選択の痕跡

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BABYMETAL「Metal Galaxy」にて、"KAWAII METAL"からの脱皮を感じた話

Metal Galaxy

Metal Galaxy

  • BABYMETAL
  • メタル
  • ¥3200

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自分は、比較的初期からのBABYMETALファンだと思っている。2013年にイベントで初めて観て衝撃を受け、そこから2014年に一気に引き込まれた。
BABYMETALとしても2014年が大きな飛躍の年で、1stアルバムを発売し、武道館でのワンマンライブ成功や、イギリスのソニスフィア・フェスティバルでの衝撃等々、一気にメインストリームに躍り出たと記憶しており、階段を駆け上がっていく様子を見ているのはとてもワクワクしたし、楽しかった。

そこで彼女たちが評価された要素は大きく分けると以下の2点だったと考える。
ひとつは、KAWAII要素をメタルと融合させ、"KAWAII METAL"とも呼ばれる音楽を確立し、それまでは禁忌とさえ思えるような試みを行ったことへの驚きと面白さという面への評価。
もうひとつは、その奇抜さもさることながら、音に徹底的な拘り、本格的なメタルの要素もしっかり兼ね備えた音楽と、メンバーのプロフェッショナルな姿勢から生み出される歌とダンスで、高い質のエンターテイメントを提供しているという面への評価だ。

2014年以降も、彼女らの快進撃は止まらず、世界中を飛び回りながら、数々のライブをこなし、有名海外アーティストとのコラボも多数するなど、その活躍は留まるところを知らない。

しかし、自分はファンになった当初から「"KAWAII METAL"をいつまでやり続けるのか?いつまでやり続けられるのか?」といった疑念を常に持ち続けていた。
KAWAII METALにはBABYMETALとしての先のビジョンが見えなかった。
現在では20歳を超えた彼女らの、その驚くべきアイドル性の高さから、今でもKAWAI METALを十分にやり切れるものの、果たしてそれがいつまで続くのか。
そこに、先を感じなかったことから、綺麗な形でこのプロジェクトを完了させることが、豊かな可能性を持つ彼女たちのためなのではと考えていた。
特に2018年。YUIMETALが脱退し、これまでの完璧な3人編成を保つことが出来ない状況での活動には、面白みを感じなかったのが事実だった。
ぽつぽつとリリースされる新曲も、イマイチしっくりこず、正直ここまでだろうなと思っていた。

前置きが長くなったが、このような個人的な状況の中で発売された3rdアルバム「METAL GALAXY」。
このアルバムは一聴してとても良いと思った。特にアルバムで初めて公開された新曲たちの素晴らしさが際立った。
そして何より、これまで彼女たちが評価されていた2つのポイントとは、また違った方向へのチャレンジが感じられたのが良かった。
そういった意味で、この会心の作品について、思ったことは2つある。
まずひとつ目は、SUMETALの進化だ。
正直に言って、ここまで歌えるボーカリストだとは思っていなかった。彼女の特徴は、その強くて、真っすぐな声。その特徴を最大限に生かせる場がメタルであり、それがこれまでのBABYMETALの最大の特色とも言えたと思う。
それが、この作品では、細かな表現力がぐんと増していた。
“Brand New Day (feat. Tim Henson and Scott LePage)”は、こちらでも言及されている通り、宇多田ヒカルが歌っていてもおかしくないと思えるほどの曲調だが、それを見事なまでに表現しきっている。
この急激なまでの進化はなぜ起きたのか。それは、YUIMETALの脱退もひとつ大きな要因ではないだろうか。
今作の歌からは、メタルという枠組みを超えて、BABYMETALを背負うという、強烈な意思すらも感じる。
前作から今作にかけて、色々な経験をしたSUMETALが、それを全て歌に昇華したと考えれば、今作の進化にも強く頷けるし、彼女は生粋のシンガーなんだなとも思う。

思ったことのもうひとつは、KAWAII METALに囚われず、JPOPを含めた世界中の音楽すらも飲み込む節操のなさの追求という点だ。
もともと、メタルの要素は入れるということ以外に、ジャンルへの拘りなどなかったのだと思うが、今作では各所でも言及されている通り、世界中の音楽ジャンルをメタルに融合させることに成功していると思う。
"DA DA DANCE (feat. Tak Matsumoto)"は小室哲哉が手掛けていたような90年代のユーロビート感があるし、"Shanti Shanti Shanti"はインドやパキスタンバングラビートを取り込んでいる。
“↑↓←→BBAB”はエレクトロ要素満載の中に観られるJPOPらしさからPerfumeの匂いも感じられるし、“Night Night Burn!”は完全にラテンの様相だ。
極めつけは、“BxMxC”。トラップのようなビートに合わせてラップをするSUMETALには、驚きしかない。(余談だが、SUMETALのラップはもっと聴いてみたいと思った。オートチューン満載で本気のラップをしたら、その声とも相まって非常に面白いのではないだろうか。)
ここには、"KAWAII METAL"を追及するという姿勢は、自分には感じられなかった。
逆に、自らを縛り付けていた"KAWAII METAL"からの脱皮ともでも言えるぐらい、より多様な音楽を追及している。
JPOPらしさも垣間見える辺りは、賛否が分かれるところかもしれない。Pitchforkのレビューの点数が振るわないのも、そのあたりが大きな要因なんだろう。
しかし、今後彼女たちが歌い続けられる音楽という意味では、非常に良い傾向だと思う。

埼玉スーパーアリーナでのライブでも、アベンジャーズを迎えてのシンプルな3人編成で、小細工なし。
ワンマンでもなかったことから、曲はいわゆるメタルらしいものが優先して演奏されたことは、個人的にはやや不満だが、逆に見れば、今後の楽しみを残してくれたとも見ることが出来る。

このように今作は、これまでのBABYMETALから大きく進化した1枚と言えるのではないか。
しかし、ここまで書いておいてなんだが、この自分の見方は、まず一聴した際の印象が色濃く反映されている。
改めて過去作を聞き直したり、何度も今作を聞き直していると、あくまでもこれまでの作品の一直線上かもと思う点もあり、上記の見方は少し都合の良い見方をしているかもしれないと思う。
それでも、まだまだBABYMETALというプロジェクトは我々を楽しませてくれるポテンシャルがある、それだけは間違い無いなと、そう強く感じるアルバムだ。

素晴らしいと評した今作も、アルバム全体が手放しで称賛できるかというとそうではなく、過去作の焼き増しに思えるような曲もなくもない。加えて、BABYMETALを綺麗に終わらせて、彼女たちを次のステージに向かわせて欲しいと常々思っていたし、今でもその気持ちがないわけではない。今後BABYMETALがどうなるかも、いつもの通り良くわからない。
それでも、これまで築き上げてきた"BABYMETAL"らしさを次々ぶっ壊しながら、彼女たちのやりたいことを含め、これまで以上に様々なことを成していく姿を観るのも非常にチャレンジで良いのかもしれない、そんな風に思えるような作品だった。