選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

lyrical school「Wonderland」について書きたい放題書く

  • はじめに

    「Wonderland」は、リアルとフェイク。ヒップホップとアイドル。その狭間の揺らぎをとらえた作品。書きたいことはこれだ。

    そんなことを書きたいのではあるが、今作についての紹介や評価として、5人の個性についてフィーチャーして書かれることが多いが、この言葉はあまりにもありきたりすぎるし、表面的すぎるという気持ちもある。どの作品も5人の個性がそれぞれの形で表現されていたわけで、その表現のされ方が変わってきたということが重要だろう。
    そこも念頭に置きつつ、好き放題書いてみたい。まずは5人の個性についてもっと掘り下げたい。彼女たちが最近どのような活動をしていて、それが個性としてどのように表現されるに至っているのか。
    次に、それを踏まえて、彼女たちの個性がどのように楽曲に反映されているのかも考えながら、楽曲側から1曲ずつ見ていく。ここでは、Wonderlandのテーマにも触れながら、全曲を通してみていきたい。
    そして最後に、ここが書きたかったことだ。「Wonderland」という作品が示すものは何なのか?そこにおいて5人が、チームリリスクが何をなしているのか?それをみていきたい。改めて結論を先に書いておけば、この作品は、リアルとフェイク。ヒップホップとアイドル。その狭間の揺らぎをとらえた作品だ。
    また、話題の切れ目で、気に入ったラインを引用していく。特に他意はない。ただ気に入った言葉を使ってみたいだけだ。

    All Day All Night!
    時間はたりない 死ぬまで生きてく Yeah!Yeah!Yeah!
    それで毎日は続く それで毎日は続く

    ー OK!

    最初に結構大事なことを、2点断っておく。

    1点目は、自分がリリスクをちゃんと追い出したのは、ちょうど1年ほど前の「OK!」を聴いたときからだ。なので新参者。でも、この曲がただただ良くて、そこからリモートライブを見て、今のリリスクはめちゃくちゃ面白いと確信してからは、大体の活動を把握するようにしている。なので、本当にこの1年ぐらいの動きしか、ちゃんと知らない。そのため、少し前からの変化とかはあまり分かっていないのが正直なところなので、その意味では表面的な見方になっている部分はあるかもしれない。

    2点目は、本来こういうことを書くときは、ある程度インタビューなどをしっかり確認したうえで、書いていくものだと思うし、普段はそれなりに意識するのだが、今回はあえてそれをせずに、自分の思ったことをそのまま書きたい。これを書いているときまでに出た「Wonderland」関連の記事は、ざっと読んではいるので、適宜そこから引っ張ってくることはするが、あまり引っ張られすぎたくないという意図がある。曖昧な記載も多くなること必至だが、容赦いただきたい。(同様の理由から、4/27に開催されるアルバムについて色々語るイベントの前に書き終えてしまいたいということもあり、ここに至っている。)

    人生は何秒 あと何度夏は来るの?世界って終わるの?
    たまに無駄遣いしたってやりたいことやるだけ
    それで毎日は続く レコードは行ったり来たりズクズク
    365×5のマーチ 一番盛り上がるのはどのパーティ?

    ー OK!

  • 5人の個性。コロナ禍での活動を経て。

    メンバー5人のことについて書くが、その前に全体的な話を書けば、この1年はコロナ禍の影響で、これまでのリリスクの主戦場だったライブはほとんど出来なかった。もちろん全く出来なかったわけではないが、毎週のようにライブをやっていたという時期と比較すれば、微々たるものだっただろう。しかもメンバー同士も満足に集まれないような状況下。そうした中で、重要なのは個々人が何をできたかということだろう。各メンバーは、そこをちゃんと理解して、各々が自分の強みを伸ばす活動を出来ていたと思う。その結果が、今作にしっかり表現されていると思うし、加えて、シンプルなラップの上達を感じるという点では、地道な練習を怠らなかったのだろうという点も感じる。

    そういえば、去年のリリスクは結成10周年記念のトークライブにて、親交が深い振付師の竹中夏海が、今のリリスクに対して、普段の生活では交わらなそうな、それぞれ違った個性を極めているこの5人は、アベンジャーズのようだというニュアンスの発言をしていた。まさしくと思う。今の5人は、それほどまでに、それぞれの個性を突き詰めてきているというわけだ。

    ヤベーヤベーって
    ずっとダベってる
    今そんなことしてる場合じゃん

    ー YABAINATSU

    ここからはメンバーそれぞれについて。

    yuu:とにかく多彩な活動が目立った。特にグラビア活動は、本人にとっても、グループにとっても大きな挑戦であったことは間違いないだろう。しかしそこで彼女自身が表現について学ぶ機会となったと語っている点は重要だったと思う。他にも、好奇心旺盛な彼女らしく、インスタライブで映画を見たり、ブラガでいわゆるアイドルらしい曲をやってみたり、ギターにチャレンジしてみたり。料理はあまり出来なかったみたいだが、そういう経験を糧にして、どんどん表現が豊かになっていく。こういう経験はスキルに直結するものではないかもしれないが、奥底に積み重なっていくものだろう。それにしても、最近の彼女のラップの鋭さには特に目を見張る。大体どの曲にも、ハッとさせられるフロウがあるのが凄い。

    hinako:リリスクの可愛い担当は、その可愛さにどんどん磨きをかけている。ブラガはもちろん、最近は特にTikTokでの活動を頑張っているようで、結構有名になりつつあるようだ。その可愛さは誰もが認めるところなので、TiKTokから話題になる日も近いかもしれない。看護師とアイドルを両立する頑張り屋は、今作では、可愛いをつらぬきながらも、全く違う面も見せている。このギャップがさらに可愛さを引き立てていくのは間違いない。

    hime:リリスクの中でもヒップホップへの詳しさはピカイチなのは相変わらず。最近は、リリスクの音楽をしっかりと広めていくという活動が多いように見える。例えば、音楽についてがっつり語るポッドキャストTALK LIKE BEATS」に一人で出演したり、記事のインタビューも一人で受けるケースが多々見受けられるので、リリスクの顔として、表に立つんだという自覚すら感じる。彼女のその耳は確かだし、だからこそリリスクを客観視できている。ポッドキャストを聴いてそう思ったし、加えて、この人こんなにしっかり話せるのか!と思ったので、ぜひ、もっと色々語る場があると面白いのではないかと思った。
    アイドル全開のhimeもめちゃくちゃ可愛いのだが、最近はその可愛いさを無理に追い求める必要がないという境地に至り、肩の力が抜けたバチバチにカッコ良いラップを次から次へと見せており、それがこのアルバムにギュッと詰まっている。大学も無事卒業して、今後どのような活動をしていくのかは注目が集まるところだ。

    risano:risanoはフリースタイルラップに挑戦をしている。もともとはhimeへのオファーだったが、相談の結果risanoになったという経緯らしいが、リリスクとしても大きなチャレンジであるし、risano本人としてもめちゃくちゃ大変だろうと思う。それでも、リリスクメンバーとして、本物のヒップホップの場に出ていくことへの恐れを振り切って、楽しみながら、真正面からぶつかっている。これはリリスクの中でも確実に彼女しかできないと思う。この勢いが、リリスク自体にも勢いをもたらしているなと、アルバムを聴いても思う。

    minan:もともと個人での活動が多いminanは引き続きラジオなどで、話す仕事を着実に増やしているし、ソロではギターに挑戦したり、大喜利も本気でやったり、徐々に個人の活躍の場を増やしている。レキシの楽曲にも参加し、レキシネームとしてMC旧石器ももらっている。活動一つひとつに安定感があるのが彼女の凄さだと思う。彼女がいるから、彼女の凛とした佇まいと歌があるからこそ、リリスクとしてまとまっているとすら思う。それが、このアルバムを聴いて、より一層感じることだった。

    ご飯を食べたら昼寝する
    今日やることを今日決める
    天気予報は知らないし
    傘がなくたって死なないし

    ー Fantasy

  • 全曲について書いてみる

    ここからは、1曲ずつ簡単に、自分が感じたテーマに沿った流れと感想を書いていく。

    1. -wonderland- (skit)
      Curtain Fallのイントロを切り取ったかのようなプロローグ。この曲の位置づけがよくわかる。このskitだけを聴くと、リリスクらしくないのだが、「Welcome to the Wonderland!」の掛け声で景色が一変する。
      ここから、"Wonderland"の世界が始まる。

    2. MONEY CASH CASH CASH
      ALI-KICKの最高にかましている曲で、本編が始まる。RHYMESTER宇多丸さんがアフター6ジャンクションで話していたが、前作同様、この本編1曲目を、ALI-KICKの楽曲で、しかも良い意味で、リリスクらしくない曲をぶつけてくる気概が、それだけで、もう良い。
      "Wonderland"の入り口がお金の話というのは、どういうことだろうか。お金というリアルと接続させる話題でありながら、リリックでは想像力溢れる世界観が繰り広げられる。これから夢の世界に入り込んでいくための、通り道というあたりかもしれない。
      音も非常に今っぽいうえに、リリックは思いっきりお金のことをラップしていく。非常にアイドルらしくない。流石である。それにしても、本当に5人それぞれのフロウが多彩になったとこの曲を聴いても、ひたすらに思う。どこのフロウを切り取っても、イカした踏み方をしていて、表現力のバリエーションと深みが一段と増したのは、前作からの大きな進化なのは間違いない。そのうえ、こういうカッコ良い曲の中でも、ちょっと可愛らしいラインだったりフロウが顔を見せるというバランスはリリスクにしかできないと思う。

    3. OK!
      続いては、ちょうど1年ほど前にリリースされた、リリスク流のトラップの次を見せつけたチューン。こちらは、「MONEY CASH CASH CASH」に続き、ALI-KICK、そしてアナの大久保潤也による楽曲。himeの1stバースで「タイムってお金じゃん」というラインから、「MONEY CASH CASH CASH」からお金の話題の繋げてきたのかもしれない。お金=時間はがっぽり稼いで、いくらあったとしても、やりたいことがありすぎる彼女たちには全然足りないわけだ。
      この曲は個人的な2020年のベストソングに選ぶぐらい好きな曲で、ここからリリスクを追い始めたわけだが、今聴いても、0:01から3:29まで、隙が一部もなさすぎると思う。ここにリリスクの一つの理想の形が結実しているのではとすら思う。意図的ではないとはいえ、コロナ禍の状況にもマッチしてしまうリリックにもグッとくる。あまりに前向きすぎるという見方もわかるのだが、だからこその力がある。

    4. Danger Treasure
      比較的リアルに近い世界観の2曲を経て、ここから世界のディープな場所を巡る旅のような楽曲ゾーンに入る。この曲では、後ろで多様な動物の鳴き声のようなサウンドも聴こえてきて、まさしく南米のジャングルをクルーズしていくかのよう。こちらはKick a Show・Sam is Ohmとの共作で、「Dance The Night Away feat. Kick a Show」に引き続きのリリスク楽曲への参加。
      パッと聴いた感じは今っぽい音なのだとは思うのだが、独特の雰囲気を纏った曲だ。どこか歌謡曲を彷彿とさせるような音使いだし、何よりリリックも、引っかかりがある。一つひとつの言葉遣いが、ラップというよりは、歌謡曲の歌詞のようなフレーズが多いし、その音のはめ方が結構強引なので面白いのだ。例えば、"立ち入ると危ないわ/触れられないわ"というラインの、最後の"わ"は、リリスクではあまり見られないような語尾のように思うし、このあたりがちょっと古き良き楽曲の匂いを醸し出している。また、「このクルーズは大変危険」というフックの締めのラインも、なかなかに大胆だと思う。"大変危険"って、めっちゃ普通な言葉で、しかも強引に詰め込んでいるように聴こえる。それでも、ちゃんと曲の雰囲気にはまっているから、逆に癖になる響きを生んでいるように思う。

    5. YABAINATSU
      上田修平とアナの大久保潤也による、リリスクでのバイレファンキをベースに作り出されたこの曲は、さらにカオスで、南国のトロピカル感溢れる1曲。
      なんというか、とにかく意味の分からない音がそこかしこになっていて、どうやったらこんな楽曲が出来上がるのかよくわからないが、展開も、ラップも、盛りに盛りまくっていて、ブチ上がる夏曲に仕上がっていて、凄い。ちょっと意味わかんないヤバい曲なので、うまく書けないな。とにかくライブハウスで大音量で聴いて、爆踊りしたくてしょうがない。

    6. SHARK FIN SOUP
      ここで、今回のアルバムでもっとも世界観がディープで、オリエンタルな様相の楽曲。場面は中国に移動か。「SHARK FIN SOUP」は、"ふかひれスープ"の意味だ。
      okaerioのトラックも不思議な響きがあって面白い。トラックは、バスドラムを連打しまくる箇所が、バグっている感じがあって、好きだ。そこにvalkneeの世界観がめちゃくちゃに作りこまれてたリリックが乗っているのだが、これは一体どういう歌なのかは、いまいち分からない。そのまま受け取ると、ふかひれスープを回るテーブルで奪い合う話?リリックの内容が、メンバーそれぞれの箇所で、全く別の場面の話をしているかのように展開しているので、何かのアナロジーなのだとは思うが、どうだろう。そういう面も含めて、今回のアルバムの中でも、かなり攻めた、アルバムだからこそ出来る曲だと思う。

    7. -earthbound- (skit)
      ここで前半戦終了。世界の果てまでたどり着いてしまった一行。もう行く先はないかと思ったら、まさかの空への誘い。ここまでは地球上の話だったが、ここからは地球から離れた話へと展開していく。

    8. Fantasy
      空も飛べてしまう、ファンタジーの世界へ。chlmicoのRachelが、chelmicoでもタッグを組んでいるryo takahashiと共にリリスクのために作成した楽曲。
      アイドルの楽曲として、空想の世界で自らの望むような世界を作りたいみたいなテーマはよくあると思うが、この曲は少し雰囲気が違う。トラックもリリックも、可愛らしさはあって、リリスクらしさがあると思うのだが、アイドルとしての葛藤や苦難が表現されている。Rachelが、この曲を歌うときは、リリスクのメンバーが、自分たちのために、楽しく歌ってほしいということを言っていたと思うが、その気持ちがストレートに表れている。でも、それを深刻に歌うのではなく、あくまでラップに乗せて、誤解を恐れず書けば、軽快に言葉にしているというのが、リリスクの凄みだろう。
      そういえば、トラックもこの曲は凄いんだった。バースでは、低音が効いているのが印象なのだが、フックに向けての展開が面白すぎる。フックのあとに、さらにフックが来る感じ。プレフックというみたいだが、一段目のフックだけでも、一気にめちゃくちゃキャッチーになったなと思っているところに、さらにキャッチーを被せてくる。この、木琴?的な音が鳴りまくるフックは、衝動的に走り回りたくななってしまう。バースとの対比で考えると、さらに面白い。バース、ほぼ低音だけだったよなと。おそらくインストだけで聴くと、印象がガラッと変わる楽曲だろうと思う。

    9. TIME MACHINE
      KMとLil' Leise But Goldがプロデュースしたこの楽曲は、まさしく今のヒップホップをど真ん中で捉えて、リリスクで表現し切った楽曲だ。場面は空想の世界から、タイムマシンで時間の旅に出る。
      オールドスクール的な音と、今の音を縦横無尽に行ったり来たりするトラックは、まさしくタイムマシン。しかも、最後はhyperpop的な未来の音の顔も見せる(そういえば、Let's Goの掛け声はrisanoだろうか?めちゃくちゃ良い。)。流石はKMプロデュースといったところか。
      リリックは、最初のhimeのフレーズから、バチバチにカッコ良いのだが、繰り返されるフレーズをhinakoが歌っていることには、しばらく気づかなかった。こんな声出せたのか、himeが歌っていると思い込んでいた自分の耳は腐っているのかもしれないが、とにかく予想だにしもなかったわけだ。英語の発音には大分苦労したようだが、かなり様になっているように思う。
      この曲は、minanの歌の強さにも改めて感じさせる。歌パートはyuuも務めることが多いと思うが、この曲にはminanの歌しかハマらなかっただろう。minanの安定感抜群の歌が、楽曲の軸としてドンと構えているからこそ、フックの裏でのyuuの可愛い合いの手が映えるし、合唱曲のように被せる、hinakoやyuuによるメロディーのハミング(hinakoだけかも)が、童謡のように聴こえてきて、懐かしさを覚える。こうやって多彩なコントラストを生み出せるのは、リリスクの面白さだ。

    10. Bright Ride
      「Tokyo Burning」に引き続き、PESプロデュースの1曲で、場面は、地球から離れ、メンバーは宇宙へと飛び立っていく。
      リリスクの新機軸と言えるだろうこの曲は、とにかく全編通して浮遊感がある。特に、yuuのストレートなフックの歌が印象的だ。(risanoとの掛け合いも良い。)アゲアゲというわけでも、落ち着いているというわけでもなく、ミドルテンポで絶妙なバランス感覚を狙って、ばっちり仕上げた曲だろう。メンバーも言っていたと思うが、まぁアゲアゲの曲は分かりやすく盛り上げれるが、こういう楽曲は、それとは違った表現の仕方が必要なので、それができるようになったのは、大きな成長の結果であることは間違いない。

    11. FIVE SHOOTERS
      宇宙の旅は終盤へ。5人メンバーそれぞれが、惑星になったかのように、宇宙を巡った果てに、地上に降り注ぐ。
      高橋コースケ作曲の元、2曲目の登場のvalkneeのリリック。こちらでは、真正面からど真ん中のポップを打ち抜いたかのようなストレートな言葉が並ぶ。トラックも比較的分かりやすく、このアルバムの中でも聴きやすさ・分かりやすさはかなり高い部類に入ると思う。ディープな楽曲もできるし、こういうストレートにポップでキャッチーな曲も、抜群にこなしてしまう。これぞリリスク。

    12. Bring the noise
      ここで場面はガラッと変わる。宇宙から地上に戻ってきたようで、しかもかなり身体に近い距離での話になる。何でもない、けれど何だか幸せな日常のシーンの話。だからこそ(と言っていいと思うが)、ここから3曲の楽曲の制作陣も、リリスクをいつも支えている定番のメンバーになる。
      この楽曲は、このアルバムの中でもキャッチー度が最高に高く、いわゆるリリスクっぽさがあるかという視点では断トツかもしれない。とにかく可愛らしい。頭のyuuの掛け声から、音もリリックも、すべて。
      ただ、リリックの意図するところは図りかねている。そのままストレートに恋愛の話か、いやそれだけではない気がする。曲がポップでキャッチーであるが故に、こういう引っかかりが逆に興味深くて良い。

    13. Curtain Fall
      さぁ、物語は最終盤。「-wonderland- (skit) 」はこの曲に繋がっている。この曲が、この作品の終わりを告げるということだろう。「Curtain Fall」はまさしく"終幕"だ。"Wonderland"の出口はすぐそこ。
      イントロから衝撃。拍子が明らかに普通ではない。数えてみると、どうやら9拍子のようだ。しかも、メトロノームの音はちょっとズレているし、ポストロックの音だし、頭の中が?でいっぱいになる。
      そこにminanからラップをしていくわけだが、9拍子に規則的に乗せていくわけではなく、物凄い譜割でラップしていく面々に驚愕しかない。自分はいまだに、どうやってリズム取ってラップしているのか分からない。。。
      そしてフックから、鳴り響き始める優しい轟音。まるで、雨が降りしきるかのよう。そしてハイライトは最後のhimeのバース。ラインもフロウも、完璧すぎる。
      さて、"Wonderland"という夢の世界はここで終わり。盛大な打ち上げ花火の後、この世界は、幕が下りるかのように終焉を迎えてしまう。リリックの節々から、もしかしたら、これは映画の話だったのだろうかとも思う。映画が終われば、我々は現実の世界に引き戻される。幕が締まり、フロアに灯ったライトを見る。最終曲の"SEE THE LIGHT"へ。

    14. SEE THE LIGHT
      "Wonderland"は終わった。元々「Curtain Fall」でこのアルバムは終えるはずだったという話をどこかで読んだ気がするが、本当にそうだったのだと思う。この曲は明らかにエピローグだ。製作期間が全くなかったみたいだが、そういう時に出るのは、これまで積み重ねてきたもの。ここに新体制のリリスクの底力が詰まっているように思う。
      "Wonderland"からは退園してしまったが、家に帰るまでが遠足である。遊園地の帰り道。ひたすら楽しかったという記憶と、遊びすぎた疲労感の中、これから現実に戻るという何とも言えない複雑な感じ。もしくは、映画を見終えて、作品の世界から現実に戻り、席に座り続けながら、ぼーっと感動に浸る感じ。そういった感情が、この楽曲には詰まっているように思う。
      明らかにChance The RapperやBrasstracksを意識したような、ブラスを用いつつ、ゴスペルのようなハモリ。多幸感。この言葉がぴったりくる。
      でも、ここはもう現実。良い事ばかりでない。そういうことが、リリックの節々から滲み出ている。しかしそれでも。そういうリリスクとしてのステイトメントというかコミットメントというか。そういうものが、十二分込められた楽曲なのだと思う。まさしく、3部作を終わらせる楽曲だ。
  • 「Wonderland」とは、何なのか?

    さて、「Wonderland」はどういうアルバムだったのだろうか。タイトルの通り、空想の世界すら自らのものにして作り出した遊園地を巡る物語だというのは確かだろう。しかし、そこにはまだ何かがある。

    改めて3部作を簡単に振り返ってみれば、「WORLD'S END」はタイトルからして、世界の終わりを意識した物語だった。SFチックなジャケットも印象的で、1日を巡るような曲順であり、比較的自分の身から近い位置から、空想の物語を綴ったように思う。
    続いて、「BE KIND REWIND」では、自分たちの青春を巻き戻す物語だった。良かったことも、悪かったこともあるかもしれないが、決して過去に安住するのではなく、そこを見つめて、そこから今を更新していく物語。
    そうした流れの中での「Wonderland」。これは様々なアトラクションを備えた遊園地の物語。さて、ここに通ずるものは何だったのだろうか。

    ネガティブなことだけ
    本音だって思われちゃって
    ポジティブなことだって
    別に嘘じゃ
    無いのにね
    アイロニー
    これっきり最後にして
    アタシ、アタシのためだけに歌うの

    ー Fantasy

    それは、"フェイク"ということではないだろうか。SFなんてまさしくフェイクであるし、青春の記憶というのも決してリアルではない。時には自らの都合の良いように記憶を書き換えてしまうことだってある。遊園地も、自らの希望を投影したフェイクだと言えると思う。
    しかし、ここでいう"フェイク"は別に悪い意味ではない。"空想"や"想像"という意味合いでもあるからだ。そういう力を最大限活用して、物語を描き出そうとしたのかもしれない。

    しかし、この視点で改めて「Wonderland」を見ると、ちょっと違う見え方をしてくる。それは、これは実は、リアルとフェイク。ヒップホップとアイドル。その狭間の揺らぎをとらえた作品だったのではないかということだ。
    確かに、このアルバムのコンセプトの表現を担っているだろう終盤2曲には、"ヴァーチャル"、"リアリティ"、"Fake"、真実"といったのワードも散りばめられている。

    次の一万円札の絵柄はアタシ……

    次の一万円札の絵柄は アタシだっ!

    ー Fantasy

    himeがインタビューで、「ヒップホップってリアル至上主義だけど、アイドルって極上のフェイクじゃないですか」と言っていて、ガツンとやられた。まさしくだ。ヒップホップはリアルなことをラップすることが良いことだとされているし、アイドルはそういうリアルは逆に隠すように求められる。そういえば、BABYMETALが海外に出ていったときも、確かに良い曲かもしれないけれど、操り人形が歌うのを見て面白いのか?みたいな批判が出ていたようなこともあった気がする。それは確かに事実そうなのだ。それと同じような葛藤を、ヒップホップアイドルユニットという形態を取っている以上、BABYMETALよりも本質的な矛盾を、リリスクは構造的に抱えていることになる。年数を重ね、スキルを身に着けて、ヒップホップに接近すればするほど、この葛藤は大きくなっていくだろう。なんとしんどい立ち位置なことか。

    個人個人の活動でも、この葛藤は見え隠れする。特に、risanoのフリースタイルへの挑戦なんてまさしくだろう。リアルとフェイク。これに彼女たちは至極近い距離で向き合い続けているのだ。

    打ち上げ花火が 音もなく音もなく夜にとけてなくなると
    ほどけた手と手で 2人は今夜世界の秘密に触れる TONIGHT TONIGHT

    ー Curtain Fall

    世の中も、リアルとフェイクの中で揺れ動いている。「何がリアル/何がリアルじゃ無いか/そんなことだけでおもしろいか」とtofubeatsは数年前に歌っている。当時も大概だったが、今でもその呪縛からは一行に逃れられる気配はない。むしろ、コロナ禍という、だれも予想だにしもしなかった、フェイクのようなことが、リアルに起こってしまっている。何がリアルか、何がリアルじゃ無いか。それをより一層意識せざるを得ない。
    そう思えば、"言葉"はリアルか?フェイクか?リアル至上主義として、ぶつけ合う"リアルの言葉"は、本当にリアルか?そもそもリアルとはなんだ。"言葉"にした瞬間に、零れ落ちる何かは確実にあって、それはつまり、フェイクであるとも言えるのではないか。何が何だかよくわからなくなってきた。

    え?ここが最果て? Like a GAME 行手にはでかい壁
    そうか 地図の外の世界は全部 誰か描いた絵
    恐る恐る触れると 波を打って揺れるよ
    徐々におおきくなって 挙句 落ちる景色のカーテン

    ー Curtain Fall

    人間の文明は「虚構」の上に作られた。その「虚構」を信じる力が人間にはあったから、ここまで繁栄することができたのだと、言う人がいる。これはフェイクの価値を語っている。
    一方で、世界は存在しないと語り、もっと様々なモノが実際に存在するという考え方から、理論を再構築するというような、リアルの価値を見直すような動きもある。
    リアルとフェイク。どちらが上か。そういう話ではないのは、確かだ。

    Fakeの月が照らしだすMidnight この世界はいつでもStill bright
    まだ起きてる人 眠る人 もう二度と起きない人

    ー SEE THE LIGHT

    そうして、「Wonderland」を見直せば、一見すればフェイク寄りの話かもしれないが、その物語を終えて、エピローグ的に奏でるゴスペル「SEE THE LIGHT」は、明らかにリアルを語っている。もしかしたら、リリスクはこのアルバムで、リアルとフェイクを等価に扱おうとしたのかもしれない。アイドルというフェイクの中で、ヒップホップというリアルの中で、その両面から葛藤してきた彼女たちだからこそ出せる答え。それは決して正解かどうかとかそういう話ではなく、実感をもって、手触りをもって、表現すること。それが重要だった。そして、見事それをやり切った。そう思う。

    困難to困難 でもまだ行こうな
    たったひとつの真実 Like a 江戸川コナン

    ー SEE THE LIGHT

    「明日、急に世界が終わる/可能性があるなら」と言って幕を開けた3部作は、「私の手の中には/何か残るかな/SEE THE LIGHT/やさしさを/あなたが眠るまで」と言って終結する。何がリアルか、何がフェイクかなんて最早よく分からない世界の中で、例え世界が終わったとしても残るものは何なのか。リリスクとして出来ることは何なのか。そういうことを考え抜いた結果。それがこの最後の1フレーズに詰まっている。そのように思う。

  • おわりに

    海とかRiver 超えて 愛のBeliever 結局は全て失くしてしまった今
    巻き戻して巻き戻しても世界の終わりだ また始めようここから Let's go

    ー SEE THE LIGHT

    好き放題書いた。自分でも何を書いているかよくわからないし、論理的でない点とか表現が不十分な点がたくさんあると思うが、とにかく書きたいことが書けたので良かった。こうやって色々考えさせてくれる作品は好きだ。
    さて、一つのマイルストーンを迎えたリリスクだが、ここからどうなっていくか。この路線をさらに推し進めるのか。それとも、またガラッと変わった何かを仕掛けるのか。それとも。でも、どれを取っても、この作品を作り上げたチームがする選択であれば、面白いに決まっていると思える。ただ、正直な思いを言えば、まだまだこのチームにはポテンシャルがあるはず。もっともっとシーンをかき回してほしい。この充実のアルバムを作り上げた傍から求めてしまうのは酷かもしれないが、今から次の展開が楽しみだ。

    私の手の中には 何か残るかな SEE THE LIGHT やさしさを
    あなたが眠るまで

    ー SEE THE LIGHT

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