすでに確立されたように思える。
既発の2曲と合わせて、Bandcampから投げ銭式でダウンロード可能で、ご本人がBandcampの使い方までブログで説明してくれているほどなので、まだチェックしていない方は是非。
それにしても、アルバムが楽しみ。。。

biteimatsuki.hatenablog.com

mikiki.tokyo.jp

4:lyrical school「Enough is school」

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個人的に注目している5人組ガールズラップユニット" lyrical school"のビクター移籍後第2弾配信シングル。
聴いた瞬間にびっくりしたのだが、調べて納得。
今作は、踊Foot WorksのPecori、Tondenheyをサウンド・クリエイターに迎えた新曲で、踊Foot Worksらしさと、リリスクらしさの両方が良く出た1曲になっている。
Tondenheyの今の音に合わせて、Pecoriの攻めたリリックを、リリスクの面々がしっかり自分たちのものにしてラップしている姿が、非常にカッコ良い。
空に突き抜けるようなフックも必聴だ。
ここ最近のリリスクは、プロデューサーの色が出た曲をしっかり自分たちのものにしていて、どの曲も素晴らしいと思うし、どんどん成長しているように思える。
9/11リリース予定のアルバムも楽しみだ。

3:川﨑レオン「MUSIC」

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栃木県日光市出身の女性シンガー・ソングライター「川﨑レオン」の新曲。
最初に聴いたとき、その中性的な声から、男性か女性か正直分からなかったという余談もあるのだが、とにかくイントロからのリズム隊とピアノの疾走感がとても良い。
そして途中からは、君島大空の切り裂くようなギターも合流しながら、終盤のサビではコーラスも多重に重ねられ、クライマックスに流れ込む。
そのようにして駆け抜ける2分強は、この短い時間で、様々な音楽の魅力を感じることが出来る楽曲になっている。
いやー、それにしても、個人的には、こういうベースとドラムが好きすぎる。
ジャジーで、ヒリヒリとしたリズム感。最高である。
同時に配信された「Nikko」という曲も非常に面白いので是非。

mikiki.tokyo.jp

2:BBHF「友達へ」

2016年に活動を終了したGalileo Galileiのオリジナルメンバーとサポートメンバーによって、2018年に結成されたBird Bear Hare and Fishが、「BBHF」とさらに名称変更してリリースしたEP「Mirror Mirror」からの1曲。
MVカットもされていないのだが、タイトルの通り、友達とのやり取りや想いが綴られた、非常に好きな1曲だ。
今作は、デジタルな要素をテーマに作られており、この曲の音作りも、確かに随所に、電子音が際立つものとなっている。
音数少なく、すっきりとした音像で、彼ららしいグッドメロディーや、多彩なコーラスで作り上げられる、"友達"との関係性を描いた世界観は、ありそうでなかなかない、彼らにしか出来ないインディーポップに仕上がっている。
Galileo Galilei時代から、非常に好きなバンドであり、昔からこのクオリティの楽曲を連発しているので、特段驚きがあるわけではないのだが、今の時代のどの界隈とも少し違った特徴やスタンス、立ち位置にあり、独自の質の高い音楽を作り続ける彼らは、日本でも有数のバンドだと思う。

1:君島大空「散瞳」

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散瞳

散瞳

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2019年を象徴するニューカマーとも称されるシンガーソングライター、君島大空の新作。
前作の文句なしの出来栄えから、かなりの高いハードルで迎えた今作。しかし、最初に聴いたときから、驚きばかりで、まさに度肝を抜かれてしまった。
何度聴いても捉え切れないような複雑なリズム、中性的なボーカル、幻想的なリリックで、君島大空らしい"ギリギリ"感溢れる楽曲に仕上がっている。
MVも、完全にアート作品に仕上がっており、彼のセンスが垣間見える。
アコースティックギターも、エレキーギターも、電子音も、その他も、とにかく色々な音が詰め込まれているのに、決して聴きづらい音楽にはなっていないのは、なぜだろうか。
同時リリースした「花曇」も、全く雰囲気が違うものの、こちらも彼らしい繊細さが良く出ている良曲になっていて、昨今のSSWの流れは、"君島大空"を中心に回っているのだと、そう思わずには居られない。
なんだか同じようなことばかり書いているが、いつかリリースされるであろうアルバムが、一体どんな作品に仕上がるのか、今から楽しみである。

 

■Albums

  • betcover!!「中学生」

上記の通り、 betcover!!が、メジャーデビューし、リリースした初アルバム。
以下の記事で、折坂悠太や中村佳穂、長谷川白紙、君島大空といったSSWを引き合いに出しながら、そういったアーティストの最先端の音楽は出来ないので、違うことをやっているというが、その可能性は、負けないぐらい大きいものだろう。

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  • 羊文学「きらめき」

「女の子」をテーマにした、羊文学による新EP。
これまでとは印象がガラッと変わったかのようなポップな曲が並んでいる。
非常に純粋な音楽をやっているバンドだなという印象で、そこにポップさが加わることで、さらに音楽としての強さが増したような気がする。

  • DYGL「Songs of Innocence & Experience」

ロンドンを拠点に活躍するバンド「DYGL」の新アルバム。
個人的には、これまで、あまり好みの音ではないかなと思うことが多かったのだが、今作は、そこを差し引いても、良いなと思う曲が多かった。
60年代や70年代を感じさせるような、彼らにしか出せない音を追及していることが良くわかる、そんなアルバムになっている。

  • Snail's House「エイリアン☆ポップ III」

Ujico*名義でも活躍するエレクトロ・ミュージックプロジェクト、Snail's House のニューアルバム。
星野源の作品への参加で自分は知ったが、Kawaii FutureBassとも呼ばれるその音楽は、とにかく踊れる音に仕上がっている。
特に強烈なシンセベースには、踊らされざるを得ない。それに加えて、ポップセンス満載のキャッチーなメロディが耳に残って離れず、中毒性が高く聴きだしたら止まらない、そんな音楽だ。

  • VaVa「223」

今年2月に2ndアルバム「VVORLD」をリリースしたトラックメイカー / ラッパーのVaVaが、リリース3日後の2/23に代官山UNITにて開催された「VVORLD Release Party」のライブ音源を、作品としてリリースしたものである。
VaVaの音楽は、ライブの映え方が尋常でない。どの曲もシンガロングだらけである。
音源だけ聴くと、こういうライブになるとは、自分は想像できなかった。しかもリリース3日後でこの盛り上がりである。
VaVaの今後の快進撃が容易に想像されるような、そんな雰囲気と強力なエネルギーを感じられるライブアルバムだ。

 

■Lives

  • 7/13 JAPAN'S NEXT 渋谷JACK 2019 SUMMER@渋谷

目当ては、「Suspended 4th」。ずっとライブが観たいと思っていたものの、なかなかタイミングが合わなかった中で、ようやく観ることが出来た。
PIZZA OF DEATH RECORDSとの契約も発表され、注目度急上昇の中で一体どんなライブを魅せてくれるのかと思い、ハードル高く構えていた。
しかし、彼らはそれを優に超えてきた。
セットリストも事前に決めていないらしく、彼らの主戦場の一つである路上ライブのような自由さと、文句なしの演奏力には、驚く他なかった。
まだまだポテンシャルが感じさせた彼らの名前を、今後観る機会が増えるに違いないことを確信できた、そんな会心のライブだった。いや彼らにとっては、数あるライブの一つだったかもと思うぐらい、まだまだ駆け上がっていくバンドだ。

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