選択の痕跡

音楽・テクノロジー・哲学

「CROSSING CARNIVAL'19」に行って、少し先の未来にある"明るい日本の音楽"を観てきた話

2019/5/18(土)に、「CROSSING CARNIVAL'19」に行ってきた。
カルチャーWEBメディア「CINRA.NET」主催のサーキット型フェスだ。
名前の通り、クロスオーバーを意識したイベントで、ゲストとのコラボやトリビュートなどが試みられる点が特徴的で、面白い。
2017年の年末にも、このイベントに参加したのだが、その時同様、いやそれ以上に今回は、ラインナップが凄まじかった。
だから、もともとハードルはとても高かったのだが、実際に行ってみると、そのハードルを優に超えてくる、密度の濃いイベントで、これは書き残しておかなければいけないと感じた。
少し先の未来にある"明るい日本の音楽"を観ることが出来た、心に残る1日になった。
特に印象深かったアクトについて、書いていく。

crossingcarnival.com

www.cinra.net

 

  • 蓮沼執太フィル:バンドの未来。

まずは蓮沼執太フィルについて書きたい。
やっと観れた。という感想。
ずっと観たかったが、タイミングがうまく合わなかった。
このフィルを、まさかこういった形のイベントで観ることが出来ると思っていなかった。
この日は、ゲストの高野寛含め、総勢14名の構成。
それだけに転換も慌ただしく、かなり大変そうだった。
1時間あったものの、若干押してスタート。

始まってしまえば、これがプロか、という思わされんばかりのパフォーマンス。
多幸感というか神々しさが溢れていた。
音の一つ一つの重なりが、違う。
クラッシックのオーケストラのような構成でポップスに取り組む彼らの音楽は、世の中には、なかなかない。

今更ながら、"フィル"の意味を調べてみると、オーケストラの名によく使われるらしく、"フィルハーモニック(直訳すれば「和声を好む人」)の略。"とのこと。
蓮沼執太フィルをバンドという枠組で考えるべきではないかもしれないが、バンドの勢いがないように思える昨今の状況において、"和声"のように、一つ一つの音の重なりを現場で追及する彼らは、バンドが追及すべき一つの形のように思えた。
これが生活に溢れる世界であってほしいな、と思うようなアクトだった。

 

  • パソコン音楽クラブ、長谷川白紙:電子音楽の未来。

次は、パソコン音楽クラブ。
こちらも今回やっと観れた。

なんというか、WOMBでライブを見たのが初めてで、クラブ系の箱ということも相まってか、低音の響きがえげつなくて、アーティスト名やメンバーの個性と音のギャップが面白くて笑ってしまった。

特に、9月ごろ発売予定というアルバムに収録される予定との長谷川白紙との1曲が、めちゃくちゃに良かった。
長谷川白紙らしい音数の多さはそのままに、パソコン音楽クラブの心地良い雰囲気がうまくミックスされた1曲で、それぞれの良さが最大限に発揮されていた。

長谷川白紙の音楽は、なかなかにカオスなので、踊るという感覚とは少し違う音と思っていたが、この音楽がパソコン音楽クラブとコラボすることで、最高のダンスミュージックになったように、その他のエレクトロ、クラブミュージックのアーティストとコラボしていくと、さらに新しい景色を見せてくれる、そんな予感がした。

 

  • VaVa、BIM:HipHopの未来。

次は、HipHop系を2組。
どちらも今回初めだったのだが、今まで自分が観てきたHipHopのライブとは明らかに違う雰囲気に溢れていた。
とにかく、盛り上がりが凄い。
PUNPEEや、SUSHIBOYS、KID FRESINOなど、それなりに観てきたはずなのだが、そこで感じた空気感とは、まるっきり違った。
どちらかと言えば、ロックバンドに近い熱狂だった。

特にVaVaのライブが、こんなに"アガる"ライブだとは、完全に度肝を抜かれた。
楽曲は、どちらかというと、しっとり踊る系だと思っていた。
でもVaVa本人も、めちゃくちゃ煽るし、オーディエンスもそれに答えてシンガロングも起きる。
箱の音の効果もあったと思う。あれだけ低音が響く環境は記憶にない。

VaVaだけの話かもと思ったが、BIMの盛り上がりもVaVaと全く変わらない熱狂。
この2つのアクトで思い出したのは、去年のサマソニで観たHigher Brothersだ。
色んな国の人が、思い思いに楽しむHigher Brothersのライブは、日本と世界の間のある種のカルチャーショックみたいなものも感じたのが、それは少し間違った解釈だったのかもしれない。
日本のHipHopシーンの勢いは、自分が想像していたよりも、何倍も大きな渦を巻いて突き進んでいるようだ。
まだまだ、この勢いがとどまるところを知らない、そんなアクトだった。

 

  • 崎山蒼志、君島大空:シンガーソングライターの未来。

最後は、崎山蒼志、君島大空。
この日の幕開けを飾るアクトで、こちらも初めて見たわけだが、あまりにも凄すぎた。
この1日は終始驚かされ続けたが、このアクトに勝るものはなかった。
音楽観が揺さぶられた。

なぜ、彼らはギター1本で、あんなに豊かな表現が出来るのだろうか。
単純に考えれば、色んな音色があったほうが、表現は豊かになると思っている。
でも、彼らの音楽は、その次元を通り越しているのかもしれない。
彼らの歌と音からは、色が視える。景色が視える。物語が視える。生活が視える。人生が視える。
これがポップスか、これが音楽か。

あまりアーティストの若さにはフォーカスすべきではないと考えているが、高校2年生の崎山蒼志は、MCの初々しさも含めて、強烈な可能性しか感じなかった。
誤解を恐れず書けば、一気に日本中に浸透したあいみょんの系譜を継ぐのは、崎山蒼志、君島大空かもしれない。
彼と同世代のビリーアイリッシュが、海の向こうで爆発的な人気を獲得する一方で、極東の島国には、こんなに素晴らしいアーティストが生まれているぞ。

 

イベント自体については、これで以上なのだが、もう一つ触れておくべき話がある。
それは、今年突然現れたSSWに関する話だ。
浦上・ケビン・ファミリー、松木美定、MON/KU。
まだ曲を公開して間もない彼らや、その他要注目人物が、このイベントをきっかけにリアルでの交流を果たしたようだ。

確実にこの日をきっかけに、何かが起こる気がする。
いや、すでに起こっている。
この日は、その通過点でしかない。
しかし、一つのマイルストーンであったことには確かだろう。
日本の音楽の未来は明るい。

その名の通り、同時多発的に日本に起きている現象を、クロスオーバーしながら表現した素晴らしいイベントにて、心からそう思うことが出来る1日だった。