選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

2019.5 Monthly Best Songs

2019年5月にリリースされた曲・アルバム、もしくは発表されたMVから特に良かった10曲を選びました。

おまけでその他で良かった曲や、観たライブの感想なども書きましたので、良かったら是非。

 

 ■Songs

10:Kan Sano「Melody At Night」

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mabanuaなどが所属しているorigami PRODUCTIONS所属、キーボーディスト / トラックメイカー / プロデューサー Kan Sanoの5/22リリースのニューアルバム「Ghost Notes」のラストを飾る1曲。

Kano Sanoの曲は、本人もインタビューで話している通り、どれも"夜"が良く似合う。
この曲も、タイトル通り、まさしく"夜"。
絞り込まれた言葉で、春夏秋冬と季節を駆け巡りながら、音が奏でる雰囲気は、極上の雰囲気を作り出す。
衝撃を受けるような派手さはないが、生活に溶け込むような、そんな優しさが伝わる。
どんな季節の"夜"にもぴったり合うような、この音はKan Sanoにしか作り出せない音楽ではないだろうか。
曲の締め方のセンスも流石で、ニクい。

 

9:Mega Shinnosuke「本音」

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2000年生まれのクリエイター、Mega Shinnosukeの新EPより。
一聴して、シューゲイザーやドリーミーポップを思わせる曲調にびっくりした。
特段大きな展開を作らなくても、7分弱という長尺を感じさせない曲の構成と歌は、さすが新世代というところか。

特に歌詞は、今の若い世代の感じる感覚が言語化されているように感じ、その雰囲気をシューゲイザーらしさも感じる優しい轟音が、さらに引き立てている。
今の世の中に対して感じる、どうしようもないやるせなさと、その中で生きる覚悟を、音と歌から感じる1曲だ。

彼の本筋の曲調とは違う曲のように思うのだが、それでもこのクオリティを出してしまう辺り、今後どんな音楽を作っていくのか、期待が高まる。

心配ないさ僕は 価値観の猛威で
人を殺すことに抵抗のない
こんな世の中すら 愛せるから

心配ないさ僕ら 未熟さを独りで
閉じ込め 誤魔化す 潔白のない
こんな世の中でさ 愛せるから

 

8:浦上・想起「沈まない街」

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浦上・想起(ex.浦上・ケビン・ファミリー)の自身4作目という新曲。
制作中のアルバムに収録予定というこの曲は、Aメロで9回訪れるという転調や、場面ごとに変わるリズムや音使いにより、雰囲気が目まぐるしく変わる。
しかし、これだけ大胆な工夫が凝らされていながらも、ポップスとして聴けるところに、彼の凄みや個性があるように思う。
彼の声自体が、非常に聴きやすい良い声な上に、その声が曲の雰囲気に合わせて細かく加工されている辺りが、曲が聴きやすくなっている一つのポイントかもしれない。
歌詞の言葉遣いも、いつも通り、普通はなかなか使えない言葉を、大胆に取り入れており、その言葉遣いから場面ごとにも少しずつ違った雰囲気を作り出している部分も、とても面白い。

制作中というアルバムがどんなものになるのか、さらに楽しみになる1曲だったが、この曲や既発曲は、bandcampから格安で購入可能である。
気になる方はぜひ購入すべきだ。

 

note.mu

 

7:SHE IS SUMMER「Darling Darling」

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女性SSW MICOのソロプロジェクト、SHE IS SUMMERが5/15にリリースした新EP「MIRACLE FOOD」のリードナンバー。
SHE IS SUMMERをちゃんと聴いたのは、今作が初めてだと思うが、とにかく声と歌が、非常に好きだ。
少し甘めながら、しっかり届いてくる良い歌だと思うが、少しの甘さが、曲調としっかり合っており、目立ち過ぎず目立たな過ぎずという、絶妙なバランスを醸し出している。

彼女の曲の作曲は、他のクリエイターに任せているとのことだが、MVの空気感も曲にぴったりで素晴らしかったので、「SHE IS SUMMER」というプロジェクトが、多数のクリエイターとの良好な関係によって支えられているというだろうことが伺える、良い作品だ。 

 

6:Mom「Boys and Girls」

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独自のジャンル”クラフト・ヒップホップ”を提唱するSSW、Momが5/22にリリースした2ndAL「Detox」より。
Momの曲は、iPhoneMacのフリー・アプリ「GarageBand」によって全て生み出されているらしく、上述のMega Shinnosukeと並んで、新世代アーティストとして取り上げられることが多いように思う。

そういった曲作りの面でもそうだが、言葉の選び方についても、Momは非常に特徴的だ。
この曲は、正直何が言いたいのか、核心がなかなか掴めない。
しかし、"僕のため息が世界を変える/一番ユニークな策なのさ"や"高級なチョコレートの箱みたいな人生を"というフレーズには、言語化がうまくできないが、すごく奇妙な感覚を感じさせながらも、それとは違ったちょっとした納得感みたいなものも感じさせるチカラを持っている。
こういった感性は、まさしく新世代なのかもしれず、こういった"ちょっとした違和感"こそが、世界を変えていってしまうキッカケなのかもしれない。

僕のため息が世界を変える
一番ユニークな策なのさ
でも愛している
どこか知らない国で
偶然出会えたならその時は
熱いキスをしよう

realsound.jp

 

5:崎山蒼志「柔らかな心地」

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ギター1本で勝負しているSSW、崎山蒼志が、「サントリー 天然水GREEN TEA」のプロモーション企画として、『徒然草』を再解釈し、作成した1曲。
イントロのリフが印象に残るが、曲全体を通して、爽やかな印象が素晴らしい。
何か特別引っかかるような箇所があるわけではないのだが、何度も繰り返し聴いてしまう。
そういう曲を、ギター1本と歌のみで表現してしまう辺りが、崎山蒼志の驚くべきところだろう。
今の季節、天気の良い休日の午後に、外を歩きながら聴きたい1曲だ。

ちなみにMVには、音楽好きで有名なモデルの武居詩織も出演しているが、曲の爽やかな雰囲気と絶妙にマッチしており、非常に素晴らしいと思う。

www.cinra.net

 

4:パスピエ「グラフィティー

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今年10周年を迎えた4人組バンド パスピエが5/22にリリースした新AL「more humor」からの1曲。

この曲は、イントロから衝撃を受けた。
聴いたことがない音で構成された、鋭いシンセフレーズが、耳に残って離れない。個人的イントロ大賞入賞確実だ。
この曲に限らないのだが、「more humor」の曲は、明らかに意図的に、"ユーモア"を感じされるような、耳に残る音使いが駆使されている。
イントロのようなシンセフレーズは聴いたことがないので、それだけでこの曲が完全に印象付けられしまった。
また言葉遣いも、パスピエらしく、ところどころ踏まれる韻や、斬新な表現の仕方に"ユーモア"を感じる。

こういった面白さを随所に感じさせながらも、フックでは、ドラムのリズムを軸にシンプルに音を重ね合わせて、力強く乗りやすいグルーヴを生み出している辺りが、流石と感じる。

 

夜に紛れ 人にまみれ
感情のグラフィティーアスファルトに描く
「帰ろうか」「参ろうか」「嘘つこうか」「どうしよっか」
行けど行けど付き纏うのは →→

消してしまえ 朝飯前
感情のグラフィティー今日もまた描く
劣等感・正当化・人生の前後半
目的地まで変えられると思うなよ →

 

3:NOT WONK「Down the Valley」

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北海道・苫小牧を拠点に活動する3人組ロックバンドの新ALからのリード曲。
3月にこの曲がSoundCloudにて期間限定で公開されたときから、名曲だと思っていたが、改めて名曲だと思う。

NOT WONKはパンクバンドと表現されることもあるが、今作は音としてのパンクさは、あまり感じない。
しかし、今作はそういったジャンルを飛び越えて、もっと深い部分での"ロック"や"パンク"が表現されているように思える。
この曲についても、5分間の中で、様々な表情を見せる。
シンプルながらも、太く強く奏でられるメロディやバンドのサウンドの一つ一つが、NOT WONKを形作っているように思う。
今の日本のバンドシーンのメインストリームではないかもしれないが、彼らの奏でる音楽の持つ"深み"や"強さ"は、確実にもっと注目されてほしいし、今の日本のシーンに足りない部分を補って余りある音に違いないと思う。

 

2:tofubeats 「Keep on Lovin' You」

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崎山蒼志と同様、「サントリー 天然水GREEN TEA」の企画により、『徒然草』を再解釈により作られた1曲。
この曲は、個人的フック大賞入賞確実と言えるぐらい、フックが素晴らしい。
シンプルに「Keep on Lovin' You」と繰り返すtofubeatsのボーカルが、とても心に響く。
爽やかな曲調とピッタリで、伸びが良く、いつまでも聴いていたいと思える。

曲全体としては、イントロのギターの爽やかなカッティングが非常に印象的だが、これはtofubeatsにしては珍しく、KASHIFの生ギターとのこと。
また、アウトロのコーラスには、さりげなくゆnovationが参加しているなど、曲の爽やかさやポジティブ加減と合わせて、「RUN」とは違った雰囲気を全編通して感じる。
「RUN」では、"切迫した覚悟"を感じたが、良い意味で、"深く考えず、ただやるだけ"というような、一つ突き抜けたモードに辿り着いたのではと思う。
肩ひじ張らず、"今のtofubeats"がそのまま込められた、極上のポップスだ。

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1:米津玄師 「海の幽霊」

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海の幽霊 - Single

海の幽霊 - Single

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥250

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5月の最後に、とんでもない曲をぶちかましてくれたものだ。
米津玄師が、映画「海獣の子供」主題歌として、書き下ろした1曲。

イントロから、デジタルクワイアを用いて、緊張感のあるメロディに耳が奪われる。
そして、サビ。
過剰なまでのデジタルクワイアと低音に、衝撃な展開を見せるメロディが重ねられる。
これにはもう、笑いが止まらない。
ここまでの曲を、米津玄師はまだ創るのかと、呆れてさえしまう。

デジタルクワイアからは「灰色と青」、サビのメロディからは「orion」を個人的には想起させられたが、そういった過去曲を、一つ上の次元で再構築したように思える。

彼のファルセットは、特別上手で綺麗というわけでもないと思っているのだが、そういう話ではなく、メロディの構成として、最大限に"米津玄師の声"を活かすために、ファルセットが大胆に使われているように感じた。
とにかく、この壮大なメロディやデジタルクワイアや低音のインパクトだけでも、素晴らしいと思うのだが、良く聴けば後ろで鳴るオーケストラが、米津玄師の歌を最大限に引き立てる役割を果たしているということも見逃せない。

JPOPは、歌に必要以上にフォーカスが当てられてしまう音楽だと、個人的には考えているが、この曲は、良い意味で"米津玄師の歌"が、必要十分にフォーカスされている。
改めて、JPOPのメインストリームが変わり始めていると思わずにいられない、そんな名曲だ。

 

realsound.jp

 

■Albums

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上記でも紹介したパスピエの新AL。
各種インタビューでもある通り、"手癖を捨てた"とまであり、これまでのパスピエから、次のパスピエの音を創りに行った1枚になっている。
そうまでしても感じる"パスピエらしさ"こそ、彼らの芯であり、逆にバンドのアイデンティティがハッキリしたと思う。

グラフィティー」だけでなく、全曲お気に入り。
どの曲も、ハッとさせられるようなユーモア溢れる音が詰め込まれている。
特に、「始まりはいつも」もギターやシンセの音が面白く、名曲だ。

natalie.mu

 

  • Rude-α「22」

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5/29リリースのメジャーデビューEP。
勝手に、Rude-αは結構コアなヒップホップをやっていると勘違いしていた。
特に「wonder」は、ラップも固すぎずに、メロディがキャッチーで聴きやすい。
良い意味で、ヒップホップに寄り過ぎず、間口が広いJPOPになっていると思う。
キッカケさえ掴めれば、一気にメインストリームに躍り出そうな気がする。

 

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水曜日のカンパネラのトラックメーカーを務めるケンモチヒデフミが、5/15に8年半ぶりにリリースしたソロ作品。
特に「Aesop」がお気に入り。
大胆に用いられたボーカルチョップがゴツゴツとした印象を感じさせるが、その裏には綺麗な旋律があり、何とも言えない不思議なコントラストがあるのが、面白い。

 

  • 王舟「Big fish」

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5/22 リリースの王舟、3年ぶりの3rdAL。
全編通して、とても心地よく綺麗な音が鳴っている。
あまり難しいことを考えずに、一聴してとにかく音が良いと感じた。

  • SHE IS SUMMER「MIRACLE FOOD」

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Darling Darling」 以外の曲も、非常に良い。
特に、WONKの荒田洸が作曲・編曲を務めた「TRAVEL FOR LIFE」もお気に入りだ。
全曲作曲者は違うのに、ちゃんとした統一感がある音楽に仕上がっている辺り、SHE IS SUMMERというプロジェクトの強さを感じた。

 

  • Kan Sano「Ghost Notes」

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とにかく夜に聴きたい1枚。
この一言でこの方は十分だろう。
End」で幕を開ける辺りのセンスも◎。

 

  • Mom「Detox」

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Momの新ALには、どうしようもないやるせなさが込められた曲と、その中でもなんとか生きていこうみたいな覚悟を感じる曲があると思う。
終盤の「フリークストーキョー」「冷たく燃える星の下で」は、特にそんな空気感を感じた。
でも、そこに切迫した迫力があるわけではなく、ある意味達観したところからの歌が、まさに今の時代を表現しているのではと思う。

 

  • Native Rapper「TRIP(Remixes)」

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3月にリリースされたNative Rapperの「TRIP」のリミックス作品。
全曲良い。こういうリミックス作品は、原曲の良さがさらに引き立てられる。
お気に入りは、「Swag Girl - (ゆnovation Remix)」。
ゆnovationのメロディカで曲の雰囲気がチルになっていたり、「Midnight Dreaming」がサンプリングされていたりと聴きどころ満載。
 

■Lives

  • 5/4 VIVA LA ROCK 2019 @埼玉スーパーアリーナ

おそらく始まって以来、毎年参加してるビバラロックに、今年も参加した。
最初は、今年は行かないかなぁと思っていたが、SuchmosのALが快作だったため、急遽行くことにした。
赤い公園King Gnu・FIVE NEW OLD・SuchmosOfficial髭男dism辺りを観たが、どれも当たりだった。
赤い公園は新ボーカルの石野理子の成長が著しかったし、King Gnuは1年前はO-nestで観てたのにここまでデカくなったことが単純に嬉しかったし、FiNOはフロントマンのHIROSHIの強さを感じてまだまだデカくなるなと思ったし、Suchmosは期待通りのパフォーマンスで最高だったし、Official髭男dismはサポート有の9人編成が彼らの良さをめちゃくちゃ引き立ててるなと思ったし、とにかく全部良かった。

そして何よりビックリしたのは、ステージ構成の変更。
最初は戸惑ったが、完全に当たりだったと思う。
フェス初心者の人も気軽に、色んなアーティストを楽しめる、最高の環境のフェスだった。
来年以降も期待。個人的な欲を言えば、今でも十分頑張っていることは承知の上で、もっとフックアップに力を入れてほしい。
そうすれば唯一無二のフェスになるのでは。

 

  • 5/18 CROSSING CARNIVAL'19 @渋谷

色んなものが観れて、感じられた良い1日でした。
この日については、以下の記事に。

shogomusic.hatenablog.com

 

 

以上、2019年5月に聴いた音楽のまとめでした。

 

5月の曲は、季節柄か、爽やかで気軽に聴ける曲が多かった気がします。

6月もきっと良い音楽がたくさん聴けるでしょう。